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040 してやられた

 魔女っ娘の方に動きがあったわね。

 まさか私の目標がここに向かって来てくれるとは思わなかったわ。


 クズ神がアイレンズに示していたポイントが、なんとこの屋敷まで移動してきたのだ。

 それは魔女っ娘の父親が封印のクリスタルを持っているということだろう。


 そうとわかれば、私が動かない理由はない。


 いまだにメリドの実の美味しさに酔いしれている使用人たちの前から瞬時に姿を消す。


 まぁ、忍気で素早く動いて部屋から出ただけなんだけどね。


 廊下に出た私は空中機動術で空中を走り抜け、誰にも気が付かれることがないようにしながら、この屋敷の周りを動き回る不審な影のもとへと急ぐ。


*****


「お久しぶりです、お父様」

「あぁ……まさか生きていたとはな。話を聞いた時は驚いた」

「予定外……の言い間違いではございませんか?」

「……何を言う。わが子の無事を喜ばぬ親はおらん。よくぞ無事で戻った」

「はい……アタクシもまさか5年経っているとは思いませんでした。アタクシはもうあの学園には戻れないのでしょうか」

「いや、おまえにはまた学園へと戻ってもらう。もう12歳だから高等部だ」

「え?! よろしいの……ですか?」

「もちろんだ。私がその辺りは全てやっておこう」

「ありがとうございます! それでは、アタクシはこれで!」

「あぁ……」


*****


 あら?

 もしかして今のが合図だったかな?


 残念ながらアンタが手配したこいつらは私が無力化したよぉ。


 書斎と思われる部屋の中で2人の会話が始まる少し前に、そこの窓に向けて銃のようなものを構えていた不審なヤツらを特殊糸でグルグル巻きに拘束していた。


 魔女っ娘が部屋を退出するのと同時に、その窓から不審な奴らを放り投げる。


「なるほどな……何者か知らぬがただ者ではないようだ。この者たちを瞬時に拘束してしまうとは恐れ入った。あのポンコツが生きて戻るわけだ」

「……」

「昨日、四災岳の麓にあるこの国を守るための砦が何者かの攻撃を受けたが、あれはおまえの仕業だな?」

「……」

「ふははは、面白い! おまえ、わたしのもとに来ぬか?」

「……」

「そうか、残念だ。だが、素性の知れぬおまえに、この国で好き勝手にされてはこまるからな。悪いが監視させてもらうぞ」

「……」


 私はそれを聞くとすぐさまその場所から遠ざかる。


 あのおっさん……確かに封印のクリスタルを首に下げてはいたけれど、想像していたよりもとんでもない強さだった。


 今の私では到底勝つことができないほどに。


 しかも、完全にしてやられたわぁ……。

 すんげぇ面倒くさいことになった。


 この屋敷に入った段階で魔女っ娘と一緒にやってきた私の存在はあのおっさんに伝えられていたはず。


 瞬時に昨日の砦の件と、突然の魔女っ娘の帰宅を結び付け、先手を打たれてしまった。


 あいつはこの暗殺が魔女っ娘か、不可解な存在である私によって防止されることがわかっていたんだ。


 魔女っ娘があの迷宮内で生き抜いていたということは、魔女っ娘がとんでもなく強くなっているか、もしくは他の部外者の手助けがあったと考えた。


 それは魔女っ娘が1人ではなく、私と一緒にこの屋敷に来た時点で後者だと確信に変わっている。


 それを確かめるためにこの暗殺をしかけたんだ。

 自分の娘の命を犠牲に、私という不可解な存在をあぶり出すために。


 さすが一度暗殺をけしかけた父親はなかなかの鬼畜っぷりね。

 正直私はここまで頭が回っていなかった。


 悔しい。

 すごく悔しい。


 簡単に私という存在を認識されて、なにも考えずに誘き寄せられ、ノコノコと罠にかかった哀れな私。


 くそ……くそ!

 なんだ、この悔しさは。


 やっぱりあの砦での件は痛かったなぁ……。

 あの件から予定がいろいろと狂ってしまっている。


 おっさんが最後に言ったあの言葉。


「悪いが監視を付けさせてもらうぞ」


 これは私を常に見張るというわけじゃない。

 常に魔女っ娘の命を狙うという意味だ。

 私が離れると、そいつ(魔女っ娘)は死ぬぞと脅しをかけてきやがった。


 おっさんはあの短時間でよく魔女っ娘のことを観察していた。


 おそらく以前の様子とは違うあの態度。

 自分が殺されようとしていたことを知りながらもこの家に戻ってきたあの度胸。


 それが全て私という不可解な存在があったからだと瞬時に見抜いている。

 確かにあの時、魔女っ娘は私が近くにいたことに気が付いていた。


 だからこそ、魔女っ娘は強気に攻めた。

 その慢心が私と魔女っ娘の力関係を浮き彫りにしたのだ。


 悔しい。

 自分の不甲斐無さに無償に腹が立つ。


 今のところ魔女っ娘を本気で殺すつもりはないみたい。

 そのつもりなら自分でやればいいからね。

 あれほどの実力者なら一瞬で息の根を止めることもできるわけだし。


 後は今から始まるであろう魔女っ娘の暗殺をどうやって阻止するか。

 もちろん一番いいのは見殺しにすること。


 でも、ここまで連れて来たのは私だ。

 そしてこういう状況になったのも私のせいだ。


 魔女っ娘にはなんの罪もない。

 それなのに私のせいで命を狙われようとしている。


 もしここで見殺しにすれば、私は自分自身がどうしても許せなくなると思う。

 これがあのおっさんの罠だとしても、ここはあえて乗っかろう。


 この私に喧嘩を売ったこと……絶対に後悔させてやるわ。


 私はそんなことを考えながら、魔女っ娘が戻ってくる前にもとの場所へと戻った。


「お待たせしましたぁ! 今戻りましたです!」

「マ、マイカ様! 大変なんです! あの方がどこにもいらっしゃらないのです!」

「私どもがメリドの実に夢中になってしまったために……本当に申し訳ございません!」

「え? アタクシの目にはそこでメリドの実を食べているように見えるのですけど?」

「えっ?! えぇええ?! そ、そんな?! た、確かに先ほどまでは……」

「気にしなくても大丈夫ですよ! それよりも一緒にメリドの実を頂きませんか?」

「い、いえいえいえ! もう結構でございます! 先ほど頂きましたので!」

「そうですか! 美味しかったでしょ? うふふふ」


 学園に戻れるって聞いて一気にテンション上がってんなコイツ。

 気を抜きすぎだっての。

 まぁ、よほど嬉しかったみたいね。


 さて、この子とはここでバイバイする予定だったのに全くもって予定が狂ってしまったわ。


 もうしばらくはこの子と一緒か……。

 てことは私も学校行くの?


 え、ないわぁ……。

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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