036 けつい
ここから第二章です。
第二章では地上での人族との絡みや学園生活が主な内容になっていきます。
引き続き楽しんでもらえたら嬉しいです!
鬱陶しく降り注いでいた落雷はめっきりおさまった。
それに、山の傾斜もだいぶ緩やかになってきている。
しかし、この辺までまったく何もないところだったなぁ。
ただの岩と土が固まった壁みたいな感じだった。
まぁまだ標高7000m付近だしね。
この間はほぼ90度かよって感じの傾斜で、真っ逆さまに落ちている感覚だった。
だけど、今はかなり傾斜が高い山といった感じの斜面を走って降っている。
しかし、今この場所は雪が多く積もっている極寒地帯でもあった。
寒さは転身機のおかげでなんともないけど、雪で足を取られて全然前に進めないのよ。
だから、めんどくさいけど空間機動術で雪の上に壁を作って走っている。
これ……水の上とかでやったら、まるで水の上を走っているように見えるかな。
なにそれちょ――カッコいい。
今度やってみよ。
それにしても余程この山頂に人を近づけたくないんだろうね。
ただでさえ1万m越えの高度に加えて、極寒地帯に山頂は雷地獄。
そりゃあ普通の人間は生きていられるはずがないわ。
それに、気が付いていてあえて無視しているんだけどさ、この雪の下には大量の死体が埋まってんのよ。
この辺で戦争でもあったのか……それともこの山頂を越えようとしていた者たちなのか。
私らは今その死体の上を走っている状態なのよ。
この事実を魔女っ娘が知ったら失神するかもね。
魔女っ娘といえばどうしたのかまるで元気がない。
それに今まで遠慮気味で背中に乗っていたというのに、今はがっちり首に手を回されていて、距離が異様に近い。
喉も苦しいし、吐息が私の首元に当たってくすぐったいってのよ、マジで。
せっかく地上に出られたっていうのに浮かない顔しちゃってさ。
まぁ、一度は殺されかけたんだもんね。
もしかしたら帰ってからのことを考えているのかもしれない。
それはいいんだけどさ、このアイレンズに映っているポイントってこの子の国の近くなの?
《この地はすでにルドラルガ、この魔女っ娘様が住む国の領土に入っております》
あ、そうなのね。
この子が住んでいた町は分かるの?
《以前会話に出ていたマキシム学園という名前が検索にかかりました。その位置をアイレンズに表示します》
ん?
ここってクズ神が示したポイントのすぐ近くじゃないの!
なんて偶然!
ラッキーじゃん!
ならとっととそこに向かうわよ!
《御意》
私は下山スピードを速めていく。
途中で疲れては休憩をし、水分補給と栄養補給を忘れない。
そういえば気にしていなかったけど、この世界に太陽は無かった。
空は地球と同じで青く、雲もある。
今ちょうどその雲の高さを通り過ぎていったわ。
するとやっと地上の景色が見えてきた。
てか、なんじゃあれ?!
壁?!
ものすんごいデカくて高い壁がこの山の麓で一直線に伸びてんだけど。
しかもその壁の上には物騒な大砲がこちら側に向けられている。
これはあれだ、要塞だね。
多分、この山から魔族軍が攻めてきても大丈夫なようにしているんだわ。
それにしたってあれヤバくね?
太くて固くて、それに長い……ね。
簡単には壊れそうもないし、並大抵の兵力じゃ一瞬で全滅させられてしまうだろう。
そう思わせるほどの強靭な要塞だった。
あんなもん、どうやって突破すんべ?!
ちらっと背中の魔女っ娘を見てみる。
……ぷぃ。
こ、こいつ……初めてそっぽ向きやがった!
なんなの?!
反抗期?!
ないわぁ――。
魔女っ娘は私があの砦を突破したいことがわかっていると思う。
でも本人はあの砦の向こう側へ戻りたくはないのだろう。
それは下山を始めてからあからさまに態度に出しはじめていた。
まぁなにか事情があるのはわかっているつもりだけどさ、アンタの面倒を見ながら旅を続けるわけにはいかないの。
そっちがその気なら、私はもうアンタをあてにはしない。
目的地はわかっているからね。
『忍気発動、65スロットル!』
「ぎゃんっ?!」
私は忍者装束になると地面を強く蹴り、一気に加速した。
スマコ、カモフラージュモード!
《御意。転身機、カモフラージュモードへ移行します》
私が見ているアイレンズ上の視界には無数のレーダーが張り巡らされていることを見破っている。
無数の監視カメラに赤外線レーダー、重量センサーと、それに熱源感知装置……かな?
どんだけ厳重警備だ!
どっかの世紀末の魔術師もビックリだよ!
私の転身機のカモフラージュモードは、自分たちの姿を周りの景色と同化させて見えなくしてしまうものであり、さらに熱源感知装置にも反応しないという優れもの!
これで、監視カメラと熱源感知装置はクリア。
後は重量センサーと赤外線レーダーのみ。
重量センサーは地面の中に埋まっているから、空間機動術を使えばクリア。
赤外線レーダーの回避は……私の元、得意分野だ!
迫りくる赤いレーザー線を空間機動術で巧に回避していく。
魔女っ娘は、なにもしないか……。
帰りたくない魔女っ娘が後ろで暴れられてうっかりレーダーに引っかかるかもという私の読みは外れたようだ。
それを踏まえたうえでレーダーを避けていたというのに。
あとはこのまま上昇して、このばかデカい要塞を飛び越えるだけ。
だから……私は油断していた。
もう魔女っ娘はなにもできないと思っていた。
気が付いた時には魔女っ娘が魔法を構築し、その要塞の壁を目掛けて火炎魔法を発動していたのだった。
大きな爆炎が立ち込める中、けたたましくサイレンみたいな警報が鳴り響く。
後ろを振り向くと、プルプルと大粒の涙を流した魔女っ娘がこちらを見ていた。
……ないわぁ――。
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