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035 かなしい

またまたマイカ視点です。

 それからまたしばらく旅をしたんだけど、その中でアタシはもっと強くならないといけないと思った。


 強気者が絶対のこの世界では、弱気者がいくら平和を求めたところでただの戯言だと笑われるだけ。


 それなら力がいる。

 でも簡単に力が手に入らないのがこの世界の摂理。


 特にアタシみたいなポンコツにはアズサちゃんやハズキちゃん、それにお父様みたいな天才たちにはどんなに頑張っても遠く及ばない。


 こんなアタシにも隣で力を見せてくれる子がいる。

 こんなアタシが戦っているところを黙って見守ってくれる子がいる。

 ダメなところをしっかりと指摘してくれる子がいる(相変わらずしゃべってはくれないけど……)


 だからこの子の隣でなら、アタシは強く生きられるような気がする。


 それからまた旅は続き、ある天井が見えないほどに高いエリアまでやって来た。

 どうやらここを昇っていく気らしい。


 アタシ高いところ苦手……なのと、天井が真っ暗でとても怖い。

 なんか深い闇に飲み込まれていく感覚がすごく怖い。


 恐怖のあまりこの子にしがみ付く手に力が入る。


 でもずっと力を入れっぱなしにしていると手が痺れてきちゃって逆に力が入らなくなっていった。


 そのことがアタシの恐怖を倍増させていく。


 ちょうど手の感覚がなくなってしまった最悪のタイミングで魔物があらわれた。


「グギャァアアア!」


「ひぃいい?! な、なんか物騒な声が聞こえる気がするんだけどぉ……気のせいじゃないよね?」


 なんて聞いてみても、もちろん返事はない。

 この子の動きがやっぱり変わっている。


 ということはおそらく魔物と戦おうとしているということだ。


 でもマズい。

 今のアタシは手や足に力が入らないの!

 だから急に動いちゃ、あっ……。


 途端に体が軽くなり、体が落下しているような感覚に陥る。


「ねぇねぇ、これなんか落ちてない?! ねぇねぇ?! これ、落ちてなぃいいいい?!」


 恐怖から声に出してみてももちろん返事はない。

 このまま落下して死んでしまうんだろうか。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 もう頭の中ではそれしか考えられなくなってしまっている。


 折角こんなアタシにも目標ができたのに。

 もっと近くであの子と一緒に旅をしたかったのに。

 いろんな思い出が走馬灯のように頭の中で流れていく。


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。

 助けて……。


 アタシは必死にあの子に助けを求めた。


 すると、突然服が引っ張られて落下がピタリと止まった。

 その後に今度はものすごい力で上空へと引っ張られる。


「ぴにゃぁあッ?!」


 あまりの恐怖に思わず変な声まで出てしまった。

 勢いがおさまり、ストンと優しい手に受け止められる。


 あの子が助けてくれた。

 そう思った途端に涙が溢れて止まらなくなってしまったと同時に、魔物に対してこれまでにないほどの怒りを覚えた。


「ヒグッ……ヒグッ……グスン……」


 涙は止まらないけど、アタシは術式を発動させる。


 もっと強く……もっと強く……さらに強く……怒りでいっぱいだった頭の中に1つの複雑な術式が浮かび上がる。


 それを迷うことなく構築し、気が付いたらアタシは知らない魔法を発動していた。


「火炎魔法、業火爆炎(ごうかばくえん)!」


 知らないはずのその魔法の名前を叫ぶと、アタシが差し出した両手の前に術式が浮かび上がり、そこから今までに見たこともないような火魔法が発動された。


 その業火の爆炎はたくさんいた魔物を一瞬で消し炭にしてしまい、跡形もなく消滅させてしまった。


 でも、そんなことよりアタシはまたこの子の背中に戻って来られたことの安心感で胸がいっぱいになり、再び幸せな香りがするこの子の背中へと顔を埋めるのだった。


 その後、地上へと出た。


 こんな入り口は初めて見たけど、ここは多分四災岳の山頂付近。


 酸素は薄く、常に雷が鳴り響いていて生物が絶対に生存できない場所。


 アタシは溜まらず気を失っていた。


 ふと目を覚ますと、糸で出来た大きなドーム型のテントの中で眠っていた。


 見るからにそのドームの糸はビリビリと電気が流れているのがわかる。


 隣を見ると、あの子が同じように横になっていた。

 なぜかアタシにも首に巻いている布を巻いてくれていた。


 この子がこの布を大事にしていることはこの長い付き合いの中で知っている。


 それをアタシにも巻いてくれているというのは本当にうれしくて笑みがこぼれてしまった。


 しばらくそのかわいい寝顔を見つめていると、突然その子の顔が苦痛で歪んだ。

 すると、ツーッとその子の目元から一滴の涙がこぼれる。


 アタシは突然のことに慌ててその子の手を握る。


「……ぉと……は……」


 聞き取れるかギリギリの音量だったけど、この辺りがなぜか無音だったことで聞き取ることができた。


 寝言……。

 人の名前?

 それとも別のなにか?


 この子にも多分いろいろと事情があるんだと思う。


 魔族みたいな角はないけれど、アタシたち人族ともどこか違う不思議な子。


 でもアタシにはもうそんなこと関係ない。

 大切だと思っている子が涙を流している。

 アタシにもこの子を守れる力がほしい……。


 泣いているこの子をギュッと胸の中に抱きしめる。

 今はこのくらいしかできないけど、いつかはアタシもこの子のために……。


 そう思いながらも、ふわりと香るいい匂いと柔らかい体の感触を感じてしまい、胸の鼓動が恐ろしく高鳴ってしまう。


「ふぅ……ふぅ……落ち着いて、アタシ。頑張れ、アタシ。」


 でもその子は突然目を覚まし、いつもの無愛想な顔でアタシは突き放されてしまった。


 ちょっとだけ……ぅぅん、すごく悲しかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

とても嬉しいです!

次話からは第二章となり、この続きで地上でのお話となります!

引き続き楽しんでもらえるように頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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