156 まくをつきやぶれ
「目標補足、モニターに映します」
ドアップで映し出される、私の着替えシーン。
「……失礼、こちらです」
画面は切り替わり、目標としている巨大な隕石が映し出された。
あの着替えはいつ盗撮されていたのか、オハメには後で問いただすとして、隕石と呼ぶにはあまりにも巨大過ぎるそれが今、地球へと向かっている。
まずはこれを破壊することが目標だけど、あのモロゴンがそれを黙って見ているわけはないと思う。
少なからず何かしらの抵抗はあるものと思うべきだろう。
それに、この隕石を破壊することも現状では困難だ。
オハメの計算では、あのマイカの無限キャノンでも全くビクともしないほどの強度があるという。
私ら三人の神の力と、四人の眷属の力、それにこの戦艦のサテライトエネルギーをフルマックスでチャージした砲撃なら破壊が可能かもしれない。
だけど、その時には全員が力を使い切っている。
もし、そこへモロゴンが現れたら誰も太刀打ちができない。
そこで、妹っ子は策を考えた。
オハメの解析によると、あの隕石は小さな宇宙ゴミや欠片などが大量に集まってできたものであり、それは中心に向けて重力のようなものが働いて成り立っているという。
つまり、あれはとても長い期間をかけ、ずっと移動しながら巨大化を続けてきたということだ。
その表面は、引き付けられただけのモロい物体だけど、その内部はギュウギュウに圧縮された強固な個体となっている。
それは、内部に行くほど強固なものとなるため、マイカの強力な砲撃でも撃ち抜けないのだ。
モロくなっている外周りから削っていくことも考えたけど、とてもそんな時間もエネルギーもない。
そこで、妹っ子が考えたのが、一点突破の超集中攻撃からの、内部爆発による崩壊作戦。
略してセカンド崩壊作戦。
その全貌はこうだ。
まず、隕石の中心部へ入り込むために、必要最低限のエネルギーで穴を掘る。
その穴の中で大爆発を起こし、中心へと向かっていた引力を相殺する。
すると、硬かった隕石がモロくなるので、そこで一気に粉砕してしまうというもの。
穴掘りはアズサたち四人の担当。
そして、穴の中で大爆発を起こす役目はネコ。
モロくなった隕石を粉砕するのはこの戦艦の砲撃を使うという。
私たちは、モロゴンが現れた時や、不足の事態に備えて力を極力使わずに温存しておき、最悪のケースに備えておく。
と、まぁ口でいうのは簡単だけど、実際はそんな簡単なことじゃない。
穴を掘ると、元に戻ろうとする力が働くから、当然穴の中にいる人は下手をすると押しつぶされてペッチャンコ。
目標の中心部にたどり着いたとしても、そこで引力を相殺するほどの爆発を起こせば、穴の中にいる人はその爆発に巻き込まれて骨も残らない。
加えて、仮に私たち三人が万全の状態でモロゴンと戦うことになっても、実際に今のモロゴンと対峙したわけじゃないから、その力量差も不明だし、勝てる見込みが少ないと思う。
なんといってもあのクズ神を作り出した化け物だからね。
なんとかギリギリでソレに勝てた私たちとは、かなりの実力差があるとみて間違いはないだろう。
もっというと、そもそもモロゴンからしたら、あの隕石を粉砕されようが別に構わないわけよ。
アイツの目的は私たちの全滅なわけだから、力を使い果たした絶好のチャンスを狙ってくるのが必然だろう。
なんせ、標的となる私たちが一ヵ所に密集するわけだし。
不安は残るけれど、寝る間も惜しんで考えてくれた妹っ子の策だ。
今の私たちは、それを信じてやり遂げる以外に方法がない。
―――そして、その時はやってきた。
「作戦開始。シズクさん、ハルカさん、お願いします」
「まかせて。ハルカ、Xに15度、Yに35度、Zに3.5度、軌道修正」
「了解よ、シズク」
「オハメ、目標物との座標を再計算。320秒後、この船を軌道にのせるわよ」
「オハメにお任せくださいませ、お母さま」
「アナタにお母さまと言われる筋合いはないけど、さすがはマギの子……早いわね。ハルカ、Zに6.5度下方修正、その後5スロットルまで上げて」
「全く、難しいことを簡単に言ってくれるわね」
「アナタを信じているからね」
「……ふん、やってやるわよ」
なにやら母親たちは楽しそうだ。
詳しいことはよく分からないけれど、まずはこの船をあの巨大隕石と同じ速度にするため、難しい操縦を乙羽のお母さんがやってくれている。
それを私のお母さんやオハメ、妹っ子たちが全力でバックアップをしている。
この時のために、何度もシミュレーションを重ねてきたのだという。
戦っているのは私たちだけではないのだ。
「艦長……無事、軌道にのりました」
「みなさん、ありがとうございます。ここからは、アンタたちの出番よ! 出撃!」
妹っ子の合図で、私たちは一斉に宇宙空間へと飛び出した。
「目標補足、このまま真っすぐに突っ込んでください! あの初めての膜を突き破るかの如く!」
「その言い方はやめろ! せっかく気合が入っていたのに台無しだろ!」
「まぁ気負い過ぎてもアカンで、アズサ。おまえは大体こういう時に空回りすんねん」
「わ、わかった。ちょっと落ち着くわ」
「それでは、アズサさん、落ち着きついでにハズキさんの膜を突き破った時の感想をどうぞ」
「え、あぁ。あん時はなんつうか、初めてのことで……」
「なにを聞いてんねん、ドアホ! おまえもなにを普通にしゃべってん!」
「ねぇ、なんの膜を突き破ったの? どうやって突き破ったの? どの指を使ったの?」
「なんのことか知っていて、わざと聞いているヤツがここに約一名」
相変わらずとてもうるさくて結構なことだ。
気負い過ぎたり、緊張したりしても、こうやって笑い合っている方がずっといい。
自分は一人じゃないと思い出させてくれる。
それを知ってわざとなのか、それともただそういう性格をしているだけなのかは知らないけど、みんながアンタのおかげでいつもの調子を取り戻したから、それには感謝してあげる。
私は、自分の腕に巻いたスマートデバイスの中にいるオハメに向かって、心の中でそうつぶやいた。




