154 せかいのりせっと
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「……ここは……アタシ、どうなったの?」
「……ないわぁ」
「うわぁ?! ビックリした! 誰?! なに?!」
「いやいや、ビックリしすぎでは?! さっき、殴り合った仲じゃん」
「アナタ、ウラシス?! いや……そんな喋り方だったっけ?」
「そだよ~。やっと落ち着いて会話することができたね。私は神成ウラシス、一応神ってことになってるよ。よろしくね!」
「どうしてアナタが……アタシをあんな目に合わせたのはアナタなんでしょ?」
「私なわけないじゃん。なに言ってんの?」
「いやだって、さっき『……うん』って、認めてたじゃん!」
「いやいや、私じゃないけど、私にも原因があるから、それはちゃんと謝っておこうとしてだね?」
「ちゃんと言ってよ! 誤解したじゃん!」
「私は言おうとしたんだよ?! それをいきなりぶん殴ってくるなんて酷いじゃん! 暴力反対!」
「アタシが悪いの?! はぁ……もういいや。それよりも、今アタシはどんな状態なの?」
ここからおしゃべりモードのスマコから説明が始まった。
私は、さほど驚きはしないのだけれど、乙羽とマイカの二人は、急に人が変わったようにしゃべっているスマコを見て、とても驚いている。
私からすると、子どもっぽく話すスマコを見ることができて、少し新鮮な気持ちだ。
スマコの話によると、これはアクシスの精神の中へスマコが入り込んで直接会話をしている状態だという。
そのため先ほどの世界とは違って、非常にゆっくりと時間が流れているようだ。
おそらくアクシスが体感したことをそのまま私たち三人に見せてくれているのだろう。
スマコの話によると、アクシスをあんな目に合わせたのは、スマコの『対となる存在』の仕業だという。
スマコは神の頂点に立つ神。
世界の繁栄と均衡を保つことが目的で最初に生まれた全知全能の神らしい。
世界の始まりは、スマコの誕生により生まれたとされている。
スマコは生命を作り出し、その文明を発展させ、生命を増殖させ、自らの手で生きてい
く術を与えた。
そして、世界はとても穏やかで豊かに育まれていったという。
しかし、スマコが生まれたと同時に、同等の力を持った全く異なる存在も生まれていた。
それがスマコの『対となる存在』。
スマコが世界を平和にすればするほど、その存在は逆に破滅と滅亡へと陥れていく。
平和の裏には、必ず悪がはびこるという現象が当たり前になっていったという。
その世界の理を変えることが、スマコにはできなかったらしい。
つまり、スマコとその『対となる存在』があることで、世界の均衡は保たれているというわけだ。
スマコ自身、その『対となる存在』をどうすることもできないのだという。
「つまり……アタシを陥れたのは、その悪の方の存在だったわけね」
「理解が早くて助かるわぁ。なんでいつもは誰も理解してくれないんだろう」
「それは口数が少なすぎるからでしょう。本当にアンタ同一人物?」
あ、それは私も同感かも。
これだけしゃべれるなら、普通にしゃべったらよかったと思うよ。
「まぁ、そういうわけでアナタはソイツのせいで、悪の根源にされてしまったわけよ。そして、平和になっていたこの現在で、再びこの地を破滅に陥れようとしていたわけ」
「とんだとばっちりね……迷惑極まりないわ」
「ごもっとも。私には謝ることしかできないし、許されないことだと思ってる。でも、どうかマネシスの気持ちだけは分かってほしいんだ。あの光景を見たマネシスは、一人で飛び出して行ったんだよ。でも、間に合わなかった……だからアナタには特別な感情を持っていたんだと思う」
スマコもまた、抗えない運命と戦いながら苦しんでいたんだね。
そんな中でも、マネシスの想いを形にしたスマコが、私は誇らしい。
「それはアンタのせいじゃないし。それに……マネシスはお母さんみたいに温かかった」
「そう思ってくれて、私もうれしいよ」
「これでもう思い残すことは無くなったかな。最後に理由が分かってよかったよ。ありがとう。マネシスにもお礼を言っておいてね」
「なんで?」
「なんでって……アンタが感謝してほしいって言ったのに」
「それは自分で言ってよ。私がしゃべるの、ここまでだし」
「え?! アタシ死ぬんじゃないの?!」
「死なないよ? アナタを助けるために、私の神の力を使い果たして、神化させたし」
「え?! え?! えぇええ?!」
「アナタは目覚めたら邪悪な神、神邪アクシスだよ」
「神邪……アクシス?」
「あ、それとね、私メッチャ弱くなっちゃって世界の均衡を保てないかもしれないから、助けてね?」
「えぇえええええ?!」
その会話を最後に、アクシスは目を覚ました。
やさしく抱かれた、マネシスの暖かな腕の中で。
「マネ……」
「アクシス、良かった……本当に良かった」
「あの……ありがとう……あの言葉、うれしかった」
「うふふ。これからよろしくね、アクシス」
これが神邪アクシスの過去。
存在しているだけで世界を破滅に陥れる者。
だが、その過去には壮絶で悲惨な体験をしていた。
そして、全知全能の神だったスマコが、本来の力を失った過去でもある。
その背景には本来の力を犠牲にしてまでアクシスを助け、マネシスの想いとアクシスの覚悟を形にした物語だった。
そして……もうひとつ。
私たちは見逃さなかった。
アクシスと同様に、闇に落ちてしまった者がいたことを。
英雄ウルノスの子孫で、アクシスによる残虐を味わった者……モロゴン。
彼もまた、被害者だった。
事の背景を知っている私には複雑だが、それを全く知らずに理不尽な殺戮をやらされた彼は、アクシスと同じおぞましいほどの邪念を放っていた。
「神成ウラシスは我らの神ではなかった……ヤツが全ての元凶……そして……アクシス、マネシス、ツキシス……ワレにも見えたぞ……決して、許すまじ……」
彼は確かにそうつぶやいていた。
おそらく、今回私たちが目標としていた存在はモロゴンで間違いないだろう。
彼の邪念はこれから長い年月をかけて膨れ上がり、あの四人の神への憎悪を積もらせていった。
それが今、私たちにも向いているのだ。
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「目が覚めたかしら」
その声に反応して目を開けると、見覚えのある天井があった。
「アクシス……」
「その……」
「なに泣いてんのよ。同情させるために見せたわけじゃないんだけど」
「だって……あんな」
「おそらく今回の敵は、アタシのせいで闇へと落ちてしまった、モロゴンという男よ」
はやりそうか。
アイツが夢で私に話した内容とも一致するからね。
「アタシたちはあの後、あの惑星を滅ぼさずに去ったわ。本来なら悪の進行が進みすぎたあの惑星は全てを滅ぼし、無に返す必要があった」
「無に返す?」
「えぇ……世界が平和でも悪でも、偏りがイキ過ぎた世界は無に返さなければならない……そうして世界の均衡を保つこと、それが『世界のリセット』よ」