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022 であい

マイカ視点です。

――時は少しさかのぼる。



 アタシの名前はマイカ・カミキ。

 このルドラルガという国の中央都市の学園に通う、6歳の女の子だ。



「マイカちゃん、しばらくの間お別れになりますけど、課外授業頑張ってくださいましね!」

『はい! アタシ頑張ります! 今よりたくさん強くなって、アズサちゃんとハズキちゃんの力になりたいので!』

「そんなにも嬉しいことを言ってくださるなんて。でも約束ですのよ? 絶対に無理をしないこと、無事にここまで必ず帰ってくることを約束してくださいまし」

『はい! 約束します!』


 前日に済ませたお友達との約束を思い出しながら、アタシは今、地下にあるアトラス大迷宮という場所までやって来ていた。


 このアトラス大迷宮という場所は、私たち人族や魔族が住む地上と同じくらい広大に広がっていて、とても凶悪な魔物が住んでいる場所だ。


 大まかに上層・中層・下層と別れていて、下層に近づくたびに魔物は強くなっていくのだろうとされており、その実態はいまだによくわかっていない。


 なぜなら、中層以降にたどり着いた人物が誰もいないからだ。


 そんな危険な迷宮内で課外授業を行っているのはルドラルガでこの学園だけ。


 その目的は、実際の戦闘訓練を積むことで自分のスキルやレベルを上げること。


 もちろん、授業や学園の戦闘訓練でもレベルは上がるけど、実際に魔物を殺すという行為はレベルの上り幅やスキル取得の数が段違いによくなる。


 さらに、最終的な目標である魔族との戦争を勝ち抜くための有効的な訓練でもある。


 だから、この課外授業には王国も積極的で、お父様の部下である魔道兵団の皆様がお供をしてくださっているから、安全に授業を行うことができていたのだ。


 実はアタシの家系は貴族の中でも結構名のある侯爵家であり、お父様は王族側近で魔道兵団の団長を務めるすごい人だったりする。


 そんな家系で期待の令嬢として産まれたアタシは、残念過ぎるほどのポンコツ娘だった。


 己の強さがものをいうこの世界で、身体能力・魔力量がどれも全て人並み以下なうえ、性格も気弱でドジでマヌケなダメダメ人間という無能っぷり。


 アタシは家族からも呆れられ、蔑まされている。


 だけど、一応は腐っても侯爵家の令嬢だから学園内では高位の位置になっていて、まわりからはペコペコされている。


 でもみんなもアタシのポンコツぶりを知っているから、裏ではバカにされているのも知っている。


 そんなアタシにも、権力とか立場とかそんなもの関係なく接してくれる優しい2人の女の子のお友達ができた。


 そのお友達2人と交わした約束を胸に、アトラス大迷宮内の暗い通路を進んで行く。


 とは言っても完全にビビりでポンコツなアタシ。


 魔物の凶悪性に怯えて腰を抜かしてしまいそうになりながらも、騎士団や先生たちのおかげでアタシたちは目的地のエリアへとやって来た。


 しばらくの間、先生の指導のもと課外授業を行っていたが、突然状況は一変する。


 本来この上層にいるはずのない、中層付近にいる魔物が急に現れたのだ。


 アタシと一緒に来ていた子どもたちが一瞬で殺され、次いで先生たちも殺されてしまった。


 まわりがパニックになる中、騎士団の人たちは妙に落ち着いていて、私の手を取り走り出した。


「おい、予定より早くないか? 他の子どもや教師まで死んでしまったぞ」

「すまん。これはこちらも予定外だが……まぁいいだろう」


 え?

 一体なんの話をしているの?


「お嬢様……予定とはだいぶ違う形にはなりましたが、ここでお別れです」


『え?! どういうことですか?!』


「あなたにはここで死んでいただきます」


『……え?』


「それが団長の……ご家族みなさまのお望みです。あなたは偉大なる侯爵家にふさわしくないと。せめてもの情け、事故という形で死んでいただきます」


『そ……そんな……』


「それではお嬢様、我々はこれにて」


 アタシは騎士団の人に背中を突き飛ばされて魔物の方へと投げ出された。

 そしてすぐさま魔道兵団の人たちは逃げていく。


 そうか……最初からこれは仕組まれていたんだ。

 アタシを事故に見せかけて魔物に殺させるために。


 それがお父様の……家族みんなの望み……か。


 悔しいなぁ……。

 こんな形でアタシの人生終わっちゃうんだぁ。


 これからいっぱい頑張って、アズサちゃんやハヅキちゃんの目的のためにアタシも協力してあげようって思っていたのにな。


 それがポンコツなアタシの生きる希望だったのに。


 迫りくる魔物の大群を前に、もう生きることを諦めたアタシはそっと目を閉じた。


 その瞬間にふわっと香るいい匂いと、なにかが優しく頬に触れる感触に思わず目を開けた。


 すると、目の前にはピンクの花びらが舞い上がる中、黒い装束に花びらと同じ色のマフラーをなびかせた少女が立っていた。


 その女の子と一瞬だけ目が合うと、胸の奥がドクンと弾けるのがわかった。


 アタシがポカンとマヌケな顔をしていると、すぐにその子と全く同じ姿の少女が3人も現れて頭が大パニックになってしまった。


 アタシのそんな様子には見向きもせず、3人の少女は突然大量の花びらに変わり、辺り一面をピンクの花びらだらけに変えてしまった。


 思わず腰を抜かしそうになったところで、その少女に抱きかかえられて飛び上がった。


 しかもそのまま空を走っている。


 その途中で、さっきアタシを突き飛ばした魔道兵団の人たちが魔物に殺されているのを見てしまった。


 アタシを殺そうとしたのにアタシだけが生き残り、なんの関係もない他の生徒や先生たちが死んでしまった。


 アタシはもう帰れない……帰る場所を失ってしまった。


 そう思うと、アタシはひたすら泣くことしかできなかった。

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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