044 おちこぼれたち
「あぁ~おまえらの席は……あの辺適当に座れ。どうでもいい」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
おいっ!
適当だな先生のくせに!
それに、なんでおまえ楽しそうなの?!
明らかに私ら歓迎されていないよね?
むしろ殺気がヤバいんだけど?!
アンタこの子らになんかしたの?!
「お隣、よろしいでしょうか? 同じクラスメイトとして、これからよろしくお願いしますねっ!」
「……クソビッチが。消えろよ」
「はい! ありがとうございます!」
おかしい……この子、頭おかしいわ。
会話が噛み合っていないのだけれど?
それに、そろそろ私の裾からその手を離してほしい。
しかし、私ですらこの教室の雰囲気にのまれているっていうのに、この子は全く動じていないのね。
ちょっとだけビックリだわ。
この子は喜怒哀楽がとても豊富だからすぐ顔に出る。
嘘を付いていても、強がっていたとしてもその顔と体は正直に強張ってプルプル震えていた。
でも今は本当に楽しそうにしていて、殺気に怖がっていたり視線に緊張していたりしている様子が全くない。
迷宮にいたあの頃とはだいぶ変わってんなこいつ。
それともこれが貴族令嬢としての立ち振る舞いってやつ?
だとしたら恐るべし貴族。
まぁ考えても仕方がないから、とりあえず私もその隣の空いていた席へと座る。
周りからの奇妙な者を見るような視線がマジで痛いわぁ……。
「んじゃ~授業始めるぞ。おまえら全員……じゃなくなったんだな。おまえらのほとんどは平民だ。高貴な貴族様どもの道具であり肉壁だ。それ以外に使い道がないただの使い捨ての駒だ。自分が死にたくないなら死ぬ気で壊れない頑丈な体を作れ。それ以外におまえらの生きる理由はない。以上、各自筋トレ開始だ」
機嫌が悪そうな先生はそう言うと椅子に座って机に足をのせ、怠そうに本を読み始めた。
授業の開始がいきなり筋トレかよ!
しかも全員普通にやり始めんのかよ!
どっから出したよその筋トレ道具たち!
ツッコミどころが多すぎてそろそろ疲れるわ!
まぁこの殺気の正体はこれなのね。
こいつらは魔女っ娘以外が全員平民。
私も平民ということでいいよね?
この世界での平民の扱いはさっきの先生の話通り。
それなら貴族に対する異常な憎しみがあっても不思議じゃない。
ましてや、その貴族が自分たちと同じクラスに来れば……そりゃあこうなるわけだわ。
お願いだからそんなにダンベルを振り上げながら私を見ないで?
その目が怖いから。
「さぁ、アタクシたちも筋トレを始めましょう! おぅ!」
「……」
そろそろ突き刺さる視線が痛いですわよ、お嬢様。
しばらくお黙りになってくださいまし。
こいつの口テープで塞いだろうか……。
「アタクシたちは器具がないのでいつも通り準備運動から始めましょうか!」
「……」
まぁ……私も強くならないといけないのは事実だからやるか。
こんだけ自習時間が多いクラスなら私的には好都合ね。
ほんなら、いつも通りやるか……。
「はぁああああああ! せぃ! やぁあああ!」
「……」
や……やりづれぇ。
なんかめっちゃ見られてんだけど。
いつも通りに準備運動がてら魔女っ娘と組み手をやっているんだけど、クラス全員がこっちを見ている。
「ふぅ……このくらいでしょうか。いまだにあなたの動きには全然ついていけませんわ」
「……」
「少しは成長していると思っていたのですけど……」
「……」
お嬢様……お願いだからもうやめて。
私に向けられる視線が多くなってきているから!
気が付いたら先生までガン見してんじゃん。
「……おい、カミキ。あ、様を付けねぇといけなかったか? まぁめんどくせぇわ、それよりもおまえ……少し俺と戦ってみてくれねぇか?」
「え? 先生に様なんて呼ばれたらとても気持ち悪いので、是非ともやめてくださいね」
「……あ、あぁ」
そんな眩しい笑顔でえげつないことを言うなよ……先生ショック受けてんじゃん、可哀想に。
生徒たちが顔を隠してクスクスしている。
「今笑った奴……あとでグランド500週してこい」
「っ?!」
あらら……魔女っ娘のせいでいろいろと可哀想が増えていく。
それから私たちはこのクラス専用の訓練場とやらに来ていた。
この学園ではクラスごとに専用の訓練場があるみたいね。
以外と広いじゃん。
現世の体育館くらいの広さはあるね。
すごくきったねぇけど。
「それじゃあ……行くぞ」
「はいっ! いつでもどうぞ!」
「……ふん!」
おぉ。
さすがは先生だなぁ。
スキャンしてわかってはいたけど、この人体をよく鍛えてある。
この人のギアメタルは……腕にはめているあれかな?
「おい……マジか」
「あの鬼畜やろうの動きについていけるのかよ」
「化け物かよ……」
あらら、クラスメイトの魔女っ娘を見る目が変わっているみたい。
あ、先生がギアメタルとやらを使う気だ。
へぇ、そうなるのか……。
私はもう先に未来視でそれを見た。
「うらぁあああああっ!」
「っ?!」
先生は腕にはめていたギアメタルで、肘の部分から風を噴射させてスピードと勢いを増し、魔女っ娘へ向けて攻撃を仕掛けた。
それを魔女っ娘はギリギリで見切って攻撃を上手く受け流す。
「はふぅ……今のはビックリしましたぁ」
うん、うん。
私の教えをちゃんとやれているじゃないか。
「マジかよ……これも躱すのか。参った……俺、おまえに勝てねぇわ。今日からおまえが先生やれ」
「えっ?! えぇぇええええええええ?!」
おぅ……えらいことになってきたな。
「認めねぇ!」
「俺は認めねぇぞ!」
「ア、アタクシも絶対に嫌ですよぉ! アタクシなんかよりもこの方の方がはるかにお強いのですからぁ!」
おい、こら魔女っ娘!
やめろよ、そういうこと言うのっ!
「なんだとコラッ! おい、おまえ俺と戦え!」
「俺が先だこの野郎! 引っ込んでろ!」
「なんだとコラッ! 先におまえ殺してやる!」
「いい加減にしねぇかクズども」
「いたっ?!」「おうっ?!」「んがっ?!」
「俺にすら敵わないおまえらがこいつら2人に敵うかよ。自惚れんなクズども」
私は一切なにもしていないというのに……魔女っ娘のせいで勝手にクラス上位にされました。
ないわぁ……。
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