B01 Another story
気がつけば10万文字を越していました。
ここで桜夜を失った乙葉のルートを入れます。
「いやぁああああああ、桜夜ぁあああああああ……」
私はあの子に向かって必死に手を伸ばす。
もう届くことのないとわかる、あの小さくてか弱い手に向かって。
いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
離れるのはもう嫌だよ……桜夜。
今度は私が助ける番だって言ったじゃない。
ずっと一緒にいるって約束したじゃない。
どんどん離れていく私の大好きで大切な人。
最後に何かを訴えかけるような無表情なのに優しい目。
途端に体が軽くなって私の体はそのまま落下していく。
その直後に一際大きく建物が崩れ去った。
私は多分このまま助かってしまうのだろう。
なぜだか、それがわかってしまう。
最後に見たあの桜夜の目がそう言っている気がしたのだ。
――生きて……と。
自分が助かることよりも桜夜がいなくなるという現実に、私は意識を保つことができなくなってしまい、そのまま気を失ってしまった。
目が覚めるとそこは白い天井だった。
近くで聞こえる機械音から、そこが病院のベッドだということがわかった。
目を覚ましたことに気が付いて私の顔を覗き込む人の姿がある。
「……お母さん」
「……うん」
「……私……」
「あなたは……守られたの」
「……」
そこで病室にいるもう一人の存在に気が付き、体を勢いよく起こした。
そんな私を優しい目で見つめるその人は桜夜のお母さんだった。
「オトちゃん。無事でよかったわ……」
「し……しず……ちゃん……う……うぅ……ゔぁぁあああああああああああああああああああん」
桜夜のお母さんは、泣き出す私を優しく抱きしめてくれた。
私は溢れ出てくる感情も涙も全てを抑えることができずに、そのまま泣きじゃくった。
どのくらいの時間そうしていたのかもわからない。
ただただ桜夜の名前を呼びながら泣き叫ぶ私を優しく……とても優しく抱きしめてくれていた。
「少しは……落ち着いた?」
「……ゔん。ごめんなさい」
「いいのよ。あなたが生きていてくれて本当に良かったわ」
「でも……私のせいで……桜夜が……」
「あなたの左手に巻いているリボンと薬指にはめている指輪はね、私が桜夜にあげたものなの」
「え?」
「それはね、私が開発したスパイの七つ道具、転身機と空輪なの」
「……」
「あの子は、その2つの道具を使って自らの命と引き換えに、あなたの命を守ることを選んだ」
「どうして私だけを……桜夜も一緒に……」
「それはね……一人しか装着できないものだったからよ」
「……」
「七つ道具にはね、腕時計型のAIもいるんだけど、その子を経由して桜夜から私にメッセージが届いていたのよ。それがこれ……」
差し出されたスマホに映るその内容を見て、私はまた泣き崩れてしまった。
『お母さん、お父さんへ。ごめん、私死ぬわ! 予定よりも少しだけ早く逝ってしまう親不孝者の娘をどうかお許しくださいな。あと、私の命よりも大切で……たった一人の大好きな子を守れる力をくれて本当にありがとう! 私がいなくなった後も乙羽をどうか大事にしてあげて! 私だと思って……自分の子だと思って今までと変わらずに接してあげてくれると私は嬉しいな。ワガママな娘からの最後のお願いです! 本当に今までありがとう。そして……さようなら』
「オトちゃん、私はね、あなたも桜夜と同じように大事な自分の娘だと思っている。それは今も変わらないし、これからもずっと変わらない。あなたが桜夜を大切に想っているように、私もあなたのお母さん、ハルカを昔から大切に想っているの。その子の娘なら私の娘みたいなもんでしょ?」
「あ゛ああああぁぁぁぁぁ……」
「よしよし、アンタまでそんなに泣かないのよ、ハルカ。私……まで、泣けて……くる……じゃん……う、うわあぁぁぁああああん……桜夜ぁああああ」
その日私たち3人はたった一人の大切な人を亡くし……ただただ泣いた。
次の日から警察の人がやってきて、いろいろと事情聴取を受けたけど正直あまり覚えていない。
どうやらあの建物から生還できたのは、たまたま外近くにいた少人数と、私だけだったようだ。
捜査の結果わかったのは、どこかの国の反政府組織による爆弾を使った爆弾テロだろうということ。
約200人が死亡。
死体の損傷が激しい人がほとんどでまだ正確な人数が出ていない。
そして生還者の名前の中には、先に逃げていたはずのアズサ、ハズキ、ミサキ、ホノカの名前もなかった。
桜夜とあの4人の遺体はまだ見つかっていない。
事件からすでに2週間近く経っていることからもう生存者はいないとされている。
遺体の損傷が激しい人の数が多く、これ以上の捜査は困難を極めると決断された。
日本では類を見ない大事件となり、連日報道番組がこの事件を取り上げている
でも、世界中のテロ組織の内情を知っている桜夜のお母さんによると、どのテロ組織もその日は動きがなかったらしい。
日本の中でもそういった組織がゼロではないらしいけど、ここまでの事を起こす力は絶対にないということだった。
桜夜の両親と私のお母さんは寝る間も惜しんでこの事件を調べているらしい。
桜夜のお父さんの方は海外でテロ組織を潰し回りながら情報を収集し、お母さんたち2人は日本中の反政府組織を締め上げているとか……。
私はというと……あいかわらず病院のベッドから動けずにいた。
体はどこも異常がない。
だけど、私は桜夜という生きる希望をなくしたことで半分廃人のような状態になってしまっていた。
自ら命を絶とうかとも考えたけど、それは桜夜がくれたこの大事な指輪が許してはくれない。
これを外すことを私自身がどうしても拒絶してしまう。
まるで桜夜が生きろと言っているみたいで……。
ベッドの横の棚には、学校からたくさんの心配する声が寄せられているらしい。
それにはどれも私を気遣うメッセージが添えられているという。
私はそれに目を通すこともなく、涙も枯れ果てた酷い顔で夕日が差し込む白い天井を静かに眺めていた。
「あらあら、可哀想に……かなりやつれているようですねぇ、オトハちゃん?」
私以外に誰もいなかったはずの病室で、突然声がした。
それは、聞いただけでも全身から悪寒が込み上げてくるような声だった。
声がした方向に視線を移すと、窓の外で宙に浮いた状態で妖艶な笑みを浮かべている1人の少女の姿があった。
おやおや?ですね。
本編も気になるところですが、次もアズサたちのルート編にしようと思っています!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
もし良かったらブクマや評価をいただけると嬉しく思います。