A05 学園生活の始まり
別ルート編です。
アタシは今思考が停止している。
それはおそらく、このイエスタリご令嬢も同じだろう。
目を見開き、お互いに見つめ合っている。
「あ、あのぉ……」
突然の声にハッとし、声の方へ振り向くとそこにはカミキ家のご令嬢がワナワナしながらこちらを見ていた。
「さ、先ほどはどうも……ありがとうございました。それでは……」
「い、いえ、お気になさらずに」
カミキ家のご令嬢様は、そのまま階段を上がっていった。
アタシたちは再び部屋に入ると、お互いに見つめ合った。
そして、アタシはもう一度試しに『日本語』で喋ってみた。
『おまえ……日本人なのか?』
『やっぱり、アンタもかいな! そやそや、ウチ日本人やねん!』
この独特な似非関西弁……まさか、な?
『ハズ……キ?』
『え? ま……まさか、アズサなんか?!』
な……なんということだ。
もしかしたらとは思っていたけど、まさかこんなに早く出会うことができるなんて夢にも思わなかった。
そう思うと、アタシは涙が……
『ぎゃっはっはっはっは! ウソやろぉ?! マジでアズサなん?! なんなんその可愛い見た目とお嬢様口調! こりゃ傑作やわぁあ!』
そう言いながらベッドでおなかをかかえ、笑い転げているハズキ。
その様子を見ると感動の再会の涙とやらはどこかへと消えてしまった。
この感じ、この安心感、この安らぎ。
これは紛れもなくアタシの親友の一人、ハズキだった。
『う、うるせぇよバカ! そう教育されてきたんだから仕方ねぇだろが! それよりおまえこそなんだよその喋り方と見た目はよ! 随分と可愛いお姫様になってんじゃねぇか!』
『やかましいねんアホ! ウチかて苦労したんやで! どんだけ教育係のおばちゃんに、イントネーションがおかしいって言われたと思ってんねん!』
『あっはははは。久々にこんな笑ったわ。でもハズキ、本当に会えてよかった』
『全くや! ウチがこっちに転生したみたいやったから、もしかしてとは思うてたんや!』
『同じだな。ミサキとホノカには会ってないのか?』
『会ってへん。でもウチらがここにおんねんで? 間違いなくこっちに転生しとるやろ!』
『だな! 絶対にあの2人も見つけるぞ!』
『おぅ! ほんで、また一緒にバカやろうな!』
がっちりと腕を組み、頷き合うアタシたち。
本当に良かった。
今まで信じていたつもりだけど、正直不安もあった。
転生しているのはアタシだけじゃないだろうか。
もし転生していても、前世の記憶を持っていないかもしれない。
本当に見つけることができるのだろうか。
考え出したらきりがなかった。
不安でたまらなくて、眠れない日もあったりした。
もしかしたらハズキも不安は同じだったのかもしれない。
それを隠すためにこんなにも明るく振る舞っているのかも。
しばらくは久々の日本語での会話に花が咲いた。
次の日、今日から学園生活の始まりだ。
眩しい太陽に目を細め、ハズキを起こす。
『おい、ハズキ。起きろバカ、遅刻すんぞ?』
「ふにゃ……もう……2、3時間ほど寝かせてほしいの」
こいつは昔から朝が弱い。
下宿先でもアタシが毎日起こしていたくらいだ。
寝ぼけてお嬢様言葉を使っているのがちょっとおもしろい。
「オホン……イエスタリ令嬢様。お早くお目覚めになりませんと、また御父上に叱られますよ?」
「ひゃいっ?! 申し訳ございません、御父上! もうお仕置きはこりごりですのぉ! ……あれ?」
『あっははははは! こりゃ、いいや! 明日からもそれで起こしてやるよ!』
『や、やめぃ! その起こし方は二度とすんなや! はぁ、この話をアンタにしたウチがバカやったわ』
「自業自得ですわ。それよりも早く支度なさって?」
「わかっておりますの。もうしばらくお待ちになってくださいまし」
アタシたちはもうこの世界の住人だ。
だから、普段はきちんとこちらの言葉を使うように心がけることになった。
でもこうやって2人ッきりの時だけは、日本語で会話もする。
しばらく待つとハズキの準備が終わったので、朝食をとって学園へと向かった。
案内された教室の中にはすでにたくさんの子どもたちがいて、それぞれで会話をしている。
アタシとハズキは同じクラスで席までが隣同士だった。
まぁ気が楽で助かるけど、ここまで一緒だとなんか笑える。
アタシらの席は一番後ろで、外の景色が見える窓側の席から2番目と3番目。
アタシは自分の名前が書かれていた2番目の席に座り、ふと隣の窓際に座っている人物に目をやると、そこには昨日見かけたカミキご令嬢様が座っていた。
浮かない顔をしたまま、外の風景をぼんやり見ている。
「あの、カミキご令嬢様。あたくし、隣の席になりましたアズサ・アブリエルと申します。以後、お見知りおきを」
「あ……はい。昨日はどうも……。よろしくお願いいたしますわ」
「わたくしは、ハヅキ・イエスタリと申します。よろしくお願いいたしますの!」
「はい、お二人とも存じ上げてあります。ご有名な方々なので……」
そういうとカミキ令嬢様はまた外を向いてしまった。
しばらく待つと、早速授業が始まった。
今まで耳にタコができるほど聞いてきた魔族の存在と凶悪性。
さらにそれらを殲滅させることが人族の平和につながるという物語。
アタシらからしたらそういった話はもう聞きたくない。
昨日ハズキと話してわかったけど、やっぱりこの世界はどこかおかしい。
まるで人族と魔族が殺し合うように仕向けられているかのような世界。
そう感じていたのはハズキも同じだった。
でもこの世界では強さが絶対。
力無き者は何もできず、廃人扱いされる。
ミサキとホノカを探すため、まずはそれだけの力を付けていこうというのが、アタシとハズキの思いだった。
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