159 さんにんとのきずな
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アクシス視点です。
アタシは大きな過ちを犯してしまった。
自分が与えられた痛みや苦しみを、罪のない人たちに向けてしまった。
あの時のことはしっかりと自分でも覚えている。
怯えるあの目、泣き叫ぶ人たちの声、人を殺す感触、耳が痛くなるほどの断末魔。
そのどれもが、アタシに喜びと幸福を与えてくれた。
自分の復讐心しか頭になかったアタシは、無関係の人たちへ残虐の限りを尽くした。
その被害者の一人である、モロゴン。
彼はアタシと同じだ。
自分に与えられた理不尽な殺戮によって、恨みと殺意に支配されてしまった者。
アタシは運よくウラシスたちに救われた。
本当の自分を取り戻すことができた。
だけど、モロゴンはそれがなかった。
たった一人で、ずっとアタシたちを恨み続け、その怨念だけでウラシス、マネシス、ツキシスを殺してしまうほどにまで、強大な力を手に入れてしまった。
自らを犠牲にしてまで、アタシなんかを助けたウラシス。
アタシなんかといるとアナタは影響があるはずなのに、『だからどうしたの? そんなこと気にしてんなら、本気でぶっ飛ばすわよ?』なんて本気で叱ってくれたツキシス。
アタシなんかに、『アナタは生きていい。ワタクシがずっと一緒にいます』とやさしく抱きしめてくれたマネシス。
アタシなんかのせいで……と考えない日はなかった。
終わらない悪の連鎖に、正直もう心が疲れていた。
アタシは神になっても悪の根源なんだと、なんど自暴自棄になって自害を試みたことかわからない。
だけど、神の領域まで上り詰めてしまったアタシの体は、そんな弱音すらも許してはくれなかった。
そんなアタシにもまだ希望が残っている。
ウラシス、ツキシス、そしてマネシスが残した小さな光たち。
この子らだけは絶対に死なせない。
アタシの命に代えてでも。
「久しいな、神邪アクシス」
アタシは今、艦長室を離れてこの戦艦の船主に一人で立っていた。
そこへ、突如として現れる黒い影。
「まさかアナタがここまでの存在になっていたなんて思わなかったわ……モロゴン」
「思えば、長い時間を過ごしてきた」
「そうね……」
「あの日のことを忘れたことはないが、こうして標的を前にしても、意外と冷静な自分に驚いておる」
「ええ、いきなり襲われるものとばかり思っていたわ」
「そうだな。おまえを見つけ次第にズタズタに引き裂くつもりだったが、最後にこうして会話ができてよかった」
「アナタはアタシを殺したらそのあとはどうするの?」
「そうだな……正直に言うと、考えたことがなかった。おまえを殺したら、ワレはもう生きる目標がなくなるな」
「そう……なら、残念ながら簡単には死んで上げられそうもないわね」
「是非ともそうしてくれ。ワレに存在意義を無くさせないでくれよ、神邪アクシス」
アタシは自分の体の中にかけていた最終奥義、『壊滅』をも上回る量の力を開放した。
壊滅は、存在しうる全てのものを飲み込み、無に返すアタシの最大級の技。
アタシはこの技で、自分の中に作り出していた別次元の世界を消滅させた。
それと同時に、自分の中から生まれる神の力までを失ってしまった。
いや、正確には力を吸われ続けていただけで、失っていたわけじゃない。
吸い込まれる量が多いなら、それ以上の力を放出すればいい。
そして、力を失ったあの時からたっぷりと休むことができたアタシは、その許容量を超えて、放出できるまでに回復していたのだ。
いや、これはアタシだけの力じゃない。
おそらくこれは、あの時に桜姫から分けてもらった力……全く、ウラシスといい桜姫といい、あのお人よし星人め。
「神邪アクシス、久しく感じるこの恐怖……いいぞ、これこそワレが壊したかったものだ!」
力を一時的に取り戻しているとはいえ、もちろん長くは持たない。
だけど、少しだけでも本気で戦えるのなら、それで十分。
これはアタシが責任を持ってやるべきことだ。
この男だけはアタシが。
「モロゴン、おまえを開放しよう……こい、本気で相手をしてやる」
アタシが戦うと、あの子たちにどんな影響があるか分からないから、なるべくこの戦艦から離れたい。
「おまえも甘いやつなのだな……ワレがいつ、おまえだけが目標だといったのだ」
アタシが振り向いた時には、もう戦艦のブリッジに向けて、モロゴンが暗黒の剣を振りぬき、その剣筋に沿って黒い衝撃波のようなものが放たれた後だった。
「……でしょうね。その程度はわかるわよ。邪神、なめんな」
アタシはブリッジの前に、真っ黒の十字架を出現させて、それを防いだ。
「ほう、それが闇夜の十字架か……それを見て、生き残ったものはいないとウワサだったな」
そう、これは自分が強くなるために、マネシスをマネして作ったアタシ専用の武器。
強靭な耐久力を誇りながらも、縦横無尽に動かすことができて、武器にも盾にもできる、戦いにおいての最高の相棒だ。
そして、その中にはもう一つの隠された武器が収納されている。
「こい、デスサイズ」
十字架の表面が開き、中から二本の鎌が姿を現す。
その二本は一本の大鎌となり、アタシの手に収まった。
アタシが闇夜の十字架の力で満足していると、ウラシスとツキシスが不満がった。
『中から違う武器が出てきたらカッコいいでしょ?!』なんて、二人が興奮しながら嬉しそうに考えてくれたのがこのデスサイズ。
そんな三人との絆が今、アタシを守ってくれる。
「死神の大鎌か。もはや片腕のおまえにそんな大鎌を降る力が……なんだと?」
会話の途中で、ようやく自身の首が胴体と離れ離れになっていることに気が付いたようだ。
アタシは、手に馴染んだデスサイズでモロゴンの首を切り落としていた。