049 ばけもん
「ん……ここは……えっ?!」
お、気が付いたか。
「えっ?! えぇ?! 体……なんともない……。あなたが治してくれたの?」
さすがに忍気を使い過ぎたわね。
疲れたわぁ……。
それにしてもあそこまで人間の体の内部を見たのは初めてだったわよ。
まぁこの血だらけのベッドは……見なかったことにしよう。
私、超天才外科医を名乗ってもいいんじゃないかな?
金をくれぇい!
「……ひど……かったね」
「……」
「あれは……ひどいよ」
「……」
まぁ気持ちがわからんでもない。
一応は私もそれを受けたわけだしね。
「教室……行こうか」
「……」
そして私らはいつも通り教室へと行く。
おぅ?!
な、なんだこの雰囲気……?!
なぜに土下座?!
「み……みなさん? 一体どうされたのですか?!」
「頼む……俺たちに稽古を付けやがれ」
「コージ、そんな言い方はダメだよ……僕たちを強くしてほしいんだ」
「俺らはクソ貴族どもの肉盾にしかなれねぇ……でもてめぇらならなんか俺たちを変えてくれそうな気がする」
「お願いだよ……どうか」
おぅふ。
やめてくれ……媚びるな拝むな鬱陶しい。
「あ、あははは、それは早くやめた方がいいかもしれません。それよりも、あの訓練はあまりにも酷い訓練でした……くやしい気持ちはアタクシたちも同じです。一緒にあの方々を見返してやりましょう!」
「おぅ! 頼むぜクソ貴族やろう!」
「コージ……マイカ様、だよ?」
「や、やめて下さいまし! アタクシのことはマイカで構いませんよ!」
「よし、マイカ! 今日からおまえらの子分になってやる! ありがたく思え!」
「え? あ、はい! 一緒に頑張りましょうね!」
どんより暗い雰囲気なのかと思ったら、思いの他みんなやる気じゃん。
これから頑張りなさいな。
「おいクズども、生きているならさっさと席に座りやがれ。死んでいても座れ。早く座れ」
この人、相変わらずの口の悪さよ。
あの後ちゃっかり寮で全員の看病していたくせによく言うわ。
そのせいで目の下にクマ作っているくせに……全くこの先生は。
「んじゃあ、残念ながらみんな生きていたということでいつも通り筋トレ……じゃなくて、特訓だ。おい、マイカと……おまえ誰だっけ? まぁいい、おまえらがこいつらに教えろ」
「へぇ?! なんでアタクシたちが?!」
「おまえらの力の使い方は特殊だ。それならこいつらも強くなれると思った……それだけだ」
まぁ昨日の様子を見た感じだとこいつらはただ体を鍛えているだけだもんね。
確かに同年代とは思えないほどに体は鍛えられていると思う。
単純に力だけだったら魔女っ娘や私は叶わないだろう。
それは多分この先生のおかげなんだろうけど。
いや、待てよ……これだけ体が鍛えられているのなら、もしかして魔女っ娘よりも魔動力を体にまとわせるやり方うまくやれんじゃね?
そしたら私ら強靭な盾を手に入れたことになんじゃね?
なにそれ、ちょっとカッコいい。
ということで、Dクラスの特訓が始まった。
「はぁあああっ! ……ふぅ。今のアタクシでもこれが限界なのです。これ以上やると全身がバラバラになるかと思うんですよぉ」
魔動力をまとわせるやり方を魔女っ娘がみんなに説明しているところなんだけど、みんなドン引きしているね。
仮にも女の子なんだからさ、いきなりそんなバカ力見せたらいけないと思うんだな。
そんな華奢な体で、筋トレ用の鋼鉄を拳で破壊したらダメだと思うよ?
「バケモンかよ……」
「あれは……バケモノだね」
「さすがの俺も驚いたわ、ありゃバケモンだ」
先生まで……魔女っ娘はいつも一生懸命なんだからあまり化け物呼ばわりしないであげて。
「みなさんひどいですぅ! 見せてくれっていうから張り切ってやったのにぃ……みんなしてバケモノだなんてぇ……」
「な、なんで泣くんだ?!」
「ご、ごめんよマイカちゃん。そんなつもりは……」
「一応これでも褒めたつもりだったんだがな」
こいつら……どいつもこいつも女の子の扱い方がわかっていないわ。
まぁでも、なんだか魔女っ娘を中心にクラスの雰囲気は良くなっている感じがする。
この調子で頑張りなさい、魔女っ娘。
私はここに分身体でも置いて、たまには本体で探索にでも行きますかね。
ということで今日はまだ行ったことがなかった場所へとやってきた。
それはあのおっさんがいる教職塔の近くにある建物。
ここはギアメタルとやらを作っている場所みたいね。
すげぇ……なんかお母さんのラボ室みたいな場所だわ。
設計図やらいろんな部品類が散乱している部屋や、それを製造するための大きなプラント、それに大量の出来上がった作品がずらりと並んでいる。
それにしてもいろんな形があるのねぇ。
確か魔女っ娘が初めに持っていたのはこの杖みたいなやつだったわね。
こんなんで魔法が使えるなんて本当に羨ましい限りよ。
……まさかね?
私は魔女っ娘が持っていたような杖の形をしたギアメタルを手に持ち、忍気を発動させてみた。
シーン……。
うん、わかっていたさ。
魔女っ娘みたいにカッコよく火魔法が出たらいいなぁなんて思っていないもんね……ふんだ。
次に行こう。
あれ、あれは妹っ子たち?
「あれだけ痛めつけたというのにどうしてDクラスの平民どもはピンピンしていらっしゃるのでしょうか?」
「わかりません。思った以上にDクラスの平民どもは頑丈だということでしょうか」
「みなさま、そんなことを言ってはいけませんよ? あの方々が頑丈であれば戦争が起こったとしても、盾として頼もしいではございませんか」
「さすがは次期カミキ侯爵家の跡継ぎであられるメイナ様です! 確かにその通りですわね」
「飛び級で高等部へ入られた方は、そのお力もお考えも寛大でいらっしゃる」
「いえいえ、ワタクシなどカミキ家の人間としてひたすら努力を重ねてきただけの平凡な一般市民ですわ。それにしても、あれだけ頑丈であるならさらに実戦訓練の回数を増やしても問題ないようですわね! 先生方へ申し入れをしてみましょうか!」
「さすがはメイナ様です! 早速、参りましょう」
本当にあの妹っ子は……。
あの仮初の姿で、周りからの信頼も人望もかなり厚いわね。
姉妹だっていうのに、魔女っ娘とこうも性格が違うもんかなぁ……。
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