A01 日常の崩壊
別ルート編です。
「だめだ! 人が多すぎる……みんな、絶対に手離すなよ!」
「うぎゅぅ~つぶれるよぉ~」
「こいつのデカ乳で窒息しかけているヤツがここに約1名……」
「おまえらコントやっとる場合とちゃうやろ、ボケ! 絶対にそれ離すなや!」
「ふぁ~い!」
「なんでドアが開かないんだよ! おい! 店員! どうなってんだ?!」
「ドアが開かないの?! どういうこと?!」
「おい、店員?! 店員はどいつだぁ!」
「おまえが先頭でここに誘導したんだろ? 責任取れよこらっ!」
「あん?! なんだとこら!」
「うわぁ……大パニックやん。いい大人がなに喚き散らしとんねん」
「こう見ると人間って醜い生き物だねぇ」
「……」
「おい! こいつ本当に窒息しかけてんぞ?!」
「あはは、ごめ~ん。離しちゃいけないと思ってギュッと抱きしめてたよぉ」
「それよりもオトハとサクヤはちゃんと逃げたんやろか?」
「それよりもっておまえ……まぁ大丈夫だろう。外に行けば絶対に会えるさ」
その直後、とんでもない爆発音とともに、地震かと思うほどの大きな揺れが生じた。
ゆっくりと大きな音をたてながら、少しずついろんなものが崩れていく。
中央の大きな柱が人混みの中に倒れ、何人もの人がそれの下敷きとなった。
倒れた柱の衝撃で赤い血しぶきが散乱し、その周りにいた人を赤く染める。
悲鳴と絶叫が入り交じった地獄絵図の中、アタシらはギュッと手を繋いだまま立ち尽くしていた。
「こ、こっちや! はよ行くで!」
瞬時にアタシらを引っ張って走り出した似非関西弁の源巴瑞季。
「ちょっと、まだ足に力が入らないよぉ」
フラフラしながらも手は離さない天然巨乳の菊川美咲と、いまだにミサキの胸の中に埋まっている不思議系謎っ子の栗林穂香。
そしてアタシは口調だけがオラオラ系の内心ビビりな遠山梓。
アタシたちは中学時代からの腐れ縁で同じ部活に通い、同じ下宿で暮らしている仲だ。
まぁこんだけずっと一緒にいると不思議とそれが当たり前になる。
なんか4人ってのも丁度いいんだろうね。
また個性がバラバラだし、それが上手くバランスとってるっていうか……。
まぁ、アタシが一番ましな女の子っていうのは間違いないけどな。
誰かがいないと、不思議となんかそわそわする。
ハズキに彼氏ができた時なんか、思いっきり3人でデートの邪魔をしに行ったり、逆にアタシが彼氏とデートしていた時は3人が邪魔しにきたりしてね。
実はそれを待っているアタシもアタシだったり……。
腐れ縁ってやつは不思議なもんだよ。
オトハとサクヤもアタシらと同じなんかな?
向こうは小学校からの親友同士って話だったしね。
あの2人も……というかオトハの異常なサクヤ愛がすごすぎる。
いくらでも男が寄ってくるあんな美少女が、いつも無口で無表情な無愛想人間のサクヤと一緒にいることが最初は信じられなかった。
まぁ付き合っていく内に、サクヤが見た目ほど悪いやつではないということはわかった。
逆にいつも素っ気無いくせに、オトハに甘えている姿を見ると小動物みたいでかわいくも見えてきた。
というか、みんなはあの近寄りがたい雰囲気とマフラーで口元を隠した暗殺者みたいな見た目に惑わされているけど、実はオトハに全然負けないくらいの美少女だったりする。
アタシらは最近この事実に気が付いたばかりだった。
もっとアタシたちもオトハと同じようにサクヤとも仲良くなってみたくなった。
だからこそ、一緒にカフェに行こうと誘ったのだ。
楽しい放課後になるはずだったのに……まさかこんなことになるなんて……。
とにかくこの建物から早く脱出しなきゃ。
ハズキの先導で従業員用の出口へと向かっているアタシたち。
けれど、その先のドアも外から完全に封鎖されていた。
地響きはどんどん大きくなっており、建物全体が崩れかかっていることがなんとなくわかった。
「これは困ったねぇ。建物が歪んでドアが開かないんだよ~」
「こんな時だけ急に冷静に喋るなやミサキ。でも確かにこんな時だからこそ冷静が一番やな」
「確かこの先のホールは一部が開放状態だったと記憶しているやつがここに約一名」
「マジか! でかしたぞホノカ!」
「決まりや! 早速そこまで走るで!」
「早く行こう! 建物がもうヤバいぞ!」
必死に走るアタシたち。
しかし、いろんなものが倒れて散乱し、なかなか先に進めない。
下を向けば大量の死体。
かろうじて息がある人でも体の一部がなくなっていたり半身がつぶれていたり……。
そんな人たちがうめき声を上げながら必死に助けを求めてくる。
怖い……。
怖い怖い怖い怖い怖い。
アタシの頭にはもうそれだけ考えることができなくなっていた。
それでもアタシの手を引っ張る先には必死に先頭を走るハズキがいる。
そのハズキの思いを無駄にしないように反対の手を握るミサキの手を強く握り絞めて離さない。
もう少し、そこを抜ければ出口だ。
みんなに希望が見えたと思ったその瞬間……アタシの目の前に大きな支柱が落ちて来た。
勢いで吹き飛ばされたアタシは、両手にまだハズキとミサキの手を握っていた。
しかし、その手の先に本人たちの体はなかった。
唖然とするアタシが最後に見たものは、首だけがゴロンと床に転がっているハズキと、体が変な方向へ曲がっているミサキとホノカ。
それと、アタシたちが目指していた店外の先で、頭から真っ逆さまに地面へと落ちようとしていた乙羽の姿だった。
その後、ゴリッと自分から変な音が響いたのを最後にアタシの意識はなくなった。
次話から第一章です。
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