043 てんこうせいだよ
アイレンズに移るポイントまで空中機動術でやって来た。
今の私は空中を自在に走り回るマジシャンのようだ。
あの建物か……でっかぁ。
壁も……厚いなぁ。
見たところ、居住用の建物っぽい。
おそらくだけど、ここは教員たちが寝泊まりや仕事をする建物なんだろうね。
あのおっさんもほとんど家には帰らないって魔女っ娘が言っていたし。
アイレンズに移るポイントもその建物の最上階からは全く動いていない。
そういえば今日は学園も休みって言っていたっけ。
どうりで人気がないと思ったわ。
ていうか、さっきから魔女っ娘がうるさい。
一応魔女っ娘の耳には桜飾で作った花びらのイヤリングを付けてある。
まぁ監視するために馬車の中で渡したんだけどさ、めっちゃ喜ばれて困った。
あんなに目をキラキラされて嬉しそうに耳に付けていたら監視のためなんて言いづらいじゃん。
まぁ言わないけどさ。
それのおかげで、今魔女っ娘がどこでなにをしているかもわかるようになっているの。
最低限のプライベートはわきまえて、あまり会話が聞こえないようにしていたのにさ……。
めっちゃ大声で叫びながら私のことを探している。
いくら私の名前を知らないからってさ、「ちょっとだけ不愛想な子」って呼びながら探すのはどうかと思うよ?
しかも3人一緒に。
まぁいいや。
とりあえずこの建物の周辺をマッピングしたら一瞬だけ戻るかな。
……と思っていたらまさかの夜になっていた。
ないわ――。
あの建物いろいろ頑丈すぎよ。
建物自体の強度はもちろんのこと、窓は開かずの飾り窓。
ならばと、空調などの吸排気口を探したんだけどそれも見つからない。
建物全体に外から入り込める隙間が全くないわけよ。
だとしたらあの一つしかない出入口だけ。
そこはもちろんセキュリティーが厳重だ。
入り口から室内へと入るためには、5つの扉を通過する必要がある。
まず、入り口の前には監視カメラによる顔認証。
1つ目の扉には教員用と思われるICカード認証。
2つ目の扉には赤外線レーダーによる身体内部の認証。
3つ目の扉には音声センサーによる音声認証。
4つ目の扉には魔動力の測定による魔動力認証。
5つ目の扉には遺伝子測定と思われる唾液採取による遺伝子認証。
これムリくね?
ないわ――。
まさかここまでの高難易度だとは思わなかったよ。
これを調べるのに夢中になってこんな時間になってしまった。
さすがに盗聴器から聞こえていた魔女っ娘らの声も途中からは聞こえなくなっていたもんね。
まぁいいや。
魔女っ娘とは同じ部屋だって言っていたから寮に行けば寝られるでしょ。
私はもう疲れたよ。
ということで魔女っ娘の反応がある建物までやって来た。
やっぱりここはそこまでセキュリティーが厳重ではないようね。
全く……攻めにくく、攻められやすいってイジメだろ!
あ、この部屋か……って最上階かよ。
やっぱお嬢様だなアイツ。
まぁこっちとしてはバレずに出入りできそうで良かったけどさ。
私が窓から室内へと入ると、魔女っ娘がポロポロと涙を流して泣いていた。
まだ私には気が付いていないようだ。
なんでそんなに泣いてんだか……。
一緒にいたお友達2人は……部屋の外に気配があるね。
あぁ……魔女っ娘がこんなんだから心配で自分の部屋に戻れないのか。
この子にはちゃんとした友達がいるじゃん。
私なんかいなくてもあなたは大丈夫よ。
それにもうこんな時間だしさ、あんまり友達に心配させちゃダメよ。
「う……ひぐっ……ひぐっ……ふぇ?」
え?
やっと気が付いたの?
よっ、ただいまっ!
「ふぇえええええええええん!」
痛い痛い痛いってば!
転身機巻いている私が痛いってどういうこと?!
ちょっと、スマコ?!
《親愛なるサクヤ様。転身機はしばらくお休みです。申し訳ございませんが、今は魔女っ娘様の痛みを受け止めてあげてくださいませ》
はぁ?!
なにお休みって?!
アンタが機能を切っているだけでしょうがぁああ!
痛い痛い痛いってマジで。
ちょっと落ち着こ?
ね?
いい子だから……あだぁあああ!
その日の夜、魔女っ娘が私を離すことは一切なかった。
……お、重いわ。
こいつまた私の上で寝ていやがる。
「あ……良かった。ちゃんといた」
だからさ、別にいなくなんないってのよ!
あのおっさんの封印解くまではだけど。
《親愛なるサクヤ様、それを言葉で言ってあげないと一生このままだと思われます》
まぁ……そうね……それは非情に鬱陶しい。
「……ここ……ぃる」
「……え?! えぇえええええ?!」
な、なによ。
その顔は。
私だって一応人間なんだから言葉くらいしゃべるわよ。
イントネーションはばっちりなはず……多分。
それからもう一回おしゃべりしてくれっていうアピールがマジでうざかった。
起きてから身支度して校舎の中に入るまでずっとそれしか言わないんだもん。
私は今、支給された制服を転身機でコピーしたものを着て、その上にフードを被っている。
魔女っ娘はそのフードを取ろうとしたけど、壮絶に拒否してやった。
そして校舎と思われる建物までやってきて、担任の先生だというとても機嫌が悪そうな人物と一緒に教室へと足を踏み入れた。
ぐぁっ?!
な、なんだこの……溢れんばかりの殺気は。
教室に入った瞬間に感じる、突き刺さるような視線ともの凄い殺気。
ないわぁ……。
生徒全員が目つき悪すぎよ!
しかも全員男子!
そのほとんどが不良生徒です!
いろいろ荒れてます!
服装も荒れてます!
めっちゃガン垂れてます!
怖いです、嫌です、もうおうち帰ろう。
ぐぉ?!
こ、こら魔女っ娘!
私の首根っこから手を放しなさい!
「はじめましてみなさん! 今日からこのクラスの一員となりました、マイカ・カミキと……アタクシの大切なお友達です! どうぞ、仲良くしてくださいね!」
「死ね」
「殺してやる」
「クソ貴族が」
うわぁお。
誰か……助けてぇ……。
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