024 ばけもの
桜夜視点に戻ります。
それからも魔女っ娘との長い旅は続いていた。
アイレンズが示すポイントまではあともう少し。
残り一週間くらいで到着する感じかな?
ここまで本当に3年もかかってしまったよ。
長かったなぁ……マジで。
思い返してみると、魔物と戯れて、その後に魔物と戯れて、魔女っ娘を拾ったかと思ったらまた魔物と戯れた。
ヤバい、魔物と戯れた思い出ばかりだったわ。
今の私は忍気発動スロットルが60スロットル。
車を片手で投げ飛ばせるくらいにはなったわね。
魔女っ娘も強くなったよ。
相変わらずワナワナしているけど、目に見えて魔法の威力は上がっているし、ある程度の魔物なら一人でも倒せるくらいになっている。
でもなんだろ……この子、すごい天然なんだと思うのよ。
行動が危なっかしいのは前からなんだけど、なにもないところでよく盛大に転ぶし、崖があるのに気が付かないでそのままよく落ちるし、見た目がきれいな花にニコニコしながら無防備に近寄ったかと思ったら、そのまま花に食べられてるし。
なんか本人一生懸命頑張っているのになぜか報われないというね。
まぁ、これは生まれ持ったものなんだろうけど、とりあえず私は見ていて飽きなかったよ。
逆に心が安らいだような感じもするくらい。
そうそう、この3年間である程度この世界の言葉がわかるようになったのよ。
まぁ魔女っ娘が話している内容をスマコが解読していった結果だけど、多分それはあってるっぽい。
さすがスマコだね。
でも私が言葉を理解したからと言って自分が喋るわけじゃない。
ここまでずっと魔女っ娘は私に話しかけてきたけど、私は一言も喋っていないしね。
会話を聞いている限りじゃ、どうやら私は喋れない子だと思っているようだからそのままにしてんのよ。
自分の方がお姉さんだと意地を張りたいのか、そうなるように頑張ってはいるんだけど、結局うまくいかなくていつもワナワナ涙目になってんの。
そんな様子を見ていたら、不思議と私もかわいいペットを飼っているみたいな感覚になっていた。
それくらいに愛着を持ったってことだね、この私が。
「ねぇねぇ、まだ寝られないの?」
「……」
「アタシがトントンしてあげるね」
「……」
そう言いつつ、しばらく経つと自分が眠ってんだからかわいいもんだよ。
さてと……さっきからこっちに近づいて来ている魔物を始末しなきゃね。
私たちは今、通路の岩陰に隠れて眠ろうとしていたところだ。
一応この辺り一帯には私の特殊糸を張り巡らせているから、その辺の弱い魔物は通ることすらできない。
でも、ある程度強い魔物はその糸を切って入り込んでくるのだ。
なんか目的地の方へ進めば進むだけ魔物が強くなってんのよねぇ。
スヤスヤ眠る少女を横目に、私は忍気を発動させて魔物のもとへ向かい、それを始末する。
私が帰ってくる頃には、魔女っ娘が目を覚ましていた。
なぜか、目に泣いた跡が見える。
私に抱き着くと、またヒクヒクと泣き出してしまった。
どうしたんだろうか、怖い夢でも見た?
まだまだお子ちゃまなんだから。
私は今8歳くらい?
見た目こんなんだけど、前世と合わせるともう23歳?
ヤバい、考えたくなかった。
まぁ生まれ変わっている身だし、前世分はノーカンってことで!
その後の旅も一応順調に進んだ。
そして、いよいよクズ神が示したポイントへと足を運び入れた。
……ないわぁ。
いや、そう思わずにはいられない。
だってその場所には、絶対的な王者のごとく鎮座する、化け物がいたのだ。
《白虎:この世界で神と崇められている四神獣の一匹。雷撃を操り、近づくもの全てを焼き殺す》
これ絶対にアカンやつやん。
いくらなんでも今までの魔物とレベルが違い過ぎるって。
あ、魔女っ娘はもう白目向いてるし……。
まぁこの威圧感と殺気を向けられたらそうなってもおかしくないわ。
しかもこれでもまだ抑えてんのよねぇ。
本気の威圧されたら魔女っ娘なんか心臓止まるんじゃない?
失神していた方がまだ幸せだね。
さてどうっすかなぁ、これ。
気配を消しているってのに、とっくにこちらの存在に気が付いているしなぁ。
勝ち目なんかない上に私お得意の暗殺も無理、騙し討ちもできない、罠も仕掛けられない、完全に手詰まり。
いや、これムリくね?
こんなん相手に8歳の私がどうこうできるもんじゃないよ。
「あんた……なに?」
しゃべったぁ……ビックリするわぁ。
いきなりそんなこと言われても困るよぉ。
私の望みは乙羽の命を守ること。
そのために封印を解きに来ましたぁなんて言っても通じる訳がないよねぇ。
「それ以上近づくと……殺すよ?」
こいつ、怖いわぁ。
これと戦う必要あんの?
でもアイレンズはしっかりとコイツを示しているしなぁ……。
「聞こえないの?」
うわっ?!
ちょっと、危ないじゃん!
その電撃、威嚇のつもりかもしんないけど、それだけで死ねるから!
「変な人間。アタシを見ても怖がらないなんてね。もしかしてバグ?」
いやいや、全力で怖がっていますとも。
けっして私がバグってる人間ではないから!
さて困った。
今にも私は殺されそうだ。
殺されそうなら、それにあらがうしかないね。
あなたに恨みはないけれど、私の大切なもののために……あなたを殺そう。
忍気発動、60スロットル。
私は忍者装束へと転身し、一気に白虎との距離を詰めた。
近づくだけでもバチバチと雷撃が襲って来る。
私はそれを、電気がよく通る手裏剣と糸を巧みに使って、地面へと流していく。
「……へぇ」
そのままの勢いで、背中に隠してある七つ道具の「雷丸」を両手に持ち、瞬時にそれを一本の棒へと繋げた。
それを白虎に向かって思いっきり叩き付ける。
しかし、雷丸が白虎に届くその直前に、雷撃で体を弾きとばされた。
……と、見せかけて私本体は白虎の背後に回っていたというのに、白虎本人は分身体には見向きもせず、しっかりと私本体と目を合わせてきた。
こいつ、マジでないわ――。
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