054 しんじつをきみに
少し表現を修正しました。(5月16日)
『全ては向こう側にいる邪神に従える使徒の仕業のようなのですぅ! ですから、サクヤさんにはなんとしてもギアバトル闘技大会に出てほしいのですぅ』
向こう側には使徒とかいんのね……。
つまりはその使徒らの策略で魔族軍が押し寄せてくわけか。
一体なんのためにそこまで人族を殺そうとするの?!
『実は……人族に限らずこの世に生きる人間の死がこの封印の力を強め続けるのですぅ……それがこの世界を破滅と殺戮で支配してしまったあの邪悪な神の策略なのですぅ……』
なるほどね……まぁ話はわかったわ。
とりあえず私はそのギアバトル闘技大会に出ればいいのね。
『はいですぅ! それにそのギアバトル闘技大会には魔族に紛れ込んだ向こう側の使徒がクリスタルを持って現れるのですぅ! その者からその封印を奪い、2つの封印をサクヤさんが解いてくだされば我々の勝ちですぅ!』
どうして?
封印は後4つ残っているでしょ?
『サクヤさんが頑張ってくれているおかげで私は力を溜めることができていますぅ! その残り2つの封印さえ解いてくだされば、後は自力で開放してみせるのですぅ!』
わかった。
乙羽の命を守るためには、アンタを信じる他ないからね。
信用しているわよ。
『はいですぅ! サクヤさんには本当に感謝しているのですぅ。私もこの自分の世界を守るため、あなたの大切なお友達を守るため、絶対に負けられないと思っていますぅ!』
もし負けたら、私がアンタを殺しに行くからね。
死んでも負けんじゃないわよ。
『ひぃい?! この人物騒ですぅ! 怖いですぅ!』
はいはい。
それじゃあ、またしばらくこの学園で修行するわ。
そんでギアバトル闘技大会とやらを目指すよ。
『お願いするのですぅ! まぁサクヤさんなら心配していないのですぅ!』
なんでよ。
アンタとはそんなに付き合い長いわけじゃないでしょ?
『今までのあなたの行動を考えればそうなりますぅ! あなたはいつだってお友達のために死ぬ気で不可能を可能にしてきていますので、いまさら疑う余地がないのですぅ!』
私はそれだけのことを乙羽にしてもらったのよ。
だから私はあの子のためならなんでもするの。
『それはオトハさんだけのためですか?』
どういう意味よ。
『いえ、なんでもないですぅ! それではまた私は少しの間眠って力を溜めるのに専念しますね! また会いましょう、サクヤさん!』
……。
《親愛なるサクヤ様、クズ神様がおっしゃったことが気になっておられますか?》
わからない……。
確かに最初は乙羽のためだけにやってきたことだった。
もちろんそれは今でも変わらないけど……
《魔女っ娘様ですか?》
うん。
私は魔女っ娘……いや、マイカに対して他の子にはない感情を持っていると思う。
それは最近自覚したけど、乙羽に対する感情とは違うと思うの。
でも、それに近いような同じ感覚というか……自分でもよくわからないのよ。
《サクヤ様、人はそれぞれに皆違います。あなた様の大切な乙羽様はたった一人しかいません。同じようにマイカ様もたった一人しかいないのです。しかし、そのお2方をサクヤ様が「大切に想う気持ち」は同じなのではないでしょうか》
大切に想う気持ち……そうだね。
マイカは乙羽みたいにしっかり者じゃないし、人との付き合い方も上手じゃない。
おっちょこちょいだし、すぐ泣くし、どうしようもないほどに手がかかる。
でも……確かに私は、マイカも大切だと想っている。
今それをしっかりと実感した。
「ふぁ……あ、また気絶しちゃったかぁ……運んでくれてありがとうね、サク」
「……ぅん」
「……えっ?! ぇぇぇえええ?! いや……え?! 返事してくれたの?!」
「……」
ワナワナ泣くなよ鬱陶しい。
コンコン。
「マイカちゃん?! いらっしゃいますか?!」
「今日は無事ですの?!」
「あ、はい! 戻っていますよ! 今開けますね」
「今日はお二人ともボロボロですね……」
「え……2人とも?!」
なによその目は。
私が逃げないからって、そんな目で見ないでもいいじゃん。
ご飯行くんでしょ?
だから姿を消さないだけよ。
「そんなにDクラスの授業は厳しい訓練なのですか?! AからDクラスの合同実戦訓練とはお聞きしておりますが、その内容を誰も教えて下さらないのです」
「一体、どのような訓練なのですの?!」
「アハハハ……そ、そのうち教えて差し上げますよ! さぁ、ご飯に参りましょう? ちょっとアタクシたちはお着替えをさせていただきますね?」
「はい……それでは外で待っておりますわ」
2人が部屋の外へ出ていくとマイカが口を開いた。
「もしかしてサクまでお父様にひどいことをされていないよね?!」
まぁ無防備なところに鉄拳撃ち込まれて内臓破裂寸前のところまでいったくらいだから気にしなくても大丈夫よ。
いつかこの礼はきっちりとお返しするつもりだしね。
あ、あら?
どうしてそんなに殺気を出しているの?
あ……今気が付いたけど、あのおっさんに殴られたその場所にきっちりとその拳の跡が残っていたわ。
マイカはそれを見ている。
「アタシ……これまでにないほどの怒りで頭が狂いそうかも」
おいおいおい!
業火があふれ出ているって!
部屋を燃やす気かい!
それから着替えを終えた私らはまた4人でご飯を食べ、お風呂に入りベッドへと入るといつも通りマイカがくっ付いてきた。
だから私は今、真実をこの子に話す。
「……マイカ」
「ふぇっ?! え、名前……」
「私…………」
それから私はとても長い時間をかけて少しずつゆっくりと自分のことを話した。
自分はこの世界の住人じゃないこと。
いきなりアトラス大迷宮に産まれ、そこで過ごしていたこと。
前世で大切な友達を守って死んだこと。
そしてまたその友達に危険が迫っていること。
その子をどうしても守りたいこと。
そのためにはこのクリスタルを破壊してこの世界の神を蘇らせる必要があること。
包み隠さず自分なりに頑張って長い時間をかけて少しずつ喋った。
その間、マイカは黙って静かに話を聞いてくれた。
全てを話し終えた頃、マイカはやっぱり泣いていた。
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