163 すまこのざんえい
私たちの関係性は何よりもお互いのことが大切だと想い合っている。
だからこそ、私たちは強くなれる。
でも逆に、それは弱点にもなる。
「や……め」
モロゴンが向けたその手の先には、いまだに目を覚まさないあの四人とネコがいる。
くそ……その気になればすぐにでも私の息の根を止めることができるはずなのに、わざと拘束して絶望を与えようとしている。
それがわかっているのに、成すすべが見つからない。
「たす……けて……乙羽……マイカ」
精一杯、必死に叫んだ。
ここからでは届くはずのない、その先へ向けて。
「クックック。実に良い悲鳴だ。実際のこの耳で聞くと、とても心地がいいものだな。さて、さらなる絶望へと落ちた時、おまえはどんな声を聞かせてくれる?」
そういってあの子らに向けて放たれた黒くて太い槍。
あれは私の障壁を簡単に貫通し、中にいるあの子らまでを串刺しにしてしまうほどのものだった。
だが、その槍があの子たちへ届くことはなかった。
まっすぐにあの子らへと向かっていたその槍は、突如として降り注いだ一本の光の柱により打ち消されてしまった。
「……なに? くっ!」
そして、その光は私にも降り注ぎ、モロゴンを引き離すと同時に、私を磔にしていた黒い柱と槍を消滅させていく。
不思議と先ほどまで感じていた痛みも緩和する。
しかし、自力で動ける力が残っていなかった私は、ネコに仕込んでおいた糸を手繰り寄せて、みんながいる同じ場所へと落下した。
「確かにワレの分身は完全に消されたようだ。光の者がこちらに向かってきておるのか。ふむ、それではその前にカタをつけるとしよう」
先ほど守ってくれた光の柱はもうない。
あれはおそらく、乙羽が助けてくれたものだと思う。
乙羽がこっちに向かってきているのなら、まだ諦めない。
動かない手足に糸を巻き付け、無理やりに体を起こす。
手が動かないなら指先で!
それでも足りないなら口で!
動かせるものは全部を使って、糸を動かせ!
絶対に諦めない!
「その呆れた根性……神成ウラシスの最期も今のおまえと同じだったぞ」
そういって振り上げられた黒い剣。
先ほどの槍とは比べ物にならないほどの憎しみと怨念をそれからは感じる。
見ただけでわかる。
あれは一振りをしただけで、このあたり一帯を闇に飲み込むことができるほどの力があるだろう。
それが今、ためらいもなく振り下ろされた。
迫りくる、黒い斬撃。
身を挺してでも、この一撃だけは止めてやるんだ。
そう思って、糸を自身にグルグル巻きにした状態で待ち受けた。
しかし、それよりも先にその斬撃を防ぐ物体が飛んできた。
初めて見る黒い十字架だった。
「闇夜の十字架……アクシスめ、してやられたわ」
モロゴンがそういうと、その十字架の表面が開いて二人が姿を現す。
「このくされ外道……よくも桜夜を泣かせたね」
「さて、覚悟してくださいね。サクをこんな目にあわせた以上、手加減はできませんよ」
乙羽とマイカだ。
二人が間に合ってくれた。
でも二人の姿も結構ボロボロだった。
向こう側で激しい戦いをしてきた後なのだとわかる。
「サクヤ様! ご無事ですか?! 遅くなってしまい申し訳ございません! まさか向こう側がオトリだったとは、オハメ一生の不覚でした!」
オハメ……こっちにきたら危ない。
戦艦に戻ってなさい。
「嫌です! ワタクチもご一緒にいます! これはワタクチのオ意志なので、絶対にオ聞きしません! どう言われようが、ココでサクヤ様のフォローをするのです!」
まったく……この子も困った子だよ。
さて、二人もボロボロ、私はもっとボロボロ……今の私に何ができる?
どう動いたらこの二人の役に立てる?
「桜姫、これを使いなさい」
そう言いながら、十字架の中から這い出してきたのはアクシスだ。
この子はもう片方の腕まで無くしてしまっている。
「この闇夜の十字架に、アタシの力はもう残っていないけど、この中にはアタシ以外にもう一つ、力が残っているのよ。アナタならよく知っているはずだよ」
その黒い十字架に触れてみた。
すると、私がよく知るあの力がなだれ込んできた。
「……スマコ」
「そう、ウラシスの力だよ。このアタシの十字架はね、ウラシスとツキシス、それにマネシスと一緒に作り上げたものなの。だからなのかな、これにはみんなの力が少しだけ宿っていたんだよ」
懐かしく感じてしまうスマコの神成の力。
使い切ったはずの神成の力があふれ出す。
動かなかったはずの体が動き出す。
まるでスマコが力を貸してくれているみたいに。
「今のあの二人もそう。ツキシスとマネシスの力を使っているんだよ。まるで三人を見ているような気分だよ」
とてもうれしそうにそう言うアクシス。
その背後に剣を振りかぶった黒い影が迫る。
「……おそい」
それが剣を振り下ろした時には、すでにアクシスを抱きかかえ、ネコを私の影の中に放り投げ、四人を糸で手繰り寄せてその場を離れていた後だった。
「具現せよ、マグナレク。無限キャノン」
その影が一人になったところに、マイカの砲撃が襲い、一瞬でそれは塵と化す。
あれがモロゴンの分身だということはわかっていた。
本体は乙羽と戦っているから。
「サク、あの黒い攻撃には触れちゃだめだよ。あの槍は、単純にアタシたちの体を貫くだけじゃなくて、その槍が触れている部分から生命活動が無にされちゃうらしいの。乙羽ならあれを無効化することができるけど、アタシたちにはそれができない」
なるほど……だからさっきは動けなかったのか。
そればかりか、手も足も体も生命としての機能を死滅させられていた。
かなり危険な状況だったんだ。
「わかった……でも」
「そう、当たらなければいいだけだよ!」
全方向から死角もなしに迫る、無数の黒い槍。
「具現せよ、ガルガドス。完全武装モード展開。フル、バースト!」
「超電磁散弾!」
マイカと背中合わせに、それぞれが迫りくる槍を打ち消していく。
神成の力さえ使うことができれば、それに当たることはない。