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002 まもりたいおもい

 どうせあの子はなんでもできる。

 あの子は特殊、あの子は怖い、あの子は異常者。


 こんな感じで孤立していく私に、誰も話しかけてはくれなくなってしまった。


 もともと口数も少ない方だったけど、一応愛想笑いなどもできる普通の子だったと思ってる。


 自分に向けられる視線がどうして恐怖と嫌悪感に包まれているのかわからなかった。

 悲しみと虚しさと寂しさに包まれた毎日を繰り返していた私に、さらなる悲劇が待っていた。


 それは、私が7歳の頃に突然襲ってきた病。


 その病気は、体のさまざまな内部組織の細胞があちこち壊死していくという原因もわからない厄介なものだった。


 それにより、私の並みはずれた運動能力は極端に低下し、無理をすると過呼吸を起こして、そのまま意識を失い、倒れてしまうほどに体が弱くなった。


 もともと私を良く思っていなかったクラスメイトはもちろん、最終的には他のクラスの子や学年が違う子たちに至るまでが、これ機にと私を貶め出した。


 毎日のようにひどい仕打ちを受け、顔も名前も知らない人にいきなり突き飛ばされたり水を頭からかけられたりする日々を繰り返していると、ある日頭の中で「プツン」となにかが切れる音が聞こえた。


 その日を境に自分の感情というものがよくわからなくなってしまった。


 気味が悪い人形のように、常時無表情な私を心配した母親は病院へと連れて行く。

 そこで診断されたのは「失感情症」というものだった。


 これは、自分の感情というものを認知できなくなってしまう病気らしい。


 当時の私はそれでも良かったと思っていた。


 だって締め付けられるような胸の痛みも張り裂けそうな体の痛みも感じず、溢れ出して止まらなくなる涙を流すこともなくなったから。


 そんな私の様子を見たクラスメイトたちは、さらに「気味が悪い」「気持ち悪い」「お化けみたいな顔」「妖怪みたい」などと言われ、ますますいじめはエスカレートしていった。


 だけど私はなにをされても、なにも感じないし、なにもしない。

 ただただ、ボロ人形のように雑に扱われ、ロボットのように同じ毎日を繰り返すだけだった。


 そんな時に出会ったのが今隣で、私の腕にしがみ付いている乙羽だった。

 私は、毎日放課後になると人気のない海岸で1人ベンチに座り海を眺めるのが日課になっていた。


 そこに突然彼女は現れ、「やっと見つけたよ! 私とお友達になってくれませんか?」といきなり言ってきたのだった。


 もちろん私は無反応。


 なにも言わずにその日は無視して帰ったというのに、乙羽はそれから毎日私の前に現れては、ひたすら同じ言葉を繰り返した。


 正直どうしていいのかわからなかった。


 ある日、自分に向けてなんども差し出されていたその小さくてきれいな手になんとなく触れてみた。

 すると乙羽は瞳の中にたくさんの涙を溜め込んだ状態で……笑ってくれた。


 これが私と乙羽の出会い。


 それから乙羽とは、毎日放課後になると同じように海岸のベンチに座り、海を眺めながら同じ時を過ごしていった。


 そんな毎日を繰り返していく内に、私も少しずつ乙羽にだけは心を許していったのだ。



 中学校から乙羽と同じ学校に通い始めた私は、さらに乙羽のすごさを実感することになる。


 廊下を歩くだけでみんなの視線を一斉にかっさらうほどの美貌と、太陽に輝く向日葵のような優しい笑顔にとても気さくな人柄も相まって、瞬く間に他校からも評判の超人気者へとなってしまった。


 そんな乙羽がいつも私なんかと一緒にいるもんだから、周りの私を見る目が小学校の頃とは全然違っていて焦った。


 乙羽が私に抱き付いている時なんか、後ろから拝まれてることもあったんだよね。

 あの時は本気でやめてほしかった。

 意味がわからんし。


 それは高校生になった今でも変わらない。


 この状態を小学校の時の元クラスメイトが知ったらビックリだろうなぁ。

 みんなとは違う中学校に進んだからね、私だけ。


 特に私を目の敵にしていたあの子は元気にやってるかな?

 まぁ今となってはもうどうでもいいことだけど。


 それと、今では少しだけ自分の感情を認知できるようになってきたと思う。

 乙羽に対するこのかけがえのない確かな想いがなによりの証拠。


 私の感情は相変わらず表情には出ないけど、乙羽はそれを感じ取ってくれている。


 今となっては、乙羽が私の全てであり生きる理由なんだ。

 だからこの子のためになら、私はなんでもすると心に誓っている。



『えへへへ、桜夜ってばそんなに強く手を握ってどうしたのぉ?』


 私はこの笑顔を守りたい……。


『えへへ、もっとこっちおいでよ! 私のコートの中入る? あったかいよ? 私の手でじかに体あっためてあげようかぁ?』


「あかん、また2人の世界に入ってもうたわ」

「オトハ氏の異常なサクヤ氏愛は止められない模様」

「アタシたちも腕とか組んでみるか?」

「やめとけ! 顔やスタイルが中の下以下のウチらがやってもただ気色悪いだけや」

「あ、ハトがいる~。パンの耳あげよっと」

「おい、あの一瞬でハトに囲まれつつある天然バカを捕まえろ。目的地はもう目の前だ」

「「「ラジャ」」」


 そしてついに辿り着いたこの場所は、ショッピングモールや映画館、アミューズメント施設などが複合されてできた商業施設の建物。


 この辺りじゃ、一番大きな建物かもしれない。


 ここには私らも久々に来たね。

 普段は人が多くて嫌だから来ないけど、新しいカフェのためならそれも我慢しよう。


 そして建物内のエスカレーターを使い、私たちは上のフロアへと上って行く。

お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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