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032 ぶんぶん

ぶんぶん!

「桜夜、私の手につかまって!」

「桜夜、大丈夫! 私がずっと一緒に走ってあげるんだから!」

「桜夜、あなたは私が絶対に守るの! だから……」


「桜夜……もう私の手はいらないんだね……」

「桜夜……もう私よりも早く前を走れるんだね……」

「桜夜……もうあなたは私の助けなんていらなくなっちゃったんだね……」

「桜夜……もうあなたには私が必要ないんだね……」


 ま、待って!

 私にはあなたが必要なの!

 体の病気は治ってもあなたが……私にはあなたが、乙羽!



*****


 え、夢……嫌な夢だったな。

 息が止まりそうなほどに胸が苦しく、張り裂けそうなほどにズキズキと痛む。


 あの白虎と戦った時に感じた痛みに少し近いな……。

 まだあの時の影響が残っているのかな。


 乙羽は私が病気だったから一緒にいてくれた。

 私が一人ぼっちだったから一緒にいてくれた。


 今の私は多分、もう乙羽の知っている私じゃない。

 もし……万が一にも私の乙羽に会いたいという願いが叶ったとしても、もうこんな私とは一緒にいてくれないかもしれない。


 夢のせいで嫌なことばかり考えてしまう。


 ドクドクドクドクドクドクドク。


 うるさいのよ、さっきから!

 なんの音なの?!


「ふぅ……ふぅ……落ち着いて、アタシ。頑張れ、アタシ。」


 え、こいつなに言ってんの?

 ていうか、これどういう状況?!


 私は今、仰向けに寝ている状態で魔女っ娘の胸の中に納まっている。


 なにこいつ人を抱き枕にしちゃってんのさ。

 ていうか、これこの子の心臓の音?!


 ヤバいくらいに心拍が上がっているんだけど……なにかの病気?!

 転身機は……巻いているね。


 スマコ、この子の体に、一体なにが起こっているの?!


《……体のどこにも異常はありません。その心拍を正常に戻すには、サクヤ様が離れると正常値に戻ります》


 なんで一瞬、間があったの?

 ていうか、私が離れればいいの?


 うんしょっと。


「あっ……」


 本当だ。

 一気に心拍下がったじゃん。

 やっぱアンタの診断は有能ね、スマコ。


《ありがとうございます。しかし、最適な療養はそのまましばらくお待ちいただくことでした》


 なんでよ。


《人間という生き物は難しい生き物なのです》


 アンタがそれを言うの?!

 まぁいいわ。


 心なしか、魔女っ娘の元気はなくなったような気がするけど、気にせず行動を開始しましょう。


 しかし、相変わらず激しい雷ねぇ。


 この落雷を避けるには、下手な小細工するよりも忍気50スロットルくらいの状態で、そのまま一気に山を駆け降りる方が無難かな。


 見た感じ、この山頂付近の落雷が一番激しいしね。


 たっぷり寝たから忍気も満タン。

 目覚めのメリドの実を食べて出発だ。


 さて、これはどっちに降りたらいいの?


《サクヤ様から見て右手側が魔族領地。左手側が人族領地となります》


 ふぅ~ん。

 まぁここから下を見ても雲しか見えないからね。


 あのクズ神が示した位置はどっち側にあるの?


《両方です》


 両方の領地に行けってことなの?!

 またしてもあのクズめ。

 肝心なことは伏せるのよねぇ。


 まぁいいわ。

 両方行く必要があるのなら、まずは人族の領地に行こうか。


 この魔女っ娘を送り届けなきゃだし。


 送り届けた先で、この子になにが待っていようと私は知らん。


 一度は殺されかけようとしていた身だ。

 なんらかの事情があるんだと思うけど、それは自分で解決することね。


 まぁ今の魔女っ娘は、それなりに強くなっていると思うし、なにかあっても自分でなんとかするでしょ。


 忍気発動、50スロットル。


 魔女っ娘を背中に背負って糸で固定してっと……あら、途端に笑顔だね。


 表情がコロコロ変わって忙しい子。


 よし、行くよ。


 私は地面を蹴り、糸のタワーから飛び出した。


 それに誘導されるかのように落雷が迫ってくる。


「きてるきてるきてるきてる――?!」


 うるさいってのよ。

 舌噛むわよ?


 よっ、はっ、とぉ――う!

「ぎゃんっ?! にゃんっ?! ひぃいいい?!」


 よし、ここから下り坂……というか、もはや崖だった。


「ひっ?! ぃいいいいいやあああああああぁぁぁぁ?!」


 魔女っ娘の絶叫とともに、私たちは落ちていく。


 まずいなぁ、人間が落下するスピードって以外と遅いのよねぇ。

 魔女っ娘を背負っているとはいえ、それでも子ども2人分の体重は軽い。


 だから、忍気発動状態で走った方が実は早かったりすんのよ。


 そんなことを考えていると、そこへ落雷が迫ってくる。


 この威力の落雷なら、分身体や見えない壁を作ったとしても一瞬で貫通するから壁にもなりやしない。


 それなら、手裏剣とこの特殊糸で……。


 私は特殊糸の先に手裏剣を取り付け、ほぼ直角の斜面がない地面へ目掛けて投げつけた。


 手裏剣が地面にめり込んだのを確認し、特殊糸を引き寄せて地面へと降り立つ。


 その瞬間に私たちがいた空中を落雷が通過した。


 しかし、すぐさま次の落雷が迫ってきている。


 私はそのまま地面を蹴るのと同時に、糸と手裏剣を両手でブンブン振り回し、何度も地面に突き刺しては糸を引き寄せて地面から体が離れないようにする。


 秘儀、ブンブン走り。


 我ながらなんともカッコ悪い秘儀に、カッコ悪い走り方だろう。


 でもあともう少しだ。

 少しずつ、地面の傾斜が緩やかになってきて走りやすくなってきた。

 それに山頂付近と違って、落雷の数もかなり少なくなってきている。


 頑張れ、私!

 ブンブン!

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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