A04 悪役令嬢
別ルート編です
アタシとイエスタリ令嬢は女子寮へと到着した。
「と、とてもきれいなところですわね」
「え、えぇ、きれいすぎて落ち着きませんの……」
メイドの格好をした寮母さんらしき人物に、寮内の決まりや規則など、簡単な説明を受けた。
規則といってもそこまで厳しいものはなく、ある程度の自由はきくみたいだ。
それと、この女子寮は2人部屋になっているようで、アタシはイエスタリご令嬢と一緒の部屋になっていた。
それを聞いた時は正直安心した。
こう見えてアタシはビビりだ。
同じ時を過ごすことになるのなら知り合いの方がいい。
それにこの子はとても話やすくて気が許せる。
「アブリエル様が同じルームメイトだなんて、ワタクシとても嬉しいですの!」
「アタクシの方こそ! イエスタリ様とご一緒できてとても嬉しいですわ!」
それからアタシたちは部屋へと案内された。
部屋の中はとても広かった。
ベッドや机、それに広めのクローゼットが2つずつ付いていた。
「夕食は夕刻16時~20時の間に、ご入浴は18時~24時の間にお済ませください。朝食は朝6時からとることができます」
「「わかりましたぁ」」
「なにかございましたら私ども係の者が下の階におりますので、なんなりとお申しつけください。それでは、わたくしはこれにて失礼いたします」
「はい、どうもありがとうございました」
メイドさんは下へと降りて行った。
この世界の時間も、地球と同じで24時間の生活を送っている。
「さて、夕食時間までなにをいたしましょうか?」
「せっかく同じルームメイトになれましたし、もっとお話したいですの!」
「いいですわねぇ! よろこんで!」
それからしばらくはお互いのことを話していた。
すると、とても甲高くてよく響く声が部屋の外から聞こえてきた。
「これはこれは、カミキ侯爵家のご令嬢様ではございませんかぁ。おほほほほ、いつもお父様がお世話になっておりますわぁ!」
「は……はい。こちらこそ……はい」
「カミキ様はとてもお強くて、この国の顔というべきお方ですわよねぇ! そんな偉大なお方のご令嬢様ともなると、さぞお強いのでしょうねぇ? おほほほほほ」
「いや……あの、アタクシは……その」
「ご謙遜なさらずともよいのですよ! このマキシム学園は実力ある者しか入ることを許されないのですから! おほほほほほほ」
「……は……ぃ」
カミキ侯爵家……このルドラルガでは知らぬ者はいない超有名な貴族の名前だ。
それは、現国王であるルーク・マキシム様直近の近衛兵団を統一する団長がその人だからだ。
いうなれば、この国で一番強いとされる男。
誰もが認めるカリスマ性とその圧倒的な強さから、勇者の称号持っている人物でもあるのだ。
そんなカミキ侯爵家に産まれた期待のご令嬢。
その子は残念ながら勇者の血が受け継がれていなかったようだ。
アタシとこのイエスタリ令嬢が一緒に出席していた式典に、その令嬢も出席していた。
アタシやイエスタリ令嬢がとんでもない天才として持ち上げられる中、最後のオオトリを飾ったのが他でもない、勇者の娘であるカミキご令嬢。
会場にいる全員が期待のまなざしで見つめたその結果は、誰が見ても凡人以下の魔動力量だった。
あの鑑定結果が出た瞬間に、会場全体が一気に静まり返ってしまったのはよく覚えている。
せめて平均的な値でも出ていれば、まだその子も救われていたかもしれないけど、結果は残酷だった。
次第にコソコソとその子を貶すような陰口を言い出す貴族が出始め、慌てて王国側がその子を奥の部屋へと追いやったのはみんなの知るところになった。
それからその子は、勇者から産まれたポンコツと称され、貴族だけではなく平民の間でも影でバカにされることになる。
ルドラルガでそのことを知らぬ者はいない。
もちろん、今話していた子もそのことを知っているのに、わざとバカにしているのだ。
なんだか、マジで腹が立つ。
久々にブチギレ寸前のところまできている。
もともとアタシはこの貴族社会というやつが大っ嫌いだ。
爵位が下の者を敬うこともせず、爵位が上だからと威張り散らす。
また、爵位が上のくせに弱いとか、能力がないとか平気で陰口を言う。
この世界は人同士がもっと仲良くなって、思いやりを育んだらいいと思うんだよ。
そしたら、こんな強さだけが全てじゃない、戦争のない世の中になると思う。
アタシは眉間にしわを寄せてしまっていることをハッと思いだし、となりにいたイエスタリ令嬢を見ると、彼女もアタシと全く同じ顔をしていた。
お互いに頷き合ってスタスタと扉の前まで歩いていき、勢いよく扉を開ける。
「人の部屋の前で随分と騒いでおられるようですが?」
「そちらの家系は人の部屋の前でお喋りをなさる風習でもございますの?」
「……ひぃ?! イ、イエスタリ伯爵家のご令嬢様に、アブリエル伯爵家のご令嬢様?! も、申し訳ございませんでした。まさかお二人のお部屋の前だとは知りもせず」
「あら、ここがワタクシたちのお部屋ではなかったら騒いでもよろしいというのですの?」
「随分と変わった風習をお持ちのあなたは、どちらの家の者ですか?」
「も、もも申し訳ございません。どうか、お許しをぉおお!」
そういうといかにも悪役令嬢という雰囲気の女の子はどこかへ行ってしまった。
まぁ今のは、どう見てもアタシらの方が悪役令嬢っぽかったけどな。
でもちょっとだけスッキリしたのは事実。
『ははは、ざまぁみろ!』
『ははは、ざまぁみぃや!』
「「……えッ?!」」
アタシとイエスタリ令嬢は目を見開き、見つめ合った。
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