056 はりつかい
「メイナ様、そろそろ参りましょう! ここはあなた様がいるような場所ではございませんことよ」
「そうね……そこのお2人さんはいつでもウチに来なさいな。そこのポンコツよりも有効活用してあげてよ?」
「まぁ、メイナ様お優しいことですわ」
「えぇ、本当に。カミキ侯爵家の次期跡取りであられるメイナ様にそんなことを言っていただけるなんて、とても幸せ者ですわ」
「それではお2人とも、ごきげんよう」
そう言うと妹っ子とその愉快な仲間たちは立ち去って行った。
あいつはわざわざ嫌味を言いに来たのか?
まぁそれだけならまだ可愛げがあるんだけどね……こんなドリンクに毒を仕込むなんてまどろっこしいことまでやるなんて、ちょっとやり過ぎね。
おっと、みんなそのドリンクは飲んじゃダメよ。
3人がため息をついて、ドリンクに手を伸ばしたからそれを静止させた。
「どうかしましたか、サク?」
「このドリンクがどうかしましたの?」
「まさか……ですわよね?」
「サクが止める以上、これはもう飲まない方がよろしいでしょう。アタクシ、なにか代わりのものを取って参りますわ」
「え、えぇ……」
「それでは、お願いしますの」
そう言うとマイカは立ち上がって行ってしまった。
「はぁ……マイカちゃんはあんなにいい子なのに、どうして姉妹であぁも違うものなのでしょうか」
「アズサちゃん、それは違いますの。あれが、普通の貴族ですの」
「そう……ですわね。マイカちゃんが特別なだけなのですね」
「はいですの……」
「あの……サクちゃん? あなたはどうしてマイカちゃんを守ってくださるのですか?」
「あなたはマイカちゃんが貴族だからとか、カミキ家の人間だからとかいう理由で一緒にいるんですの?」
「……」
真っすぐと私の方を見て、そう口にする2人。
おそらく、私のことをよく知らないこの2人は不安なんだろう。
さっきの妹っ子が言うように、マイカが侯爵家だから近づいた人間なのかもしれないと。
本当にマイカのことを思っているからこそ、勇気を出してそう聞いてきたに違いない。
私はその勇気に応えなければならない。
【友達だから】
私は、小さな紙にこの世界の文字でそう書いて2人に見せた。
「っ?!」
「っ?!」
それを見た2人はとても嬉しそうにしていた。
「お待たせしましたです! お2人とも笑顔ですけど、一体なんの話をしていたのですか?!」
「ふふふ、秘密です!」
「そうですの! 秘密ですの!」
「そんなぁ、秘密事なんてひどいですぅ……」
そこでどうして私に抱き着く。
さっさと離れなさいよ、鬱陶しい。
その後はなに事もなかったかのように食事を終え、お風呂に入って眠りについていた。
《サクヤ様、きます》
そう……何人いる?
《数にして50名近くです》
50か……今日で一気に決める気ね。
《そのようで。特別な訓練を受けた暗殺部隊だと思われます》
私にくっ付いてスヤスヤと眠っているマイカをベッドへと寝かせ、空中機動術で窓の外へと出た。
この寮を4方から囲むようにやってくる暗殺部隊たち。
裏手からのやつはちょっとヤバそうね。
それ以外は分身体でなんとかなりそうかな?
そして表門側は……全くマイカもいい友達を持っているわね。
この寮の表門にはギアメタルを構えた2人の少女の姿があった。
そう、アズサとハズキだ。
どうしてこの暗殺者の襲撃に、2人が気付いたのか私にはわからない。
むしろ、たまたまかもしれない。
どちらにしても助かった。
あの子らの実力は、たまに夜の訓練を見ていたからよく知っている。
だからこの正面はあの子らに任せて大丈夫。
私は私の役目を果たそう。
『忍法、分身の術』
私は自分の分身体を5体出現させる。
スマコ、分身は全てアンタに託すわ。
各自、暗殺部隊を撃退して頂戴。
《御意》
さて、私は一番ヤバそうな気配がする裏手から来ている者を相手にしますかね。
その場をスマコに任せ、私は空中を走って移動する。
走っている途中から長細い針のようなものが飛んできた。
私はそれをアイレンズで見ていたので、瞬時に回避する。
「やはり出てきましたか……まぁ想像通りではあるのですが、アナタは一体何者なのです?」
「……」
やっぱりこいつか……確か名前はクリス。
マイカの侍女であり、実は妹っ子と通じているプロの暗殺者。
「まぁいいでしょう。ワタクシの仕事はあなたを誘き寄せることでしたので。さて、お時間までお付き合いください、ねっ!」
「っ?!」
クリスの腕にはめられていた機械から高速で針が飛び出してきた。
最初は一本の針だったから、それをギリギリ躱せたはずなのに、途中で針が拡散してその内の1本が左腕に刺さってしまった。
いったぁ……避けたつもりだったのに左腕に1本刺さったわね。
こいつは針使いか。
私は左腕に刺さった針を引き抜き、投げ捨てる。
気は抜いていなかったはずなのに、回避できなかった。
あんなギアメタルもあるのか……なんて厄介な。
「1本だけですか……これをここまで避けられたのは初めてですよ。しかもあなた、ワタクシの微細な筋肉の動きで、次の動きを予測しているようですね」
こいつ、なかなかいい感をしているわ。
確かに私はこいつの言う通り、動きを先読みしているだけだ。
スマコに分身体を任せている以上、今の私は未来視が使えない。
でも、アイレンズによりその体の動きを見極めることで、次の動きを予測して動いている。
「それでも1本刺さりました。あなたほどの手練れにはその1本が命取りですものね」
そう、この針の先端には毒が塗られていた。
転身機を突き破って私の体に直接刺さった以上、その毒が私の体の中にも入り込んできている。
スマコがいないから、転身機で傷口の応急処置もできない。
次第に針が刺さった箇所から痺れが広がっていき、それは左腕全てに広がる。
左腕はもう動かないわね。
さて、どうしたものか。
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