149 しられたくないかこ
衝撃の事実に耳を疑った。
あのクズ神を使い、散々みんなを苦しめてきた全ての元凶である存在は、スマコによって残虐の限りを尽くされた者だと言う。
う、嘘だ!
スマコはそんなことしない!
『神成ウラシス……またの名を、全知全能の最高神。あれは、世界のリセットという名目で、ワレらの故郷を蹂躙した。その命によりやってきたのが、神光ツキシス、神機マネシス、そしてあの忌々しい神邪アクシスだ』
そんな……こと。
『神邪アクシスはワレの体を使い、ワレの大事な者たちの命全てを奪った』
信じられない。
『あれは邪神ぞ? 人の悲しみや苦しみを好み、虐殺や惨殺の限りを尽くした。アレからすると、ワレに行ったあの所業も、自分の快楽の一部でしかなかったのだ。あの耳に残る高笑いは今でも鮮明に覚えておる』
もうなにも言い返さない。
こいつの発言が事実だとは限らないし、信じる必要もないから。
『耳をふさぎたくなるのも当然のことだろう。だが、忘れるな。おまえたちからするとワレは悪なのだろうが、ワレからすると、そこの神邪アクシスとその仲間たちこそ悪だ』
その言葉を最後に、私は目を覚ました。
両隣には乙羽とマイカがまだ寝ている。
額にかいた汗を拭い、深呼吸をして落ち着く。
どうやって私に話しかけてきたのか分からないけれど、アイツの目的や動機のようなものはわかった。
アイツは昔、スマコとアクシスに残酷な方法で絶望を与えられた。
その復讐心でスマコたちの暗殺を謀り、三人の神を殺した。
しかし、一番恨みがあるアクシスと、スマコたちの力を受け継いだ私たちが残っている。
あの口ぶりからすると、アイツは私たちを許さないのだろう。
こちらからすると、それは理不尽になるけれど、アイツからすると大切な人たちを殺された復讐なのだ。
アイツが言うように、仮に私が体の自由を奪われ、自らの手で乙羽やマイカ、あの子たちを……なんて考えたら、とてもじゃないけど正気ではいられないと思う。
嫌な想像をして、気分が悪い。
鼓動が早くなって、落ち着けない。
胸が張り裂けそうなほどに痛い。
その後、急激な眠気が襲ってきて、再び意識を手放した。
気が付くと、私はなぜか裸で大浴場に浸かっていた。
体も温かく、背中には覚えのある感触を感じる。
「……マイカ?」
「あ、起きた? どう? 気持ちいい?」
まぁ、悪夢のせいで汗だくだったから、少し心地がいい。
「……うん」
「そかそか。アタシと乙羽もさっき起きたんだけど、乙羽がサクの服を脱がしていたから、お風呂かと思って一緒に来たんだよ」
「ちょっと! 言い方がまずいよ! それだと私が勝手に桜夜を裸にしていたみたいだよ!」
「違うの?」
「違わないけど、違うよ! 私はなんか桜夜が苦しそうで汗をかいていたから、体を拭いてあげようと……」
まぁなんにしても、少しだけ気分が晴れたのは正直なところだ。
この二人といると本当に落ち着く。
「なんや? ウチの隊長は寝込みを襲いよったかいな」
「どうやらそうらしい。アタシらはとんでもない人の眷属になっちまったようだ」
「まぁ、寝ているハズキのパンツに手を伸ばしていたアズサが言っても、説得力がないけどね」
「それを見ながらゲラゲラ笑って、盛大に後頭部を強打していたヤツがここに約1名」
乙羽やアズサが、盛大に暴れ出してしまった。
みんなお風呂場で暴れちゃいけないって教わらなかったのかな。
そんなに広くないお風呂なんだから、とりあえず落ち着いてほしいのだけれど。
まぁ私はマイカに抱かれたままだから、ここが一応安全地帯ではある。
というか、しっかりと体に回されているこの手を離してくれそうにもない。
私はいつ上がれるの?
そろそろのぼせそうなのだけれど。
――そんなひと時は過ぎていく。
しばらくして、館長室へと来た。
「みんな、疲れは取れたようね」
「艦長は休んだか?」
「ええ」
ほとんど休んでいないね、この子は。
一応睡眠と食事は取れているようだから、隣にいる魔王がちゃんと世話をしているのだろう。
「それよりも最後の作戦に移行するわよ」
「いよいよか」
「せやな。これでホンマに終いや」
「この船は、現在最終目標である巨大惑星に向かっているわ。正確にはその手前の砲撃位置ね。そこで、最後にクズ神を葬ったあの砲撃を惑星にも打ち込む……はずだったけど」
「そう、あの砲撃ですらあの惑星を破壊することは……って、桜姫、どうしたの? アタシの顔になんかついてる?」
アクシス……いけない、どうしても意識してしまう。
「またなんか怒らせたんじゃねえか? 謝っとけよ」
「なんでいつも怒らせてるみたいになってんの?! 今回は本当になにもやってないわよ!」
「アンタとブアイソは、あっち行って誤解を解いてなさい!」
妹っ子にそう言われ、二人にされてしまった。
「改めて二人っきりになると、なんか緊張するわね」
「……」
「それで? アタシになにか聞きたいことでもあるの?」
「……」
「今は二人なんだから、話してくれないとアタシも困るんだけど」
なんて切り出したらいいのか分からない。
アクシスのことはもう大切な友達だと思ってるし、信頼もしてる。
今となってはそれも揺るぎないことだと思っている。
だけど、確かめないといけない。
「世界のリセット……って……なに」
その言葉で、あからさまにアクシスの顔色が変わる。
「……そのまんまの意味じゃないの? 地球を滅ぼして、この世を終わらせるみたいな?」
「アンタらも……それをやったの?」
「……なにが言いたいの?」
アクシスの顔つきが鋭くなる。
だけど、引き下がれない。
「惑星を滅ぼすために……そこに住んでいた人たちを……殺したの?」
そこまで言うと、胸ぐらを掴まれて押し倒された。
馬乗り状態で睨みつけてくるアクシス。
呼吸は荒く、目が血走っている。
その反応を目の当たりにした今、これは事実なのだと私は悟った。




