017 やるならやるよ?
亀の目線が岩陰に隠れていた私(分身体)に気が付いたようだ。
まぁある意味、気が付かせる意味でわざとそばに寄ったからね。
その目的は、この亀と分身体を戦わせることで、どこまで私と同じ動きに近づけるかを調べるため。
それによっては、今後私自身がもう戦わなくても済むかもしれないからね。
こんな化け物たちを、いちいち相手にしていたら命がいくつあっても足りないし。
欲を言えば、一緒に戦うことができたらすごく心強いんだけどね。
でも分身体を操作しながら自分も戦うなんてそんなん高難易度過ぎる。
アイレンズ上に分身体が見ている視界と同じ映像を映す。
亀と分身体はお互いに対峙していたが、先に亀が動いた。
亀は一度、自身の頭を甲羅の中に引っ込め、その後に勢いを付けて首を伸ばしながら噛みついてきた。
はやっ?!
予想よりも素早い動きにビックリしたけど、なんとか初見で回避することはできた。
亀は続けざまに手足も伸ばして、それを鞭のようにしならせながら攻撃をしてきたので、それを次々に回避していく。
うん、分身体の動きとしてはある意味想定内で悪いね。
いや悪いってのいうのが、人間っぽくないってことね。
はたから見ると、その奇妙な動きがちょっと怖い。
例えば、首が180度曲がったり、腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっていたり、動きが妙にカクカクしていていたり、攻撃を避けるために上半身と下半身が分離してまたドッキングしたりと、まるで戦隊ヒーローのロボットみたいだったりしている。
まぁ逆の言い方をすれば、人間にはできない動きが可能っていうのはあるよねぇ。
戦い方のバリエーションはかなり増えると思う。
同じ人間同士の戦いで使ったら相手はビックリして失神するだろうけどね。
分身体の私は奇想天外な動きをしながらずっと亀の攻撃を避けている。
亀は痺れを切らしたのか、一度伸ばしていた頭や手足をもとに戻すと、再び私と対峙する。
そして、亀のMPゲージがグンッと減ったかと思ったら、甲羅の大砲に熱源反応を感知した。
分身体で戦う時のデメリットは未来視が使えないってことだね。
未来視はスマコとアイレンズと転身機が揃って発動できるもの。
分身体の視界をアイレンズに移している状態だと未来視を映せないし、転身機をまとっていないから肌で危険反応を感知出来ない。
さっき感じた熱源反応は本体の私が感じた感知なのだ。
でもMPを消費したということは間違いなく魔法がくるね。
この亀が発動できる魔法は甲羅から出てくる火魔法で間違いないはず。
私はそれを避けられるようにと身構えてみたけど、無理だった。
亀の甲羅から発動された火魔法は、想像をはるかに超えた、閃光みたいな強力な炎だった。
放たれた瞬間に避けることもできず、分身体の上半身が一瞬で蒸発した。
ないわ――。
なにあの大砲。
強力すぎでしょ。
未来視や忍気が使える私本体でも、もしかしたら避けきれなかったかもしれない。
それくらいに強力で速い攻撃だった。
亀っていう見た目と、今までの攻撃スピードで心に隙ができていたわ。
反省反省っと……。
私を完全に殺したと思い込んでいる亀は、下半身だけの私に背を向けて歩き出した。
まぁ別にこのまま静かにしていれば見つからないわけだし、わざわざ危険を犯すこともないんだけどさ、なんだろうね?
よくわかんないけど、このままじゃいけない気がするのよ。
なんかモヤモヤするっていうかね……。
スパイ忍者である私は姿を見せず、気付かれず、気配もなく忍び寄り暗殺する。
もう仕掛けは済んでいる。
後はそれを実行するだけ。
やってやるよ。
『忍法、蜘蛛糸の術』
歩いていた亀の動きがピッタリと止まる。
実はあの分身体の体の中には糸を大量に忍ばせていた。
分身体を動かすのにも糸を使っていたからね。
それ以外にもいっぱい分身体の体の中には糸や手裏剣を大量に忍ばせてあった。
チャタテムシの時と同じように、亀の攻撃を避けながらも実はさまざまな場所に糸を仕掛けていたのだ。
これが私の基本戦法になりつつあるね。
その糸が亀に絡みつき縛り上げた。
すると、亀はすぐに動けないことを悟ったのか、頭や手足を全部引っ込めて防御の姿勢をとった。
確かに体を拘束されて身動きが取れないなら、そうするしかないもんね。
その甲羅はちょっとやそっとじゃビクともしないし。
ただし、相手が私じゃなかったらの話だけどね。
下半身だけになっていた私の分身体が花びらになって空中へと舞い散った。
その花びらがすべて、頭や手足が引っ込んだ甲羅の中に入っていく。
外は固いけど、中はね……。
『忍気忍法、桜華爆裂の術!』
甲羅の中に入り込んだ花びらが、爆発した。
「グギャアアア?!」
たまらず頭や手足を出して、苦しみ出す亀。
花びらの数が少なかったからそれだけじゃ倒せなかったね。
まぁそれも想定内だけどさ。
『忍気忍法、糸首斬断の術』
堪らず飛び出して伸びた亀の首や手足に、瞬時に糸が巻き付く。
そして、その複雑に絡まり合った糸がつながる最後の一本が私の目に現れる。
私はそれを、忍気を発動した状態で一気に引き抜いた。
すると、絡まり合った糸がそれぞれの場所を締め上げ、亀は見るも無残な状態に引き裂かれた。
ないわ――。
自分でやっておきながらこれはないわ――。
夢に出てきそうだわぁ……。
まぁ喧嘩吹っ掛けてきたのはそっちだし?
殺す気できたんだから、文句はなしよ。
さて……疲れたから寝ますか。




