019 おむねぺったんこ
この世界の人たちと関わりを持つ気がない私は、クズ神の示すポイントへ向けて出発しようとしているところだった。
いよいよ魔物に殺されて全滅かという時に、私と同じくらいの1人の少女を身代わりに、大人たちが全員逃亡をはかった。
その少女は今にも殺されそうだ。
涙を流して必死に身構え、迫りくる死を迎えようとしている。
このままあの子が殺されても私には関係ないし、興味もない。
私はもともと人と接するのが苦手で、極力人と関わらないようにしてきた人間だ。
だから今回も全く関わるつもりはなかった。
この世界の人間というものがどのような姿でどのように生きているのか、この凶悪な魔物たちとどう違うのか、地球人とどう違うのか……。
それらの情報だけでもわかればそれでよかったのだ。
やっぱり人間というものは醜くて吐き気がする。
我身可愛さに平気で貶め、裏切り、命乞いをする哀れな存在。
よかった。
この世界の人間も、私の嫌いな人間のようだ。
だから助ける義理はない。
一人のか弱き少女の命と引き換えに、必死に逃げ惑う汚いゴミ虫たちを、もっと凶悪な魔物の軍勢が取り囲もうとしていたとしても。
私は気が付いたら忍気を発動していた。
そして置き去りにされ、もう少しでその小さな命の灯が消えようとしている少女の前に、花びらを舞い上がらせながらシュタッと舞い降りる。
突然目の前に現れた私と花びらに驚くサルの魔物。
遅れて3人の私がやってきて、魔物の前に立つ。
少女も目を見開き、わけがわからないといったようすで、ポカンと口を開けている。
私はバチンと指を鳴らして、目の前の分身体全てを花びらに変えて舞い散らせた。
すると一面を桜の花びらが舞い踊り、魔物たちの視界を奪う。
その間に私は少女を抱え、空中機動術で魔物がいない場所まで駆け抜ける。
途中でさっき逃げた大人たちの断末魔を遠くに聞き、その声に少女は私の胸に顔を埋め、震えながら泣いていた。
あいつらの中に生き残りは……いないね。
まぁ当然か。
あの数の魔物相手じゃ、成す術もなかった感じだし。
それにしてもこの子……そろそろ離れてほしいんだけどな。
まぁなんか知らないけど、思わず助けちゃったのよねぇ。
今更ながら後悔しかない。
だって、あいつらは全滅することがわかっていたわけだし、この子だけ助けたところで、一人で行動できるとも思えない。
私がこのまま姿を消すことは簡単なんだけど、なんかこの震える手で必死にしがみ付いているあたり、そうしようとしているのがわかっているのかな?
私の目的は乙羽を守ること。
そのためにはクズ神が示す場所まで急いで向かう必要がある。
この子を他の人間のもとへ送り届けている暇もないし、こんなお荷物を背負って行動するだけ私の体力も無駄に消費してしまう。
正直いって、私になんのメリットもない……ないのになんで?
どうして突き放せない?
たかだか子ども一人の力、この小さな力をなんで振りほどけない?
そうしたくないとでもいうの?
この私がそうしたくないって?
誰か教えて。
ふぅ……人が考えごとをしている時に限って魔物が寄ってくるのはなぜかな?
あぁ、私は気配を消せるけどこの子はなにもできないんだった。
そりゃ、人間の気配がしたら魔物も黙ってないってわけね。
もう、全く以て面倒くさいことこの上ない。
スマコ、このサルみたいな見た目で口がドリルになっているこいつはなに?
《アトラス・マンドリル:アトラス大迷宮に生息するサル型の魔物。口先が鋭いドリル形状になっており、それで刺されるとなかなか抜けない。その間にドリルの間から長い舌を出して、少しずつ体の内部組織を食していく。火を見ると臆病になる》
うわぁ……ないわ――。
考えただけでも鳥肌もんね。
幸いにも魔法は使えないみたいだからいいけど……さてこの数はどうしたものか。
人が一生懸命考えているのに、必死になにかを目で訴えてくるこの子はなにかな?
急にどうしたのよ?
さっきまであんなに怯えてくせに、なんか目に力がこもってるっていうか……。
あ、離れた。
え? おじき?
なんで魔物の方に向かおうとしてんの?
ここは任せろ的なやつ?
あんたなにもできないじゃん。
なんか私に向かって手を払ってる?
身代わりになるから早く逃げろって?
ふざけんなし。
私は心の奥に感じる、ムカムカした感情、そう怒りを露わにし、忍気を発動した。
なんですぐに自分の命をほいほい捨てようとするかな。
一度死んだ私が言える立場じゃないかもしれないけどさ、そういうのはそうしたいと心から想える相手にすべきだと思うな。
あんたと私はまだ会ったばかりで、名前も知らない。
勝手に死なれても目覚め悪いわアホ。
『忍法、桜華乱舞の術』
私は桜飾を起動して、大量の桜夜の花びらを散らす。
それを操作して、サルを一気に集めながら、少女をこちらに引き寄せる。
サルが全て一箇所に集まったことを確認した後に、全ての花びらをサルに集めて円形に固め、身動き一つとれなくする。
そして、右手の拳を握り絞めるのと同時に心の中でハッキリとつぶやく。
『忍気忍法、桜華爆裂の術』
円形に固まっていた桜の花びらは、ピンク色の閃光を上げて爆発した。
衝撃波とそれを抑えるために散らした大量の花びらたちが宙に舞った。
「********」
え?
なに?!
この世界の言葉?
「*****! *******!」
な、なになに?
急に喋り出して怖いよこの子。
なんか興奮してるの?
わ、わかったから一旦落ち着こう?
ねっ?
「*****、オムネペッタンコ」
……あぁん?
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