A14 再会の時
今日も別ルート編進めますの。
使用人の思わぬ言葉に固まるアタシとハズキ。
「い……いま、なんと?」
「もう一度、お名前を教えてほしいですの」
「マ、マイカ・カミキご令嬢様でございますが……あっ、お二方?!」
その名を聞いた瞬間にアタシとハズキは走り出していた。
溢れんばかりの涙をいっぱいに溜めながら。
「生きて……生きていましたの!」
「マイカちゃん! マイカちゃんが生きていた!」
アタシらは走りながらも友達の無事を喜んだ。
あの当時は信じられない気持ちと、悔しさと悲しさで一晩中泣いた。
無事を祈る気持ちとは裏腹に、もう帰ってこないのだと諦めてしまう気持ちの狭間で数ヶ月苦しんだ。
あの子のためにと、自分たちをお互い奮い立たせてがむしゃらに頑張ってきたこの数年。
それでもどこかで生きていてほしい……その奇跡を願わない日は無かった。
その願いが叶った。
こんな世界でも、信じていれば奇跡というものは起きるのだと思った。
『はぁ、はぁ……ところでさ』
『なんやねんな! はぁ、はぁ……』
『マイカ、何時に戻ってくるんだろうな』
『……それ一番大事なことやんけ。思わず嬉しすぎて飛び出してもうたわ』
『あぁ。こんなに嬉しいことがあるかよ』
『ホンマやな。早く会いたいなぁ!』
一度寮に戻ろうかとしていた時、ちょうど表の大きな門が開くのが見えた。
『ハズキ! あれ!』
『まさか?! あ、待ってぇなぁ!』
アタシらはまた走った。
走り過ぎてヘトヘトになりながらもその開いた門へと向かっていく。
門がある広場にはカミキ家の紋章が記された馬車が止まっていた。
そして、その前にはアタシらの会いたいと願っていたその人が立っていた。
最後に会った時から随分と顔や体などの雰囲気が大人びたように見えたけど、あのかわいい笑顔をしているその人は間違いなくマイカ本人だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……マイカちゃん!」
「ちょ、ちょっと……待ってくださいまし……」
アタシもハズキもかなり息が上がっている状態だった。
一瞬驚いたような顔をしたその子は、途端にあの懐かしい笑顔を見せてくれた。
「アズサちゃん! ハズキちゃん!」
「よく……よく生きていてくれました」
「ワタクシたち2人は……奇跡を信じて……わぁああああん」
「えヘヘヘ、お2人と約束……しましたからね。絶対に生きて戻ると」
いろいろと話したいことがいっぱいあった。
聞きたいことがいっぱいあった。
それでも今はこの溢れる喜びに涙を流した。
ほどなくして、突然マイカが思い出したように口を開いた。
「あ、紹介しますね! こちらがアタクシの命の恩人さんです!」
ビシッと丁寧に向けられたその手の先には、誰もいない。
「……えっと、マイカちゃん?」
「アタクシたちの目にはその……そこには誰も見えていないのですけれど?」
「え……えぇええええ?!」
アタシらの言葉に驚きながらキョロキョロと周りを確認すると、突然目にいっぱいの涙を溢れさせ、大声で泣き出してしまった。
「うわぁあああああああああああん」
「ちょ、ちょっとマイカちゃん?! 一体どうされたのです?!」
「とりあえず落ち着いてほしいですの!」
しばらく泣き続けたマイカを慰めていると、少しずつ自分に起こった出来事を話し始めた。
アトラス大迷宮に課外授業へ向かったあの日、突然中層の魔物が現れて襲われたこと。
生徒や先生、それに魔動兵団の人たちまでその魔物に殺されてしまったこと。
絶体絶命のピンチに、どこからともなく現れた少女に命を救われたこと。
それからその少女と一緒に長年アトラス大迷宮内で過ごしてきたこと。
その間ずっと命を守られてきたこと。
それらをもの凄い勢いで喋り出して止まらなくなってしまった。
「マ、マイカちゃん、一旦落ち着きましょう? マイカちゃんが、その方のことをとても大切に想っていることはよくわかりましたから」
「そうですの! もしかしたらまだこの近くにいらっしゃるかもしれませんの! 一緒に探しますの!」
「……グス……はい。でもあの方はもうアタクシの前には姿を見せてくれないかもしれません……ここにはアタクシを送り届けてくれただけのような気がしてならないのです」
「それでも探しましょう? ここで泣いていても始まりませんわ!」
「ワタクシたちも一緒ですの!」
「アズサちゃん……ハズキちゃん」
それからアタシらはこの学園内を探し始めた。
「そのお方のお名前はなんとおっしゃいますの?」
「……えっとぉ……知らないのです……」
「え?! な、名前も教えていただいておりませんの?!」
「どうしましょう?」
「えっとぉ……ちょっと不愛想な子です」
「「はぁ……」」
マイカはその「ちょっと不愛想な子」という呼び方で探し始めた。
長期休暇でほとんど人がいないこともあったので、アタシらもその呼び方で一緒に探しまくった。
この学園内もかなり広い敷地となっており、それらを全て回る頃には夜になっていた。
「お2人とも、もう大丈夫です。久しぶりにお会いしたのに、こんなことになってしまい申し訳ございませんでした」
「いえ、今日はダメでもまた明日がありますわ!」
「絶対に諦めてダメですの!」
「はい……ありがとうございます」
寂しく笑うその姿を見送るとマイカは寮の部屋へと入っていった。
アタシらは、しばらくその場から動けずにいた。
大切な人を探しているのはアタシらも一緒。
そのためにずっとここまで頑張ってきたのだから。
だからこそどうかマイカにも諦めないでほしかった。
願わくは、マイカがそこまで大切に想うその人がまた扉の向こうで泣いているマイカの前に姿を現してくれるようにと、そう願った。
すると悲しみで泣いていたはずのマイカの声が突然変わった。
「う……ひぐっ……ひぐっ……ふぇ? ……ふぇえええええええええん!」
もしかしたらアタシの願いが届いたのだろうか……。
悲しみに沈んでいたその声が、今では喜びと安心に満ちていた。
思わず扉を開けそうになるアタシの手をハズキがそっと抑えて首を振る。
今はそっとしておいてやろうという顔だった。
アタシらは静かに「よかったね」と呟くとその場から離れて部屋へと戻った。
明日は本編更新しますの。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。