039 とうちょう
案内されたのは応接間だった。
そこで出された不思議な味の紅茶や、甘いお菓子を私はムシャムシャ食べている。
魔女っ娘はもう死んだことになっていたので、部屋もきれいさっぱりに片付けられていたようだった。
「申し訳ございません、マイカ様。お部屋のものは私どもでなんとか確保しておこうと思っていたのですが……」
「気にしなくてもよいのですよ。もともとマキシム学園の女子寮にほとんどの荷物を置いていましたし」
「女子寮の荷物もすでに……なにせあれから5年も月日が経っておりますので」
「もうそんなに経っていましたか……それではもう12歳になりますわね」
「はい、まだ12歳ではございますが……とても立派になられて」
「アタクシもいろいろありました……ふふふ」
ん?!
なんで私を見てんの?!
もしかしてアンタの分のお菓子まで食べたのがバレた?
いまさら返せとか言われても、もう私のおなかの中だ!
はっはっは――!
「こ、この方は一体……」
「ふふふ、アタクシの大切な方ですの。この方がいなかったらアタクシの命はありませんでしたわ」
「さようでございましたか……なんとお礼を申し上げたらよいか……マイカご令嬢様をお救いいただきまして、本当にありがとうございました」
使用人たちが私に向かって土下座をぶちかましやがった。
おうふ、やめてくれ……食べたお菓子を吐き出しそうだ。
一気に居心地が悪くなってしまうわ。
「あははは。もうやめてあげて。その方はそういうことをされるのが苦手なのです」
「え?! そ、そうでございましたか……申し訳ございません」
なにやら私の話題で盛り上がっているようだけど、あっちの状態もなかなかヤバいね。
「お母さま! 一体全体どういうことですの?! なんであのポンコツが生きているのです! 魔物に襲わせて殺したはずではなかったのですか?!」
「私にもわからないわよ! お父様の作戦は確かに実行されたはずなのよ! 確かにあの日は魔動兵が帰ってきてマイカの死亡の報告を聞くはずだったけど、誰も帰ってこなかったことから全員が死亡したとお父様は処理されたわ!」
「じゃあなんであのポンコツだけが生き残ってんのよ! 本当に魔動兵は死んでいたの?!」
「それはあなたもあの血の付いた遺品を見たでしょ? あの後、調査団があの日迷宮へ向かわせた者全員の遺物を持ち帰ったのだから! あなたも一緒にあの子が持って行ったギアメタルの亡骸を見たじゃない!」
「確かにあれで死亡したと勘違いしていたけどさ! じゃあなんであんな場所でギアメタルもなしに生きているわけ?!」
「知らないわよそんなの! こっちだって頭がパニックになっているんだから!」
うわぁ……すんげぇ喚き散らしてみっともない。
こいつらがわかりやすく説明してくれたおかげで、魔女っ娘暗殺計画のあらすじがわかったわ。
となると、この魔女っ娘の家族は全員が敵ってことかね?
この使用人たちは味方っぽいけど……おそらくはこの家族の暗躍を知らないんだろうね。
しかしまぁ……盗聴されているっていうのによく喋ることよ。
アホだわぁ。
私はあの時、瞬時に桜飾を起動してヘアピンから桜の花びらを作り出し、あの母親の服の中にこっそりと忍ばせておいた。
本来桜飾は分身体を作ったり爆発させたりするものじゃなくて、こうやって発信機兼盗聴器という使い方をするのよねぇ。
危うく本来の使い方を忘れてしまうところだったわ。
さて、あのアホ親子の会話が本当なら魔女っ娘を暗殺しようとしていた主犯は父親か。
その父親がもうすぐ帰ってきて、奇跡の再会というわけね。
どんな顔すんだろ。
ちょっとだけ興味がないこともないね。
まぁ、親子の問題だ。
その辺は、この冷静を装っているけど内心ビクビクしまくりな魔女っ娘がなんとかするでしょ。
私には関係ない。
程なくして父親の帰宅が使用人から知らせられ、魔女っ娘は父親の部屋へと行ってしまった。
私はというと、使用人たちの奇妙な目に晒されて困っている。
お菓子のおかわりを持ってきてくれるということで、それを待っている間にメリドの実をポーチから取り出して食べていたら、部屋に入って来た使用人から驚愕の目で見られてしまったのだ。
「そ……それはもしや、メリドの実ではございませんでしょうか?!」
「まさか……あの幻の果実と言われているメリドの実ですとぉ?!」
「……」
ないわ――。
そ、そんなに見ないでほしいんだけど……。
もしかして食べたいってこと?
魔女っ娘も最初は泣いて喜びながら食べていたしね。
私はフードを深く被ったまま、ポーチから人数分のメリドの実を取り出して、それをそっと差し出す。
「そ、そそそそんな貴重なもの、私どもはいただけません!」
いや、いらないんなら私食べるけどさ。
まだいっぱいポーチに入っているから別にそのくらいいいわよ。
《親愛なるサクヤ様。声を出さなければ相手には伝わりません》
いやいや、アンタ私となん年の付き合いよ。
それができないことくらいわかってんでしょ?
《もちろんでございます! ですから、無理やり口の中に放りこんでやりましょう。こいつらはいろいろと今後も使えそうなのでエサ付けです》
私よりもタチの悪い考えにビックリしているところよ。
まぁ別にいいけどさ。
私はメリドの実をポンと上に放り投げ、特殊糸で瞬時にそれを切り刻む。
そして、使用人たちの口に目掛けてそれを特殊糸で飛ばした。
「うぷっ?!」
「はんっ?!」
「んごっ?!」
次々に口の中へとメリドの実が飛び込んでくると、途端に顔をにやけさせる使用人たち。
「な、なんという甘さでしょう」
「これほどまでとは」
「もう死んでも構わない……」
ふふふ。
そうだろ、そうだろ。
やっぱりメリドの実は別格に美味しいもんね。
……あ、そろそろ向こう側が動き出したね。
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