025 にんさつけん
バチッ……バチバチ……。
「……」
「……」
まるで小さな虫でも見ているかのような目で本体の私をしっかりと見つめている白虎。
圧倒的な強さの前に、成す術がない。
小細工も通じない。
力では絶対に歯が立たない。
七つ道具を使っての有効な手段も見つからない。
スマコもさっきからフルで考えているけど、私の死亡確率が99%から下がらない。
格下の小物を相手にしているというのに、その油断も隙も慢心もない。
あのクズ神、こんな化け物を私に倒せとかいうわけ?
絶対ムリくね?
心の底から言わせてほしい……ないわ――。
今の私は忍気を出力限界の60スロットルまで惜しみもなく出している。
「アンタさぁ……その力をどこで手に入れたの?」
は?
その力ってなに?
忍気のこと?
それとも七つ道具?
「その神成の力」
ん?
カミナリの力ってなに?!
私知らないんだけど?
「まぁいいや。アンタは殺す必要がなくなったから、今すぐ目の前から消えて」
私だって今すぐにでもそうしたいところよ。
だれが好き好んでアンタみたいな化け物と戦うかってのよ。
「どうしたの? さすがに向かってくるようなら殺すけど?」
おい!
さっき殺す必要ないとか言ってたじゃん!
嘘つき。
「なにを考えてんのか知んないけどさぁ、あまり舐めないでくれるかな?」
白虎はそういうと、とんでもない殺気と威圧を押し付けてきた。
今までの威圧がかなり抑えられていたのがよくわかる。
体の芯から凍えるような悪寒が湧き上がり、恐怖で体が震えあがる。
だけど、私はもう止まらない。
自分を奮い立たせるように地面を蹴り、相手を見る。
「そう、なら悪いけど死んで?」
白虎はそう言うと体を起こし、さらに身にまとう雷撃を強めた。
眩い光に目が眩む。
私が身構えると同時に、一瞬で間合いに入られていた。
そして鋭い5本の爪が生えた前足が振り下ろされた。
速すぎでしょ?!
瞬間移動でもしたの?!?!
未来視が全く役に立ってないんだけど?!
一瞬のことで身代わりを準備する暇も避ける暇もなかったので、そのまま雷丸で受け流した。
うわっ?!
もし、そのまま受け止めていたら雷丸と私の体が真っ二つに分かれていたかもしれないわ。
とんでもない力と切れ味の爪に、再び身震いする。
もちろんこれで終わりなわけがない。
白虎は追撃のための準備をしようとしているようだけど、その前に私が攻撃を受け流した反動を利用してカウンターを狙っている。
――忍殺拳。
忍殺拳とは、忍者の体術とスパイの暗殺術を掛け合わせた私オリジナルの体術。
これは、忍者の父親とスパイの母親からそれぞれで修行を受けていたことで、独自に習得した技であり実は両親も知らない技だ。
こっそりと隠れて技を完成させていたのは、この忍殺拳があまりに強力過ぎたのが原因。
忍気を発動した状態で、音もなく、気配もなく忍び込んで相手の急所をえぐる暗殺拳の神髄にたどり着いたその技の型を、花びらの舞いに例える。
『忍殺拳が一ノ舞、桜雷拳』
私は半身で下半身を落とし、左手を前に、右手を腰の位置で手の甲を下に向けて拳を握る。
そして、そのまま振り下ろされていた白虎の前足目掛け、右こぶしを思いっきり打ち付けた。
桜雷拳は、私の桜色の忍気と拳を、稲妻の速さで打ち付けてそれを体の内部で爆発させる技。
もし、一般人にこれを撃つと体の内部から爆発したかのように破裂してしまうから、今まで生き物に対しては本気で打ったことがなかった。
本当はこれを、急所である心臓とか首とか頭とかを狙って打ちたかったけど、そんな余裕は全くない。
今このチャンスを逃したらもうこいつに私の攻撃が届くことがないかもしれないのだ。
だから全力でやってやるんだ!
今持てる全ての全力をこの一撃にかけた。
なのに……それなのにぃいい!
全然効いてねぇええええ!
なにその澄ました顔。
ムカつくわぁ――。
体の内部へ入り込む衝撃を無理やり打ち消しやがったよ。
ないわ――。
もう打つ手なし……かな。
そこへ容赦なく、前足の爪が先ほどよりも格段に速いスピードで襲い掛かる。
『忍殺拳が三ノ舞、制流舞』
制流舞は相手のさまざまな攻撃を受け流す技。
この技は自分の周りに制空拳を張り、そこへ入り込んだもの全てを舞い踊る花びらのように流してしまい、さらにその分の力を加算させてカウンターを可能とするもの。
最初の攻撃を防いだのも、この制流舞だ。
ただ、今回はカウンターを許してはくれない。
そればかりか、制空拳を張っているというのにその攻撃を流すことすらできなくなっている。
この白虎の攻撃は雷撃をまとわせているので、上手く流せないと体に電気が走ってしまい、体が硬直してしまう。
ヤバい、制空拳が破られた?!
そこへ雷撃をまとった体当たりが襲う。
「ッぐぅぅぅ?!」
思わず声が出た。
まるで巨大なダンプカーにでも撥ねられたような衝撃と、体中に走る電撃で意識が飛んでしまいそうになる。
まるで弾丸の如く壁に打ち付けられた衝撃で吐血する。
転身機で守られていてもこの衝撃とダメージ。
正直もう体はどこも動かないし、立ち上がることすらもできそうにない。
あ、魔女っ娘が魔法で攻撃しようとしている。
もちろん白虎はそれに気が付いているし、それが取るに足らない些細な事だということもわかっている。
やめて……アンタが敵う相手じゃない。
そんなこと、自分でもわかっているでしょ?
それにアンタが攻撃してきたら、アイツは一瞬で殺す気なんだよ?
なんで……いつも涙目で弱虫な癖に……。
どうしてそんなに強い意志のこもった目をしているの?
魔女っ娘はそのまま躊躇なく、魔法を発動した。
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