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026 おもいはとわに

 魔女っ娘の渾身の火魔法が、当然白虎に届くことはないだろう。

 それは未来視で見なくても明らかだった。


 でも、逆にこれはチャンスでもある。


 白虎は魔女っ娘に対して、なにもしないならそのまま命までは取ろうとは思っていない。

 でも、危害を加える気があるのなら容赦なくその命を刈り取るつもりだ。


 どんな生物でも隙がない生き物は存在しない。


 いかにその行動一つ一つを警戒していようが、なにか行動を起こせば必ずそこに隙は生まれるのだ。


 そう……魔女っ娘の攻撃を防ぐか弾くか、もしくは回避すること。

 そのいずれかの選択をして行動を起こした瞬間……ではなく。


 魔女っ娘の命を奪ったその瞬間だ。


 白虎の雷撃は、私が無数に投げた手裏剣と特殊糸でアースが取られて流されている状態。

 だから魔女っ娘を電撃で殺すことはできないから、己の牙か爪を使う必要がある。


 つまり、牙か爪で魔女っ娘の命を奪ったその瞬間が最大の隙となる。


 両親を含めたプロの暗殺集団は味方や仲間といった概念を持つことは許されていない。

 それが例え家族同士であったとしても。


 身代わり……この言葉の重みは私たちが一番よくわかっている。


 スパイでもあり忍者でもあり、暗殺者でもある私たちは、気配もなく、音もなく、相手に気が付かれる前に暗殺することが仕事。


 しかし、暗殺の前にそれが相手に気が付かれてしまった場合、わざと目の前のターゲットに殺されにいく。


 そしてターゲットがその者を殺した瞬間、別の暗殺部隊の者がそのターゲットを殺す。


 故に身代わり。


 つまり、生き物は相手を殺したと思ったその瞬間が一番の隙になる。

 その隙を付くために、私たちは身代わりを用意する。


 私が分身体を作れることはこの白虎もさっき見ているし、それは通用しない。


 でも、本当に生きた存在……そう魔女っ娘を身代わりとして殺させれば、それは大きな隙を生むことになるのだ。



 そろそろ魔女っ娘から放たれた火魔法が弾かれる頃。

 その後にさっきの瞬間移動みたいな動きで殺しにかかるはずだ。


 それに対応するためにはもう私も動いておく必要がある。


 さて、注意が魔女っ娘に向いたからいきますかね。

 忍気発動、60スロットル!


 私は全身に痛みを感じながらも、なんとか体を起こして動き出す。


 白虎の鋭い爪は、すでに魔女っ娘をロックオンしていた。

 後は、あの子があの鋭い爪に貫かれたと同時に思いっきりこの拳を振るうだけだ。


 ……痛い……痛い、痛い?!

 なんでこんなに体が痛いの?


 さっき受けたダメージが抜け切れていない?!


 きちんと受け身も取ったはずだし、転身機が瞬時に怪我の応急処置はしているはず……それなのに、どうしてこんなにも……胸が痛いの?


 この痛みは一体なに?!

 白虎の特殊攻撃?!


 くそやろう……こんな攻撃までできるなんて予想外だよ。

 胸がとても苦しくて息が止まりそうになる。


 まずい、このままじゃ間に合わない?!


 白虎が魔女っ娘のもとに着いちゃうじゃん。


 いたたた……。

 もう、やめてよね。


 なんで魔女っ娘が死んでしまうと考えるだけで胸の痛みが強くなるの?!

 わけわかんないよ、もう!


 ドシュ。

 ……鈍い音だね。


「あ……そん……な」


 あ、あれ……?

 なんで私……ごふっ?!


 気が付いたら私は魔女っ娘と白虎の間に割って入り、魔女っ娘に向けられていた白虎の爪を自身の体で受けていた。


 自分の小さな体に深々と白虎の大きな爪が刺さっている。

 胸からおなかにかけて、ものすごい圧迫感とその周辺に熱を感じる。


 次第にドクン……ドクンと心臓の鼓動に合わせて大量の血液が流れていく。

 それと同時に、口からせり上がってきた生暖かい血液を吐き出した。


「……いや、そんな……あ、あ……あぁぁああああああ!」


 魔女っ娘がなにか叫んでいる。

 キンキン頭に響くからあまり叫ばないでほしいなぁ。


 それにしても困った、私は今にも死にそうだ。


 ジンジンと感じていた痛みも苦しみも次第になにも感じなくなってきた。

 そして全身に寒気が走る。


 これが死ってやつかな?


 まぁ前回の時はほぼ即死だったもんねぇ。

 あの一瞬の激痛は今でも鮮明に覚えているけどさ。


 この死に方も体感的にはなかなか辛いねぇ。


 こういう時、早く楽にしてくれっていうセリフがよく映画やアニメであるけどさ、今ならその人の気持ちがよくわかるよ。


 あぁ……でも、こんなに痛くて苦しいのに、さっきの胸の痛みは無くなっているのよねぇ。


 私は今の痛みよりも、さっきの痛みの方が嫌だった……かな。

 今まさに死ぬほど苦しい状況のはずなのに、あの胸の痛みは本当に嫌……だった……な。


 ヤバい、そろそろ……限界……かも。



【……あなたの想いは……その程度?】


 最後にそんな言葉が聞こえたような気がしたけど、私はそのまま意識を失った。



――ある、満月が綺麗な夜のしじま。


 月明りに照らされた、桜の花びらが静かに舞い散る頃。


「この子たちは危険ね……」

「そう……ね」

「あらがうことができない運命を背負わせてしまったわ」

「……うん」

神成(かみなり)神光(かみあり)……この力だけは絶対に目覚めさせてはダメよ」

「……うん」

「それがこの子らの幸せになるのなら……」

「ここから私たちも別れましょう」

「……うん」

「離れていてもずっと一緒だよ」

「この想いは、あの漆黒の闇に舞い散る桜と……」

「それを優しく照らすあの月の……」

「「彼方まで」」


 2人の子どもを抱えた女性2人が涙を流しながら抱き合う姿を最後に、私は夢から覚めた。

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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