055 おとめのてれかくし
自分の全てをさらけ出した夜。
なぜだかとても気が楽になった。
自分の中で重たい鉛が取り除かれたかのような感覚だった。
気が付けば魔女っ娘は泣いていた。
枕もベッドのシーツも私の服すらもビショビショになるほどに涙を流しまくっていた。
でも私の話が終わるまではずっと静かに我慢していた。
私が話し終わったその瞬間、声を出しながら泣いていた。
「ひぐ……ひぐ……ずっと一人で……ずっと頑張っていたんだね……アタシは全然なにも知らなくて……わがままばかり……ごめん」
「……ぃぃ」
「なにより……なによりも……そんな大事なことをアタシに打ち明けてくれたことが……とても嬉しくて……なによりもそれが嬉しくて……」
「……ぅん」
「アタシがあなたの役に立てると言えるほどアタシはまだ強くもないし、その自信も全くない」
「……ぅん」
「だから……だからこそアタシを隣に置いてくれないかな……あなたが向かうその道へ、アタシも一緒に連れてってくれないかな」
「……ぃや」
「……」
「マイカが……言うこと……じゃない……私から……お願い……すること……」
「サクッ!」
マイカは私に抱き着いて離れなくなってしまった。
スマコ、これでよかったのかな……。
《親愛なるサクヤ様。言ったはずです、あなたの望みは私の望み。あなたがそれを望むのなら私もそれを望みましょう。マイカ様は乙羽様の代わりとはなれませんが、新たな大切なお友達になれるはずですよ》
そう……なのかな。
まだ私にはそのあたりのことがよくわかんないけど、でもこの子と別れることを私自身が拒否していることはわかる。
はぁ……。
今気が付いたけどさ、こんなにしゃべったのは生まれて初めてじゃないの?
今になってすごく疲れがきたわよ、特に顎が。
顎のマッサージでもして寝ようかしら。
スマコ、ちょっとやってくんない?
《そんな機能はございません》
私の望みはアンタの望みじゃなかったの?
ていうかこの子もそろそろ私の胸から離れてほしいんだけど……まぁ、今日だけはいいか。
それから、その夜はすぐに眠りについた。
次の日、体を揺すられて起こされる。
「サク……サク……早く起きて、授業に遅れちゃうよ?」
「……あと……2.3……時間だけ……」
「それじゃあ、お昼になっちゃうよぉ! しょうがないなぁ……もう!」
どうやらマイカは私を背負っていくようだ。
だからいつもの制服に転身だけして、再び眠りについた。
「いっきますよぉおお!」
「おらこいやぁああああ!」
「うぎゃぁあああああ?!」
「あぎゃぁあああああ?!」
うるさい……。
ったく、静かに寝ていられないじゃない。
「おっ、起きたか。そろそろ稽古つけてくれねぇか。あいつらおまえにシゴかれてぇらしいぞ。物好きだよな」
おい……それはいいけど、なんで私はこの先生に膝枕をされているの?
そりゃあゴツゴツして寝心地が悪いわけだわ。
「あっ! サク、起きたんだね! 本当に3時間も寝ているからビックリだよぉお!」
「おいこらチビ! さっさと俺を鍛えやがれ! ぶち殺すぞ!」
「教えてもらうんだから、そんな言い方をしたらだめだよ。えっとぉ、またお願いできるかな?」
「頼む! 今度はあの勇者の一撃をしのげるだけの肉体美を!」
「いや美はいらねぇだろ……」
これは一体なにごとだろうか……。
《すっかりこの者たちを手懐けてしまわれましたね、さすがは我主サクヤ様です!》
いやいやいや、手懐けてないし、なにも求めてないし、むしろ寄ってくんなし!
しっしっ! あっちいけ!
「あっ?! みなさん、早く防御態勢を……」
マイカが言い終えるよりも前に、私はクラスの男子どもを全員ぶっ飛ばしていた。
それなりに力を入れていたというのに、心なしか男子どもの顔が喜んでいたような気がした。
それからずっと付きまとわれて鬱陶しかった。
ちょっと頑丈に鍛えすぎたかもしれない。
でも……この胸の奥がムズムズするのは一体なに?
なんか……嫌いじゃ……ないかもね。
《親愛なるサクヤ様、それは「喜び」ではないでしょうか?》
喜び?!
私がこの状況を喜んでいるとでもいうの?!
でも、私はこの感情を……知っている。
この喜びというものは、いつも乙羽が私にくれていたもの。
とても大切な感情だ。
《サクヤ様、そろそろ手を抜いて差し上げないと、みな様方が2度とこの世に戻ってこられなくなってしまいますが?》
うぉっ?!
どうやら考えごとしながらボコボコに殴っていたようだ。
いけない、いけない。
《これは乙女の照れ隠しというやつですね、サクヤ様》
そ、そうよね!
ちょっとした照れ隠しよね!
アハハハ。
「ふぁああ……今日はまた一段と強烈だったなぁ」
あら、もうマイカが目覚めたわ。
私がいうのもなんだけど、どんどん人間離れしていっている気がするわね。
まぁいいや。
今日はもう戻ってご飯よ。
それから数日間は特になにごともなく過ごしていたけど、遂に奴が動き出した。
その日も一日の授業が終わって寮へと戻ってきていた。
それからすっかりと顔なじみになったあのマイカの友達の元日本人だった2人を交えてご飯を食べていた。
「あら? これはこれは、お姉さまではございませんか! それにあなたがたは……」
「お初にお目にかかります、メイナ・カミキ侯爵様。アブリエル伯爵家の長女、アズサ・アブリエルと申します」
「同じく、イエスタリ伯爵家の長女、ハズキ・イエスタリですの」
「まさかこの学園で天才と名高いお2人を従わせているだなんて、お姉さまも隅におけませんことね」
「ち、違いますわメイナ! このお2人はアタクシの大切なお友達です!」
「お友達? アハハハハ、まったく冗談はやめてくださいな。我々カミキ侯爵家以下のものは全て捨て駒ですわ。平民しかいないDクラスに行ったことで、遂に頭までポンコツになりましたの? 全く同じ侯爵家の人間とは思えない発言ですわ。あなた方も自分が従う者はきちんと選んだ方が良くってよ?」
ハハハ……救えねぇなぁこの妹っ子は。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。