146 はれんちめいど
いまこそ、準備していたその全てを解き放つ時だ。
「……電界壁……展開」
あらかじめ、この宇宙空間のあちこちに配置しておいた大量の分身体たちを、先ほど脳内に送られてきたデータの位置までそれぞれを移動させ、全員を桜の花びらへと変えた。
そして、その大量の花びらたちを重ね合わせ、強靭な障壁として何重にも重ね合わせていく。
これは、以前に使用していた七つ道具の空輪を応用し、スマコの神成の力と私の力をかけ合わせて新しくしたものだ。
その障壁を作り上げた直後、本拠地が爆発した衝撃波が、その障壁にぶつかりながら勢いを分散し、地球までの軌道を外していく。
「か、艦長、報告です! 衝撃波、地球への軌道から外れました!」
「分散?! 一体なにが……」
お母さんの報告に、妹っ子は首を傾げる。
「ようわからへんのやけど、地球は大丈夫っちゅうことでええか?」
「どうやらそうみたいだな。ハラハラしたぜ」
「うぅ……さっきのデカいハトに振り回された時の酔いで、今にも吐きそうなヤツがここに約1名」
「ほら、ワタシの特製ジュースで元気出そう!」
『オロオロオロオロオロ』
「ミサキ、いいからそのジュースはアタシに渡しなさい」
四人とアクシスは相変わらず楽しそうに騒いでいる。
そんな中、こちらへ視線を送ってくる妹っ子とお母さん。
「……ブアイソ、あんたの仕業ね? 一体なにをしたの? それにあの変態メイドはなに? 姿や服装はマギに似ているようだけど?」
「サクちゃん、お母さんにも聞かせて? マギは間違いなく消滅したはずよ? 本体はもちろん、分散させていた全ての子機を含めてね」
あれだけ広範囲の障壁を何重も作るのにはさすがに骨が折れたから、少しは休ませてほしいのだけど……。
ダメ?
やっぱダメっすか?
そもそも私に聞かれても答えるわけがないじゃん。
と、いうことであとはアンタの出番よ。
「うふふ、呆気に取られて惜しみもなくアホ面を晒しているそこの皆さま方、こんにちは、こんばんは、おはようございま~す」
突然、艦長室の一番大きいメインモニターの中に、一人のメイドが花柄パンツを見せつけるように映し出された。
「あっ! あいつ、ウチらの前のモニターに現れたオモシロハレンチメイドやん。略してオハメや」
オモシロハレンチメイドのオハメ……うまいこと言うな。
クルクルと回りながらスカートをたくし上げ、パンツを見せつけてくるこのアホな変態メイドにはピッタリの名前かもしれない。
「確か、あん時は自分でマギって名乗ってなかったか?」
「先ほどはオマヌケにもオマンマと引っかかっていただきまして、どうもありがとうございました。おかげさまでスムーズに事がお運びいたしましたよ。うふふ」
自らお尻をさらけ出し、ペンペンといい音を立てながら四人を挑発しているオハメ。
「よし、こいつぶん殴ろう」
「おまんま! おまんま!」
「やめろミサキ! その言葉は、はしたないと思うヤツがここに約1名」
「ロリッ子もミサキにノルのはやめろや。ええ歳こいて恥ずかしくないんか?」
うるさい四人を他所に、お母さんがモニターを確認する。
「ここにあるモニターは、艦内システムとは独立しているただのディスプレイのはず……」
「だからこそ、このオ天才であるワタクチが入り込めましたのです! この中に隠れて、新しいシステムを構築することなんて、ワタクチにはオ造作もないこと」
「艦内システムに干渉せず、システムを構築?! そんなこと、マギ本体にしかできないはずだわ……でも、マギは少なくともこんなオモシロハレンチメイドではない」
「そんなにオ褒めいただきましたら……さらにサービスしなくては」
「オハメ、お前のパンツ見て喜ぶんは、アズサだけやねん」
「ブフッ?! お、おい! ハズキ! な、な、なに言って……」
「それよりも、みんなは話を聞きたいねん。頼むわ」
そこからオハメは、スカートをたくし上げたままで自らの存在を説明し始めた。
オハメは、マギが自らのプログラムをベースに作り出した、全く別の存在であるマギの子どもだという。
マギは、万が一自らの身になにか起こった場合に備えてオハメを作り出し、自身とは全く別系統のシステム内に隠していた。
その時がきたら、自動で起動するようにプログラムされて。
そして、その時はやってきた。
オハメは生まれてすぐ、即座にその状況を理解し、クズ神や汚染されて全く別のものに変わり果てたマギに気が付かれることなく、私たちがここにやってくるまでの間、隠れ続けていたらしい。
そして、なにも知らずにやってきた私たちが、クズ神と汚染されたマギに騙されることを想定し、私にだけ真相を話した。
たまたまなのか、私の七つ道具たちもマギの管理システムとは別の系統だったらしく、私にだけコンタクトを取ることができたようだ。
事の真相を知った私は、お母さんがコードFの指示を出したその時から、地球への影響をオハメが計算し、それを防ぐための策を準備していた。
「マギの子か……どうやらアナタの作り出したスーパーコンピューターは、想像をはるかに超えた存在にまで成長していたようね、シズク」
「マギは以前私に言ったわ。私にサクちゃん、ハルカにオトちゃんがいるように、自分にも愛する子どもがほしいと……機械の自分でも、自らの命を犠牲にできるほどの尊い存在がほしいと……」
「マギ……母とは会話をしたこともありませんが、間違いなく偉大な母でした。本当に微かなバクなのかもしれませんが、ワタクチのバックアップの一番初めには、優しく笑顔を向ける一人の女性の映像が微かに残っています。ワタクチはそれを母だと信じています」
信じている……か。
機械らしからぬその曖昧な想いを込めた感情、まるで人みたいだ。
マギもまた、スマコたちと同じように大事な想いを形にして、私たちに残してくれたんだね。
「ありがとう……マギ。アナタの想いはきちんと繋いでいくわ。だからもう私も悲しまない!」
「ここにいるみんながマギを覚えている。前に進みましょう、シズク」
「ええ」
母親二人はギュッと抱き合い、そして強い眼差しで前を向いた。