031 そのひかりとちがう
邪魔なコウモリの魔物は魔女っ娘が焼きつくしたから、順調に空中散歩の旅を続けている。
ていうか、いくらなんでも高すぎじゃない?!
これでも結構いいペースで登ってきたというのに、かれこれ3時間くらいは経っていると思うよ。
標高なんメートルあんのこれ?
ここまでくると光も届かないので、当然もう地面なんて見えやしない。
暗闇の世界をひたすら上っていく。
魔女っ娘はというと、ずっと背中に顔を埋めてプルプルと震えたまま。
これだけ暗かったらもう高いのもわかんないでしょうに……。
もしかして高いのより、暗闇の方が苦手なのでは?
私は暗闇の方が好きだなぁ。
なんか安心すんのよね。
まるで目を閉じて眠っているみたいにさ。
人間、寝ている時が一番幸せだなんて思ったことない?
私はそれしょっちゅうだったな。
眩しい日光に照らされて、ワイワイキャッキャやってるようなリア充どもには付いていけませんよ。
日の光で私を焼き殺す気なの?
とか思っちゃう。
でもね、別に光が嫌いなわけじゃないのよ?
太陽みたいな眩しい光は焼け死ぬからやだけど、真夜中の月明りって好き。
自分を暖かく包み込んでくれるみたいなあの優しい光が好き。
それがまるで乙羽みたいな優しさだと私は勝手に思っている。
この世界に月はあるのかなぁ?
またあの優しい光をみたいな。
乙羽……会いたいな。
《サクヤ様、その先50mで行き止まりです。忍気を60スロットルで発動し、忍殺拳、二ノ舞で天井を突き破ってください》
マジっすか。
一応愚痴ってみるけどさ、私ずっと走りっぱなしで疲れてんだけど?
しかも背中には生暖かくて重たい荷物を背負ったままで。
少しくらい休ませてあげようとかいう主人への優しさはないわけ?
それに今気が付いたけど、魔女っ娘のやつスヤスヤ寝ていやがる。
さっきまでビクビク怯えていたのに一体どういうことよ。
それで寝られるってどんな神経してんの?
ある意味図太くて羨ましいわぁ。
《親愛なるサクヤ様、愚痴はもうお済みですか? 残り10mを切りましたので、そろそろご準備を》
この鬼畜AIめ。
アンタ私の世話係のはずじゃなかったっけ?
それになんか前よりも人間っぽくなってきているような気がするんだけど?
おっと、やば!
忍気60スロットル!
空輪で見えない壁を最高出力で出現させ、最強の強度にする。
それを踏み台に私は一気に加速した。
「ぅぎゃんッ?!」
一瞬だけ魔女っ娘の声が聞こえた気がしたけど気にしない。
寝ているアンタが悪い。
『忍殺拳が二ノ舞、桜廻刺』
桜廻刺とは、一旦忍気を両足に集中させて急加速した後に、今度はその忍気を拳だけに集中させて相手に打ち付け、そのインパクトと同時に拳を回転させて貫く技。
この技も一般人に使うと、普通に体を貫通してしまう。
もちろん人に向けてやったことはないけどね。
もうそろそろ天井の壁だ、
3,2,1……ここだッ!
どっせぇぇええええええい!
外じゃぁああ!
私の混信の拳は天井の壁を突き抜けた。
その瞬間に外から明るい光が降ってくる。
……ん?!
んん――?!
ちょ、本当に光が降ってきてるじゃん!
私は咄嗟に忍気で手裏剣をできるだけ大きくし、それを思いっきり遠くの方へと投げた。
それに誘導されるように私たちに向けて降ってきていた落雷は、コースを変えて手裏剣の方向へと落ちていく。
そして、空中で落雷を受けた手裏剣は粉々に砕け散った。
ないわ――。
地上に出た瞬間に、いきなり落雷とかマジないわ――。
ていうか、ここやばくね?
めちゃくちゃ落雷だらけじゃん。
しかも酸素うっす!
はぁ?! 5%?!
しかも気温マイナス45℃?!
えっと……ここは地獄かな?
この世界の人間はこんな状況下で生活ができてんの?
……そういうわけでもなかったみたいね。
チラっと魔女っ娘を見てみると顔を真っ青にしたまま白目を剥いている。
私は転身機のおかげで、寒さにも低酸素にも対応できていた。
このままでは魔女っ娘が死んでしまうので、この子の首にも転身機を巻いておく。
魔女っ娘がこの様子だとすると、普通の人間と変わらないはず。
ということは、ここはとても標高が高いってこと?
まぁ今まで散々上がってきたからね。
《現在位置、四災岳の山頂付近。標高11271mです》
いやいやなんだよ、四災岳って!
聞くからに危なそうな山じゃん!
しかも標高1万m越え?!
飛行機飛んでる高さとほぼ一緒じゃんよ。
《四災岳:人族と魔族が住む大陸を真っ二つに分けている山。この山は世界の端までつながっており、その山頂では4つの災害が絶えることなく降り注いでいる。そこでは生物が生息することは不可能》
その4つ災害のうちの1つが、この落雷ってこと?
そりゃ、災害だわね。
なんでかわからないけど、この落雷私らに向けて落ちてくんのよ。
まるで狙って落ちてきているみたいにさ。
しか――し!
心配することなかれ、すでに対策済みなのだよ!
私のこの手裏剣と糸さばきによって作られた落雷封じのお手製避雷針。
これはこの手裏剣と特殊糸によって、アスレチックネットのように糸を絡ませてドーム型を作り、さらに糸を何十にも重ねて先端の尖った糸のタワーを作り出す。
うん、完璧!
先端で受けた落雷をそのまま地面へと流せている。
私、糸術士とか名乗ってもいいんじゃない?
ひとまず落雷の問題はこれでオッケーッと。
あぁ、疲れたよぉ。
ここまでずっと何時間も走りっぱなしな上にこの落雷騒ぎ……。
私は休暇を所望する!
スマコ、転身機の酸素供給可能時間はどのくらい残っているの?
《過度な戦闘がなければ120時間ほどは大丈夫です》
それだけあれば休んでも平気だね。
こんな生物が生存できるはずもないところに誰もこないだろうし。
にしてもゴロゴロうるさいわねぇ……。
スマコ、転身機で周りの音をシャットアウトしておいて。
《御意》
まぁ魔女っ娘も気絶したままだし、このままおやすみなさいっと……。
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