033 すきなきもち
マイカ視点です。
残り数話はマイカ視点でお届けします。
その後、第二章へと入ります。
――時は少しさかのぼる。
白虎が出た……終わった。
しかもこの子ったら戦おうとしている……終わった。
この子がいくら強くても、これだけには絶対に勝てるはずもない。
なぜならこれは、この世界に4匹いる神の使いと呼ばれる四神獣の1体なのだから。
そしてなにを隠そう、この白虎こそがアタシの住んでいるルドラルガという国の守り神として崇められている存在なのだ。
ただ、この四獣の存在は伝説とされていて、おとぎ話の中だけのものだと思っていた。
アタシが読んだそのおとぎ話では、人族と魔族との戦争で敗戦した人族が滅びかけようとしたその瞬間に、どこからともなくその四神獣が現れて人族を守ってくれたというもの。
一度魔族との戦争が起こってしまうと、この世界を2つに隔てている四災岳が戦場の場と化す。
だから人族は、それぞれの国で魔動兵団を結成し、四災岳の麓に大きな砦を構えて魔族を迎え撃つのだ。
世界全土にわたってその砦は隙間なくつながっており、それをそれぞれの国の魔動兵団で守っている。
アタシの住んでいたルドラルガでも魔動兵団が結成されていて、常時その砦を守っている。
もしその砦が一箇所でも壊されてしまうと、そこから魔族軍がなだれ込んでしまい、内側から徐々に領土を占領されてしまうことになる。
だから一つの砦の崩壊は、人族全土の脅威となり人族の絶滅を意味するのだ。
ここからはおとぎ話だけど、その砦が大昔に一度だけ崩壊してしまったことがあって、人族が滅びかけたということがあった。
その時にどこからともなく現れた四神獣が、人族を守ってくれたとされている。
そして、ルドラルガにはその四神獣である白虎が現れたとされているのだ。
それからこのルドラルガでは白虎を国の守り神とし、長い間崇め続けている。
もはや、それはただの伝説で存在すらしていないものだとばかり思っていた、空想上のいきもの。
それがこうして目の前に立っている。
それだけでも信じられないことなのに、この子は戦おうとしている。
ここ数年ずっと隣にいたから、わかる。
止めなきゃと思って声をかけようかとしたら、ものすごい恐怖と寒気が全身を襲い、アタシは気を失っていた。
アタシが大きな音で目を覚ました時には、あの子が白虎に体当たりをされて壁に激突していた時だった。
そのあまりの衝撃に、アタシは腰が抜けそうになる。
ボロボロの姿のあの子が壁に激突した瞬間にすごい量の血液を吐き出した。
ヤバい……このままじゃ、あの子が死んじゃう。
それだけは……絶対に嫌だ。
人族として、この世界に生きる者としては白虎に手を出すことなんてご法度なのかもしれない。
でも……そんなことは知らない!
あの子はアタシを助けてくれた。
あの子はアタシに生きる希望をくれた。
あの子はアタシにまた笑顔を与えてくれた。
それなのに、アタシはあの子になにも返せていない。
気が付いたらアタシは魔法を構築していた。
魔動力を操作して、構築した術式に流し込んでいく。
人族は普通魔法を構築することができない。
というか、そういう概念がない。
魔動力をギアメタルに介して発動する以外に、魔法を発動させる方法を知らなかったのだ。
魔族はギアメタルの代わりに魔法スキルというものを使っていると聞いたことがある。
そのスキルというものは魔族しか取得することはできないらしい。
そこで、アタシはあの子の力の使い方を観察してそれを真似した。
あの子は魔動力みたいな力を自分の体にまとわせて戦うのが基本スタイル。
そのおかげで、身体能力がずば抜けて上がっている。
アタシにはこの使い方はまだできない。
まず、自分の体の隅々に魔動力を行き渡らせることがかなり難しいのと、さらにあの子はあの特殊な力を体の中で高速回転させている。
簡単にいうなら魔動力を体内で爆発させているイメージなの……正直、人間技ではないと思う。
アタシがそれを真似しようとしたら、本気で全身がバラバラになるかと思った。
その上で、さらにその力を特殊な道具に流して魔法を発動させていた。
それはアタシらがギアメタルを使う原理とあまり変わりないかもしれないけど、この子はあの奇麗なピンク色の花びら1枚1枚を巧みに操って、自分と同じ姿を作ったり、それを操って戦ったりしている。
もう同じ人間とは思えないほどの高度な技術を持っていると思う。
だからこそ、アタシも少しずつこの子に近づきたい。
アタシよりも強くてたくましくて、ちょっぴり無愛想なのに実は優しくて……そしてアタシが好きになってしまった女の子。
アタシはあなたに近づきたい。
あなたのそばにずっといたい。
こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
だからこそ、今持てる全力を白虎にぶつける!
そう思ってアタシが放った混信の火魔法は、無情にもいとも簡単に弾かれた。
まるで飛び虫を払うかの如く簡単に。
その直後、アタシが見たものはいつの間にか目の前に迫っていた白虎の鋭い爪を赤く染めた鮮血。
まるでアタシを庇ったかのようにアタシと白虎との間に入り、身体を貫かれていたアタシの好きな女の子だった。
「……いや、そんな……あ、あ……あぁぁああああああ?!」
アタシが声にならない叫びを上げるとともに、その子はそっと目を閉じた。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。