A03 天才児
別ルート編です
この世界はおかしい。
アタシがそう思い始めたのはもう5歳になる頃。
この世界に住んでいる人々は強くなることが全てだと思い込んでいる。
まぁ、アタシもあの式典が終わった後に初めて自分のギアメタルというものをもらい、初めて魔法を使えるようになった時は、正直嬉しくて喜んだのを覚えている。
だけど、この世界に渦巻く教育環境は、子どもが読む絵本や教本、親やその家臣たちからの教育にいたるまで、最終的には魔族を滅ぼすことだけを正義とする内容だった。
そのためだけに己を磨き、強力なギアメタルを使用できるようになることだけが求められている。
一応、仲間との絆の大切さや、助け合う心、愛するものを守ることも教えられるけど、それはあくまで魔族を滅ぼすための力となるからという前提だった。
まるで戦うためだけに生き、殺し合うためだけに強さを求めているような世界。
一方、相手は魔族といっても見た目はアタシら人間に近い姿をしている。
違いは頭に角が生えているくらいなもの。
この世界は、アタシら人族側と魔族側とで大陸が完全に分離している。
人族と魔族の大陸の間には、四災岳というはるか雲の上に突き抜けるほどに標高が高い山脈があり、それがこの地の果てまでつながっている。
基本的にはお互いの大陸へ足を運び入れることはかなわない。
それは、その山脈がとても人や魔族が簡単に越えられるような標高ではない上に、それぞれ各国の山頂付近では常に4つの災害が絶え間なく降り注いでいるからだという。
故に、生物が生きて山脈を越えることはかなわない。
だけど数十年に一度の割合でそれらの災害が止む時期が発生する。
その時が魔族との戦争開始の合図となり、その山脈付近で戦争が始まる。
一度戦争が起きてしまうと、お互いにたくさんの人が死んでしまう。
その後に、またそれぞれで力を蓄え子や兵士を育てて、また同じように戦争をする。
それをもう数千年もの間、続けているらしい。
正気の沙汰とは思えない。
この世界のことを知れば知るほどに、怖くなっていった。
そんなアタシももうすぐ6歳。
この歳になると、強制的に学園へと入れられて寮生活が始まるのだ。
「はぁ~……憂鬱ですわ」
「あら、アズサ。学園に通えるということは素晴らしいことなんですよ?」
「それは強くなれるからですか?」
「その通り! あの学園は優秀な生徒しか入学させませんのよ! そんな場所で訓練を行うことができるなんて、誰もが羨む素晴らしいことよ」
「……あたくしは、そんなに強くなくてもいいですわ。もっと普通に生きていたい」
「アズサったら……一体どうしてしまったというの?」
「……」
「昔はもっと……」
これだもんなぁ……。
最近じゃあ、アタシの方がおかしくなったと思われているし。
「アズサ、聞いているの?」
「聞いておりますわ、お母様。あたくしはもう部屋に戻りますので」
「ちょっと、アズサ?」
はぁ……。
まぁ、学園に入れば両親から離れられるのはいいかもしれないけど、強くなることに飢えたガキどもや先生たちとうまくやっていく自身がない。
そんな憂鬱を抱えたまま、学園へと入学する日がやってきた。
「アズサ、しっかり頑張るんだぞ! おまえは私たちの誇りなのだから」
「そうよ、アズサ。期待しているわ」
「はい、お父様。お母様。このアブリエル伯爵家の名を汚すことがないよう、精進して参ります」
「うむ。では、行っておいで」
「はい、行って参ります」
それからアタシは学園へとやってきた。
アタシと同じ制服を着て、荷物を持っている人たちが大勢いる。
この学園はこのルドラルガという国の中でも選りすぐりの人たちしか入学できない超名門学園だ。
将来が有望な者だったり、名のある貴族家系の者だったり、平民でも実力がずば抜けて高い者だったりと、力ある者だけが集う場所。
それがこの、マキシム学園。
ルドラルガの国王である、ルーク・マキシム様の名前を取って付けられたという。
国王の名前を付けているだけあって、とんでもない大きさだわ。
前世でいうところの有名な大学くらいの広さはあるんじゃないの?
私らまだ6歳よ?
普通に小学生じゃん。
まぁいいや、早く女子寮に向かおう……。
そう思って歩き出したところで人にぶつかった。
「きゃっ?!」
「あ、失礼いたしました。お怪我はございませんか?」
「え、えぇ、わたくしの方こそ申し訳ありませんの」
そう言って頭をさげるその子は、アタシよりも少し大人っぽい品格のかわいい子だった。
アタシと同じ制服を着ていて、荷物を持っている。
「いえいえ、あたくしの方もまわりが見えていませんでしたので。アナタも今年入学される方ですか?」
「はい。本日初めてこの学園へと参りましたの。今から女子寮へ向かうところですの」
「まぁ! それでは、もしよろしかったらご一緒しませんか?」
「うれしいですの! 初めての場所で一人ではとても心細かったんですの」
「ふふふ、良かったですわ。それでは参りましょうか」
「はい!」
それからアタシたちは一緒に女子寮まで歩いた。
道中その子といろいろ話をしたおかげでとても仲良くなった。
「まぁ! あの有名なアブリエル伯爵家のご令嬢様でしたの?! お会いできて感激ですの!」
「それを言うなら、アナタはあのイエスタリ伯爵家のご令嬢様ではありませんか。アナタ様もとても有名ですわよ」
「ワタクシ、あの日からアナタ様にお会いできるのを楽しみにしていましたの」
「それはアタクシも同じです! 今後とも仲良くしてくださいね!」
「もちろんですの!」
この子はアタシが3歳の時に受けた式典会場で、アタシと同じように天才と呼ばれて会場を沸かせていた子だった。
アタシらみたいな天才児が生まれるのは、数百年に一度あるかないかの割合らしいよ。
その当時は、同じ世代で2人も天才児が生まれたことに、町中がこの話題で持ちきりだったという話だった。
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