030 おこらせるとこわい?!
魔女っ娘がいきなり日本語をしゃべった。
「考えても仕方ないや! あなたにも迷惑かけちゃってごめんね。もう、大丈夫だから」
いや……気のせいか?
たまたま私がまだ解析できていない言葉が、たまたま日本語に聞こえただけ?
まぁまさか日本語の『オムネペッタンコ』が、こっちの言葉で「初めまして」だとは思わないわけだし。
そんな感じで、私の知らないこっちの言葉がたまたま日本語に聞こえることもあるかもしれないもんね。
「ねぇねぇ、どうしたの? どうしてそんなに慌てているの?」
アンタのせいでしょうが!
まったく……まぁいいわ。
この子もいつもの顔色に戻っているようだし。
先を急ぎますかね。
「ねぇねぇ、アタシ魔族とは戦いたくない! あの子もアタシたちと同じ人間だった。聞いていた話とは全然違っていたの。あの子はとても優しかった。それにアタシを助けようとしてくれたんだと思う」
その子に攻撃されておいて?
まぁ確かに、あの攻撃の勢いのわりには怪我が全然なかったのは事実なのよね。
「あの子はとても強かった。でも周りの目もあるからってアタシを庇ってくれたんだと思うの!」
それが事実でも、間違いでも私には関係のないことよ。
……だけど、アンタがそう思いたいならそう思っていればいいよ。
その思いが時には力になる。
アンタが生きていく原動力になる。
それが生きるってことだと思うから。
そう思って魔女っ娘を見ると、とても眩しい笑顔をしていた。
それからの旅は順調に進んでいる。
最近はもう日付を数えていない。
この迷宮では時間の経過なんてわかんないし、日付や時間の感覚がなくなってしまうのだ。
私は寝たい時に寝るし、おなかが空けば食料をむさぼり食う生活をしている。
ある意味自由な生活をしているけど、忘れてはいけない……ここは凶悪なモンスターだらけの大迷宮であるということ。
あるエリアに差し掛かったところ、そこは天井が見えないくらいに壮大な高さを誇る場所だった。
私が見ているアイレンズのルートではこのエリアの天井を行くように指してんのよねぇ。
スマコ、これを上れってことなの?
《はい、サクヤ様。今のあなた様なら容易でございます》
いやいや、簡単に言わないでくれる?
それになんでアンタはいつも嬉しそうに言うのよ……。
まぁしょうがないか、私には道がわかんないわけだし。
そう思いながら、空間機動術で空中を走り抜けていく。
「ねぇねぇ、ここを上るの? アタシそんなに高いところ得意じゃないから目をつむっていてもいいかなぁ?」
そう聞きながら、すでに目をつむっているのは誰かな?
振り落としてやろうか、こいつ。
どうせつむるつもりなら聞かなきゃいいのにさ。
本当に憶病なんだからこの子は。
……でも残念ながら魔女っ娘よ。
今回はゆっくり目をつむってぶるぶる震えているだけというわけにはいきそうにないよ?
「グギャァアアア?!」
「ひぃいい?! な、なんか物騒な声が聞こえる気がするんだけどぉ……気のせいじゃないよね?」
「ガァアアア!」
うぉお?!
危ねぇ?!
あいつデカいコウモリみたいな見た目のくせに、なんか酸みたいな液体を飛ばしてきやがった!
私が咄嗟に避けていなかったら……て、あ、あれ?
魔女っ娘ぉおおお?!
「ねぇねぇ、これなんか落ちてない?! ねぇねぇ?! これ、落ちてなぃいいいい?!」
アンタのご想像通り、真っ逆さまに落ちとるわ。
咄嗟に避けたから、勢いで背中から落っこちたんだねぇ。
泣き叫びながら、頭から絶賛降下中の魔女っ娘にコウモリみたいな魔物が集まってきている。
スマコ、あいつ何?
《アトラス・バット:アトラス大迷宮内に生息するコウモリ型の魔物。とても耳がよく、生物から発せられる微細な音を察知することができる。また火魔法と毒魔法を発動することができる》
さっきのやつ毒魔法なのか。
避けといてよかったわぁ。
まぁ、こっちの魔法は発動する時に術式が光って浮かびあがるからわかりやすくていいね。
その術式の形を覚えておけば、なんの魔法がくるのかわかるわけだし。
それなら未来視が使えない分身体でも戦闘が有利になるしね。
さてさて、早く魔女っ娘を回収しないと今にも殺されそうだ。
泣き叫ぶ魔女っ娘を囲うように飛び回っていたコウモリ8体が、一斉に毒魔法を発動しようとしている。
私は結構前から、念のためにと思って魔女っ娘の服に特殊糸を忍ばせておいた。
それを、コウモリが毒魔法を発動した瞬間に引っ張り上げる。
魔女っ娘の一本釣りじゃい!
どっせぇぇええい!
「ぴにゃぁあッ?!」
魔女っ娘が変な声を出している。
釣り上げた魔女っ娘をキャッチして、また背中に背負う。
「ヒグッ……ヒグッ……グスン……」
な、泣かないでよ。
悪かったって。
そんな目で見ないでよ。
私一応、助けたつもりだったんだけど?
うぉっと、危ない。
また落として泣かれても嫌だから、特殊糸を私と魔女っ娘の胴体へ巻き付けて固定する。
さて、こいつらどうしてくれようか。
あ、あれ?
魔女っ娘さん?
なんか魔法構築してない?!
「火炎魔法、業火爆炎!」
魔女っ娘が発動したその青白い炎の魔法は、8体もいたその全てのコウモリをのみ込んだ。
そして、そのコウモリはHPゲージが一瞬でなくなり、跡形もなく消し炭と化した。
うわぁ……ないわ――。
こいつ、ここにきて一皮むけやがったよ。
火炎魔法って、火魔法の上位魔法なんでしょ?
この子……怒らせると実は怖い?
「ふんだ……」
魔女っ娘は涙目のままでそう言うと、再び私の背中へと顔を埋めるのだった。
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