A10 誓いを胸に
別ルート編です。
アタシは腰からスイリュウを抜き、魔動力を全力で込める。
そして同時に水魔法を発動し、スイリュウに水を纏わせた状態で振り下ろす。
すると、鋭い水の刃が巨大なダニへと直撃して動きを止める。
ミシ?!
ミシミシミシミシミシ!
「ひぃいいいいい?! 気持ち悪いですのぉおお! 夢に出てきそうな鳴き声ですのぉおお!」
「ちょっ?! ハズキちゃん、あんまり大声を出さないでくださいまし! こちらに気が付かれてしまいます!」
あの人達は、うまく逃げたかな?
さっき体を貫かれた人は……もう手遅れ、か。
え……あの人……あの角……まさか……魔族?!
どうしてこんなところに?!
隣を見るとハズキも目を見開いていた。
まずい、今ここで魔族がいたことがわかれば間違いなくさっきの人達は殺されてしまう!
ここには魔動兵に加え、支部隊長さんまで来ているのだ。
アタシらは、さっきの魔族が逃げた方向に向けて急いだ。
「いましたわっ! 2人だけですが、あそこを走っています!」
「えぇ、でもどうやってあの方たちに伝えますの?!」
「一刻を争いますし、仕方ありませんが実力行使でいきましょう!」
「やむを得ませんねっ!」
アタシは水の刃で、ハズキは炎の拳で、魔族の人たちが入っている前に攻撃を行い、動きを止める。
「初めまして、魔族のお方とお見受けいたします。アタクシは人族のアブリエル伯爵家の者です」
「同じく、イエスタリ伯爵家の者です。以後、お見知りおきを」
「その攻撃……さっき助けてくれたお方ですわね。まずは感謝を申し上げます。わたしは魔族のブリブロ侯爵家の者ですわ」
「自分は同じく、魔族のダルダン侯爵家の者であります。助けてもらって感謝であります」
「……」
「……」
「……あ、あの?」
「あ、申し訳ございません。あの……もっとこちらを敵対されるものだとばかり思っておりましたので」
「えぇ、自分たち以外の魔族の者であれば、話をする前に攻撃を仕掛けていたと思います」
「それでは、一体なぜですの?」
「わたしたち2人は以前にも、人族の方に命を救われた過去がございますわ。その方も今のあなた方のように優しい方でしたので」
「そうでしたか。アタクシたちはあなた方、魔族との戦争を望んではおりません。むしろ、共存を望んでおります」
「ワタクシたちが争う理由はなにもないはずですの」
「それは自分たち2人も同感であります」
「ですが、今のところ魔族全土でわたしたちのような考えを持った者は、残念ながらおりません」
「それはこちらも同じでございます……」
「今のところ方法はわかりませんが、ワタクシたちとあなた方がこれからの道を作る最初の一歩となるかもしれませんの」
「えぇ、もしよかったらこれからもお互いに手を取り合いましょう!」
「はい! よろしくお願いいたしますの!」
アタシとハズキは、その魔族の女の子2人とそれぞれ握手を交わした。
もしかしてこの人たちとなら、本当にいい関係を築くことができるかもしれない。
「きゃあああ?!」
そんなことを考えていると、遠くの方で悲鳴が聞こえた。
「今のはっ?!」
「もしかしてさっきの魔物がみなさんのところに?!」
「あれはこの迷宮内の中層付近に生息しているアトラス・ティックという凶悪な魔物ですわ! あれに遭遇してしまうと、命はありませんわよ!」
「一度遭遇してしまうと、相手が死ぬまで追ってくるであります! こちらの仲間も約20名が殺されたであります!」
「な、なんですって?! まさか中層の魔物だったなんて……こうしてはいられません、先ほどの悲鳴が聞こえた場所へ戻りましょう!」
アタシらは騒ぎが起こっている場所へと向かう。
そこへ辿り着いた時には、アトラス・ティックという先ほどの魔物が、魔動兵1人をムシャムシャと音を立てて食べているところだった。
生徒や先生は無事。
魔動兵は1人が死んでいて、それ以外の人も装備がボロボロになっている。
すかさず支部隊長が前に出て2つの両手剣で魔物の攻撃を受け、後ろで他の魔動兵の人が弓や拳銃のギアメタルで援護を行っていた。
「すごい、あの魔物を抑えておりますわ!」
「関心している場合ではありませんの! まさか他の魔族さんとまであちらは遭遇してしまっているようですの!」
「非情にまずいですわね……今はあの魔物のおかげでお互いに手出しができない状態のようですが……」
「えぇ、あの魔物が退けば間違いなく争うことになるであります」
「今いくらアタクシたちが平和を呼びかけたところで、絶対に止まることはありませんし、最悪の場合は反逆罪ということで死刑になってしまいます」
「それは魔族側のわたしたちも同じですわ」
「ここは仕方がありませんが、あの魔物をアタクシたち人族側で請け負いましょう。魔族のみなさんはその間に逃げて下さいまし!」
「それでは人族のみなさんが危険であります!」
「それでも今あなた方魔族側の人数は圧倒的に少ないですの! あの魔物を倒すことも人族側との闘いも切り抜けられるとは思えませんの!」
「それはそうですが……」
「大丈夫ですわ。アタクシたちは死にません! どうしても死ねない理由があるのです!」
「だからあなた方も生きて下さいまし! また生きてどこかで会いたいですの!」
「はい……わかりましたわ! 必ず生きて再び会いましょう!」
「このご恩は一生忘れないであります!」
アタシたちは再び握手を交わし合い、そして別れた。
再び、笑顔で再会できる日を夢見て。
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