045 にんしんしたよ?!
結局その日は、各自の筋トレで一日が終わった。
授業ねぇのかよ!
適当だな、おい!
心無しか、私らを見るクラスメイトの目が変わってしまった。
最初は殺気の中でも、特に憎しみの感情が多かった。
でも今は憎しみというよりも嫉妬というか、焦りというか……そんな感じが強いと思う。
「負けねぇ!」
「アイツらだけには、ぜってぇ負けねぇ!」
そんな声が時々聞こえていた。
私は特になにもせずに一日ぼーっとしていた……わけではなく、この学園内をいろいろと探索していた。
もちろん分身体が、だけどね。
いろいろ調べてみると、本当にこのクラスだけは異常だわ。
まず、ここの高等部は3年生まであって、それぞれクラスがSクラスからDクラスの5つに分かれている。
一番上位のクラスがSクラスで、ここには有名貴族や特別に能力がずば抜けた実力者しか入ることができない。
それからAクラス、Bクラスと落ちていき、私らは一番下のDクラス。
やっぱりSクラスは扱いが別格だわ。
確かに生徒は実力者ぞろいだし、装備なども一級品。
それに一日のほとんどを、2年生や3年生と共同で魔動兵団との共同戦闘訓練に当てていた。
いわば、将来有望の選ばれたエリート集団ということだね。
魔動兵団にもいろいろと位があってそれぞれに仕事内容も違うようだ。
こんな感じにいろいろな学園の生徒の指導を行ったり、あの大きな砦の保護や監視、それにギアメタルの研究開発とか、怪しい殺戮兵器の開発とかさまざまなことをやっているみたい。
その全ては魔族を殺すためのものであり、人間の暮らしを良くしようとか、豊かにしようとかいう考えのものは一切なし。
クラスのランクごとで、将来選べる職種も違うみたいで、それぞれでSクラスからCクラスまでの教えることも違っているようだ。
それにしてもこのDクラスは本当に酷いわ。
ここには平民しかいない。
正確に言うと、平民の中でも実力がある者だけが唯一入れるクラスだね。
それでも貴族の中で無能なやつはCクラス止まり。
つまり貴族である以上はこのDクラスまで落ちることは絶対にないようだ。
それは廊下で会話していた先生たちの話から知ることができた。
そして、このクラスの職種は貴族の盾になること。
戦いの場において一番最前線で突っ込む特攻隊みたいなものだ。
言い方を悪くすれば、ただの肉壁ね。
でもそれがかなりの重要な戦力ともいえるからそれなりに重視されてはいるのよね。
この世界の平民は極端に貧しい。
だから食べていくのも必死みたいなのよ。
中には家族が餓死した子もいるみたいね。
でも、この学園に入れば最低限の生活は保障されるし、さらに魔動兵団に入ることができればその家族全員が保障対象になるわけだ。
そしてそのためには、この学園に必ず入る必要があるというわけね。
だからこのDクラスの子たちはたとえ将来が肉壁であろうとも、生活のために必死なんだわ。
まぁこれじゃあ貴族どもを恨んでいても仕方ないわよね。
そんな場所に魔女っ娘を放り込むとはあのおっさんもホント性格悪いね。
このDクラスだけは他のクラスと違って教室も訓練場も特別に離れているし、貴族たちとは全く別の独立した場所になっている。
確かにこれだと、もしこのクラス内で不測の事態が起こったとしても、たいした騒ぎにはならないわけだから暗殺もしやすいと……。
一応常に周りを警戒しているけど、刺客らしき者たちは今のところ現れていないし、気配もない。
最初はこのクラスメイトや先生が刺客なのかと思ったけど、それにしては弱すぎる。
それにこれだけの殺気をまき散らしていれば不意打ちなんてできやしないしね。
今の魔女っ娘なら一撃も受けずに全員を戦闘不能にしてしまうことも可能だと思う。
向こう側の目的がわからない以上、しばらくは様子見だね。
あ、チャイムが鳴ったね。
「よし、今日は終わりだクズども。さっさと宿舎に戻れよ、汗くせぇから」
それが帰りの挨拶なの?!
そのまま出て行っちゃったよあの先生。
どんだけ口悪いんだマジで。
まぁいいか、早くここから出たいのは私も一緒だ。
正直に言うと私も鼻が曲がりそうだし。
男子だけの空間がこれほどまでに香ばしい匂いがするとは思わなかったよ。
おっと、まさか私の分身体がさっき出て行った先生と出くわすとは……私としたことがいかんいかん。
すごい目で見られていたけど……まぁいいや。
先生から見えなくなったところで、分身体を花びらと化して消し去る。
これでよし。
てか、魔女っ娘さん?!
なにしてんの? なにしてんの?!
なんで男子に体触られてんの?!
いやいやいや、普通に胸とか触られてない?!
「なんでこんな華奢な体であんなパワーが出んだよ! クソが!」
「どうしてでしょう……」
「絶対に秘密があるはずだよ? ここかな? なんでここは膨らんでいるんだろう?」
「女の子は膨らむものですよ? あなた方のお母さまもそうではありませんの?」
「わかったぞ! そこにエネルギーが詰まってんだろ! それ吸わせろ!」
「わけられるものならそうしてあげたいのですが……やり方がわかりませんの」
おいおいおいおいおい!
おまっ……男に胸触られたら妊娠するんだよ?!
胸の先端に付いているボタンを男から2つ同時押しされると、女の子の体の中で赤ちゃんの製造が始まっちゃうんだよ?!
この子たち、そんなことも知らないの?!
《親愛なるサクヤ様、その知識はどこから入手されたのでしょう》
え?
乙羽の部屋にあった本からだけど?
《それはあの「ドキドキ百合百合危機一髪」というギャグ漫画でございますか?》
そうそう!
よく覚えているわね。
乙羽がそれを見ながらおなか抱えて楽しそうに笑っていたからさ、私も気になって一緒に読んでみたらそういう内容だったわけよ。
そしたら乙羽が、「男に絶対胸を触らせちゃダメなんだよ? ボタンを押されたら妊娠しちゃうからね? 男子にぶつかるのも、触れるのも絶対に禁止ね!」って言ったもん。
《……さすがは乙羽様でございます》
……え?
※桜夜は少々間違った知識を持っていますので、ご注意ください。因みに作者も、小学生の頃までは桜夜と同じ知識でした。
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