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034 もくひょう

再びマイカ視点です

 アタシの目の前で膝から崩れ去る女の子。


「あ……あぁああ……やだ……こんなのやだよぉ」


 咄嗟に抱きかかえるけど、アタシの腕の中でどんどん冷たくなっていく。


 いやだいやだいやだいやだ。


 アタシが泣きながらぎゅっと抱きしめていると、その子は急にドクンと体をはねさせて目を開いた。


 え、え?!

 えぇええええええ?!


 大量に流れていた血液は止まり、さらに鳩尾付近の大きな傷口までもがきれいに塞がっている。


 突然にことに戸惑う私を無視して、その子は立ち上がる。

 全くわけがわからないけれど、雰囲気があの子とまるで違っていた。


 その子は力を開放する時にやる、いつも通りの独特なポーズをとって力を開放させた。


 だけど、それはいつもの力ではなく近寄るだけでバチバチと弾かれるような、まるで白虎と同じような力をしていた。


 さらに漆黒の髪色が鮮やかなピンク色へと変わっている。


「か、神成……様? いや、そんなはずはない!」


 白虎は驚いたような様子でそう口にする。


 白虎が言葉をしゃべっている時点で驚きだけど、それよりも今はあの子の身に何かが起こっていることの方が心配だった。


 白虎がまたアタシの目では追えないほどのスピードであの子に前足の鋭い爪を突きたてる。


 すると、その子はそれを片手でいとも簡単に受け止めると、遅れて周りに衝撃波が襲う。

 アタシはその勢いだけで簡単に飛ばされて壁に激突してしまった。


 痛い。

 正直痛いけど、それどころじゃない。


 いったい、あの子に何が起こっているの?!

 あれはどう見ても今までのあの子じゃない。


 あの子は白虎の鋭い爪を片手でいとも簡単にへし折る。

 嫌な音とともに、白虎は瞬時に距離を取った。


 手に持っていた白虎の爪をポイッと投げ捨てた後、クイクイッと白虎に向けて挑発するように手招きをする。


 白虎は低い唸り声を上げた後、またアタシには見えないスピードであの子へと襲い掛かる。


 しかし、弾け飛んだのは白虎の方だった。


 それに構わず何度も何度も襲い掛かっているけど、なぜか白虎だけが弾け飛んでいる。


 アタシの目にはあの子が動いているようには見えていない。

 ただ茫然と立ち尽くしているだけ。


 それなのに、白虎だけがボロボロの姿へと変わっていく。

 一体なにが起こっているのだろう。


 アタシ程度ではもう理解できない領域の戦いだ。

 でも、ただただあの子の無事が一番の嬉しさだった。


 正直もうダメかと思っていたから……。


「******」


 え、えぇぇえええ?!

 しゃ、しゃべったの?!

 今、あの子しゃべったよね?!

 あの子はしゃべれない子じゃなかったの?!


 なにを言っているのかわかんないけど……初めて聞いたその声に思わず胸が高鳴る。


 な、なんてきれいな声なんだろう。

 すごくドキドキしちゃう。


 その一言だけを放った瞬間にあの子の姿が、フッと消えたかと思ったら白虎の首元まで一瞬で接近していた。


 そして、バリンと大きな音をたてて、白虎の首に巻いていたクリスタルみたいなものを破壊した。


 その瞬間にとんでもない光が放たれて、辺りがなにも見えなくなってしまった。


 アタシが慌てていると、フッとあの子のお花のようないい匂いに包まれ、耳もとでさっきの声がした。


「この子……ちょっと難しい子だけど……仲良くして……あげて」

「え……あ、はい……?」


 アタシが目を瞑ったままマヌケな返事をした頃には眩しかった光が落ち着いてきた。


 目が慣れた頃には白虎の姿はなく、あの子はもとの姿に戻っていてアタシのすぐ近くで横になっていた。


 アタシはすぐさま抱き抱える。


 あ、あれ?!

 息してない?!


 うそうそ、さっきまで動いていたじゃん!

 なんで?!

 どうして?!


 アタシは正直パニックになっていた。

 だから焦ってその……口からアタシの息を入れてみた。

 人工呼吸的な意味を込めて。


 するとその子の体はビクンと反応し、ゆっくりと目を覚ました。


 良かった……この感じは紛れもなくあの子だ。

 安心したら涙が出てきてしまった。


 さっきの声の主がこの子のなんなのかはわからない。

 けれど、今はこの子が無事に生きていることだけが素直に嬉しかった。



 それからはまたしばらくは以前と同じように旅を続けていたんだけど、あるエリアで休んでいたところで偶然にも魔族と遭遇した。


 最初は同じ人族かと思って魔物に襲われているのを助けたんだけれど、実はそれが魔族だった。


 アタシが助けたその魔族の子たちは、アタシを人族だとわかった上できちんとお礼を言ってくれた。


 アタシたち人族となにも変わらない感情と、優しそうなあの笑顔。

 最終的にはその魔族の子と、この子にまた命を救われてしまった。


 やっぱりアズサちゃんやハズキちゃんが言っていたように魔族と戦争をする必要がないのかもしれない。


 アタシたちは勝手に魔族が危険で、凶悪で絶対的な悪だと思い込んでいた。

 なぜなら、幼いころから繰り返しそうやって教えられてきたからだ。


 こんな時、アズサちゃんなら『くっだらね』なんて言うんだろうなぁ。

 なんて思っていたら、思わず声に出しちゃっていたみたい。


 あれ?

 どうしてこの子はさっきからアタシの顔を見ているんだろう。

 あ、多分聞いたことのない言葉だったからビックリしたのかな。


 アタシも初めて聞いた時はビックリしたもんなぁ。

 アズサちゃんとハズキちゃんだけの秘密の言葉らしいからね。

 アタシも特別に教えてもらったの。


 実際にアタシたちが思っているほど、魔族は悪い人たちばかりじゃないのかもしれない。


 アタシ決めた!

 やっぱりこの戦争だらけの世界を平和にしたい。

 魔族と戦争をしなくてもいいように、この殺戮に満ちたこの世界を少しでも変えたい!


 それがアタシの目標になった。

明日までマイカ視点です!

その後、第二章に入っていきます!

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