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037 きかん

「こ、これ以上は……行かないで……」

「……」

「アタシは……戻りたくなんてない!」

「……」

「もっと……一緒にいさせてよ」

「……」

「迷惑かもしれないけど……アタシをそばに置いてよぉおお」


 わんわんと泣き出してしまった。

 カモフラージュモードのおかげで、その声は外に漏れることはない。


 しかし要塞を見てみると、一気に大量の人たちが押し寄せてパニックになっていた。


「なに事だぁ?!」

「魔族の襲来か?!」

「4つの災害は止まっていないぞ?!」

「なんだこの大きな穴は?!」

「誰か状況を説明しろぉ!」


 魔女っ娘の魔法を受けたその壁は大きく凹み、黒く焦げている。

 あの攻撃を受けながら、この程度で済んでいるのはさすがだと思う。


 要塞には完全武装して目をギラギラさせている大量の人族。

 背中にはわんわん泣きじゃくっている、わがまま魔女っ娘。


 完全なカオス状態。


 ないわぁ――。

 面倒くさいことこの上ない。


 言っとくけど、私結構怒ってるよ?


 だいたいさ、私がこの子の面倒をみてあげる理由なんて何もないわけよ。


 成り行きでそうなってしまったけどさ、ただ自分が付いて来ただけじゃん。

 まぁ一応私も人の心は持っているからさ、わざわざ見殺しにはしなかっただけで。


 それを当たり前みたいに捉えないでほしいわけよ。


 まぁ子どもなんだからそれはしょうがないのかもしんないけどさぁ。

 そもそも私って別世界の人間なわけよ。


 こっちの人間ならさ、やっぱりこっちの世界の秩序に従うべきだと思うわけ。


 やっぱり冷静に考えてみると、私というこの世界の異物とは一緒いるべきじゃなかったんだと思う。


 あのまま見殺しにしていれば……なんて今更後悔しても遅いよね。


 ううん、実際にその後でも放置しようと思えばいくらでもできたのよ。

 ギュッとしがみ付いたこのか弱い手をいくらでも振りほどくことはできたわけ。

 だけど、なぜかそれができなかった。


 それが今のこの結果なんだと思う。


 魔女っ娘を責めてはいけない。

 そう、全部私が悪いんだ。

 私の甘さが招いたこと。


 だからこそ自分自身に腹が立っている。


「ヒグ……ヒグ……うぐッ?!」


 私は魔女っ娘を見つめ、小さく「ごめん」とだけ呟くと魔女っ娘のおなかに拳を入れて気絶させた。


 この子をここまで連れてきた責任は私にある。

 だからこの場所ではなく、せめて魔女っ娘がいたとされる場所まで運ぶとしよう。


 私は要塞がパニックを起こしている隙に、そのまま空間機動術で空中を走り抜けた。


 砦を越えると、見えてくるのは木々がたくさん生い茂った森林地帯や広い野原。


 それをさらに進むと村らしき田舎の街並みが見えてきた。


 さらにこの先を進むと魔女っ娘がいた学園も私の目的地もあるようだ。


 そのまま空中機動術で空中を走り抜けていく。


 空中を走っていることもあって、かなり遠くの位置に大きな白いお城を見つけた。

 その城はタワーみたいに高くてデカいようだ。


 存在感……半端ねぇ。


 まるで絵本の世界から飛び出したのかと思ってしまうようなそのお城には、さっきの要塞にも設置されていた物騒な大砲などが武装されていた。


 そのお城の周りには同じような高いビルが立ち並び、さらにその周りには様々な建造物が建てられていた。


 それ以外の街並みは、ヨーロッパ風とでもいったらいいのかな?


 とりあえず日本っぽい街並みではないね。


 イメージ的には、城に近づくにつれて都会感が増しているような感じだね。


 まだこの辺りは準田舎風。

 緑豊かな森林もあるし、川もある。


 道路を鋪装しているのは石? レンガ? とりあえずカラフルでちょっとかわいい。


 あそこにある小屋には魔物でもない、人間でもない生物の気配がする。


 おそらくは、いろいろな家畜を育てているんだろうね。


 この真下に見える広大な面積の畑でも、いろいろな植物が栽培されているようだ。


 鍬を持って畑を耕している人を何人か見かけるしね。

 でも見た目はとても貧しそうで、フラフラしていた。


 てか、あの辺ビニールハウスとかまであるじゃん!

 なんか果物とか栽培したりしてないかなぁ……イチゴとか食べたいわ。


 まぁこの世界がいくら殺戮と戦いだらけだとしても、生きていくためには食べていく必要があるもんね。


 普通にこうやって農業とかしていれば平和に過ごせるのにね。


 なんでそこまで魔族なんかに執着するんだろうか……。


 まぁ、向こう側の邪神とかいうやつの仕業なんだろうけどさ。


 一体なにがこの世界の人々を殺戮の意志へ向かわせているんだろうか。


 それがわかれば、本当の平和になるのかもね。


 私には正直どうでもいいことだけど。


 それを考えていくのはこの子たちの仕事だよ。

 私には私の役目をやろう。


 森を越え、峠を越えて先ほどの村よりも都会感が増しているところまでやってきた。


 てか、広すぎだわ!

 忍気を発動していなかったのもあるけどさ、もう暗くなってんじゃん。


 走りっぱなしで疲れたから、そろそろ止まろうかな。


 私は空中から地上へと降り、川にかかっている橋の下へと身を潜めた。


 これで段ボールでもあれば、完全にホームレスの気分ね。


 まぁこの辺は他に隠れられるところもないから仕方ないか。


 あ、魔女っ娘が目を覚ました。


「……」


 いや、なんか言えよ。

 気まずいわぁ。


 ひと通り、辺りの景色を確認した後はシュンとしてなにも言わず俯いてしまった。


 私の制服の裾を握り絞めたままで。


 はぁ……めんどくさいわぁ――。

お読みいただきありがとうございます。

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