051 ふおんなうごき
私たちは4人で寮の食堂へと来ている。
ここは各部屋が個室のようになっているからとても助かる。
「挨拶が遅くなってしまいましたが、アタクシはアズサ・アブリエルと申します! マイカちゃんとはお友達ですので、よかったら仲良くしてくださいね!」
「ワタクシはハズキ・イエスタリと申しますの! マイカちゃんの大切なお友達とお聞きしていますの。是非ともワタクシたちとも仲良くしてほしいですの!」
食事を始める前に2人が挨拶をしてくる。
「……」
「この方は恥ずかしがり屋さんなので、ちょっと会話が苦手なのです! こう見えて実はとっても優しい方なんですよ!」
「折角なら、マイカちゃんがしきりにお可愛いと言われていたお顔を拝見したかったのですが、それはもっと仲良くなってからということにいたしましょう!」
「そうですの! たとえお顔を知らなくても、お話ができなくてもワタクシたちの関係性は変わりませんの!」
「マイカちゃんの命を救っていただいたというその事実だけで、アタクシたちはあなたを信用できますわ」
「お2人とも……アタクシはとても幸せでございます」
まぁ、これが日本人の考え方だろうね。
私のように自我を持ったままこの世界に産まれてここまで育ってきたのなら、少なくともこの世界の在り方に戸惑ったはず。
ここで生きていけるのは、最初から精神を崩した異常者か、もしくは心に秘めた強い思いを持った人かのどちらかだと思う。
そうじゃないと、普通は己の精神が持たないと思う。
そして、この2人は多分後者。
こんな世界でも、何かしらの強い目標がある。
だからこそ迷うことなくこの世界に順応してみせているんだ。
今の私のように……。
「ところで、もしよかったらせめてお名前だけでもお聞かせ願えませんか?」
「確かに……マイカちゃんが以前呼ばれていたあれはちょっと失礼ですし」
「え? アタクシなんとお呼びしていましたっけ?」
こいつ……最初この学園に来た時に、自分が泣きながら私を「ちょっと無愛想な子」って呼んでいたことを忘れていやがる。
明日の訓練も厳しくしてやろう。
「ひぃ?! な、なにやらまた悪寒が……」
「ど、どうしたんですの?! 大丈夫ですか?」
「あ、はい! 大丈夫ですよ! でも、もしかしたら明日も今日のような状態になっているかもしれませんが……ビックリしないようにお願いしますね」
「「は、はぁ……」」
なにやら今日は魔女っ娘の感が冴えているみたい。
だからって、もう容赦しないけどね。
ご飯を食べた私たちはそれぞれの部屋へ戻ろうとしていた。
「あ、今日はお部屋のお風呂ではなくて、みなさんで大浴場へ参りませんか?」
またこいつは余計なことを……。
「あ……ごめんなさい。折角のお誘いで嬉しいのですけど、アタクシたちはこれから用事がございまして……」
「また今度、誘ってほしいですの!」
「そうですか……残念ですが仕方ありませんね! またご一緒しましょうね!」
「「はい!」」
私はやっと解放されて一息付く。
「あぁ! みんなでご飯も楽しかったなぁ! あの2人とってもいい子だったでしょ?! あなたも仲良くできそう?」
「……」
「そかそかぁ! それじゃあ、また一緒にご飯行こうね!」
「……」
「なんでそれは嫌がるのぉ? まぁあなたが嫌なら無理にとは言わないけどさぁ……」
いやいや、私さっきから無反応なのになんでわかるの?!
こいつ冴えているとかいうレベル越えてね?
むしろエスパーじゃね?!
恐ろしい子……ますます乙羽みたいになってきているような気がするんだけど。
それから魔女っ娘は当たり前のように私の入浴中に乱入し、当たり前のように同じベッドに入ってくる。
なんのためのツインベッドなんだろうって思うよ……。
そして当たり前のようにくっ付いて眠りにつく。
全くこの子は……。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠るこの子を見ていると、なんか胸の奥がとてもざわざわする。
《鬱陶しいですか?》
鬱陶しいね。
《邪魔ですか?》
邪魔だね。
《懐かしいですか?》
……懐かしい……のかね。
私はこの子を乙羽だと思いたいのかな?
ううん、私の大好きな乙羽はたった一人のあの子だけ。
この子は乙羽の変わりにはなれないよ。
もしも、乙羽とこの子の命を天秤にかけることになったとしたら、私は迷わず乙羽の命を取る。
《サクヤ様……妹っ子の方で動きがありました。桜飾をONにします》
「全く……どうして暗殺を仕向けたやつらがことごとくやられるのかしら? 一体どうなっているの、クリス」
「はい。おそらくは一緒にやってきたあの不審者によるものと思われます」
クリスってどこかで……あ、魔女っ娘のお世話をしていたあの仕様人だわ。
確か自分で魔女っ娘の侍女って言っていた気がする。
この学園に来るときもこの人が朝起こしに来たり、馬車で送ってくれたりしたんだっけ。
なるほど、あれと妹っ子が繋がっていたわけね。
「あいつの仕業なの?! 強そうには見えなかったけど?」
「確かに魔動力は全く感じられないのですが、あの身のこなしは只者ではございません」
「アンタがそれほどまでに褒めるなんてね……これ以上生徒に襲わせても無駄のようね」
「はい。ここはやはり、クラス合同実戦訓練の時しかチャンスはないかと思います」
「うふふふ、そうね。あれは次の訓練までに間に合うのでしょ? クリス」
「はい、メイナ様。滞りなく開発製造は進んでおります」
「その時こそあの憎きポンコツを殺してみせるわ」
「はい、全てはカス・カミキ様のご意思のままに」
さて……どうしたものかな。
いろいろと不穏な動きがあるようだし……私も少し気を引き締めますかね。
いろんな意味で。
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