142 さいきょうのぶたい
クズ神を船の外へと追い出したのを確認すると、すぐに妹っ子はハッチを閉めて急速前進を行う。
その状態に困惑しているのはクズ神だけではない。
『これは一体どういうことでしょうか……そちらの船の制御はすべてワタクチが奪っていたはずなのですが、全く制御できません』
「理解できない? アナタがおかしくなっていることにはすぐに気が付いたわ。だからみんなにコードFを伝えた」
『ワタクチが知っているコードFとは……必要物資の積み込み、及び周辺惑星の状況を収集するため3日間の滞在を意味するものでしたが』
「それは表向きよ。こんなこともあろうかと想定した私たちは、裏のコードを準備した。そして私が出した裏のFコードは『必要物資を積み込み後、直ちに出向。その後、この本拠地を爆発させる』という最悪のコードよ」
『そうでしたか。その船諸共アナタたちをここへ閉じ込めて一網打尽にする計画でしたが……まぁいでしょう。結果的にアナタたちは私というスーパーコンピューターを失い、武力の塊だったこの本拠地を失う形になりましたので』
「いささか私とマギの関係性をなめすぎね。あなたはもうジエンドよ」
『これは?! 参りました。まさか自らの自爆装置を発動させた上に、私をここに閉じ込めるためのプロテクターがかけられているとは……これはマギの仕業でしょうか』
「この私とマギに喧嘩を打ったことを後悔しながら消滅しなさい」
お母さんがそういった瞬間に、船の背後で大きな爆発と衝撃が襲う。
その勢いで船が大きく揺れた。
「くっ?! 左後方部破損! 尚も後方部へものすごい勢いで引っ張られています!」
「艦長、舵が効かないわ! 気を抜いたら持っていかれそう」
後ろのモニターの画面にはクズ神が巨大な触手でこの船の後方部の羽根を巻き付けて抑えているのが見えた。
尚もクズ神は大量の黒い人型の化け物を生み出してこちらに向かわせてきた。
「ハルカさん、そのままなんとか持ちこたえてください! ロリっ子、もう出し惜しみはなしでいいわよね?」
「いいよん! やっちゃいな!」
「アンタら、訓練の成果を見せる時よ!」
こちらに向けて指を差し、そう発言する妹っ子。
「ツキミ隊は、この船を捕まえているイカれた化け物をなんとか船から引き剝がしなさい!」
「ま、まだ私が一番隊隊長なんて認めてないんだよ?!」
「ヤマト隊は、あの大量に迫りくる黒くて気味が悪い物体を全部撃ち落としなさい!」
「あれを全部?! いくらなんでもお姉ちゃんには厳しいと思うよ?!」
「つべこべ言うな! ブアイソ、アンタと白虎はサクラ隊よ! 両方の隊をあんたら二人でサポートしなさい!」
ツキミ隊とヤマト隊に、サクラ隊?!
いつのまにそんな編成が組まれていたのだろうか……まぁ私が家出している間だよね。
乙羽とアズサとハズキがツキミ隊で、マイカとミサキとホノカがヤマト隊か……確かに近接戦に特化したツキミ隊と長距離から援護射撃できるヤマト隊という編成はバランスがいい。
ツキミ隊もヤマト隊もそれぞれに隊長とは眷属同士の間柄だしね。
私はサクラ隊か……二人だけど。
『なにか不満そうね』
突然私の影から背中合わせに現れたネコがそう口にする。
びっくりして口から心臓が出るかと思ったよ?!
いつからそこにいたわけ?!
『アンタが気まぐれにあちこち行くから探すのが面倒なのよ。だからもうアンタ本体の影に入っておくことにしたのよ。ただ、無駄に高性能な分身体のおかげでなんど地面に顔をぶつけたかわからないわ。この恨み、絶対に忘れないから』
いやそれは逆恨みというやつでは……。
みんなには聞こえないところでそんな会話をしている間にもみんなは船の外に出て行く。
一応みんなにはお母さんが改造した転身機を渡しているみたいだから、空気がない場所でも呼吸ができるようだ。
眷属になっても体は人間のままだから、空気は必要みたいなんだよね。
それは私たちも変わらないけどね。
私らもみんながいる船体上部に行き、その少し後ろで様子を見る。
「ほな、いくで! 転身!」
「おう! 転身!」
アズサとハズキが同時に素っ裸になる。
そして、その体に次々と武装が施されていく。
二人は、アクシスの異空間世界で装備していたギアメタル装備を彷彿とさせる見た目になった。
アズサは水を連想させるような青の装飾で腰に長い水色の刀を装備している。
ハズキは炎を連想させるような赤の装飾で、両腕の装備がメラメラと輝いている。
「派手にいくでぇ! 隊長、前方はまかせや!」
「ばかやろう、クールにいくんだよ。アタシは横を殺る。隊長は後ろから着いてこいよ」
「あ、二人とも待ってよぉ! 私が隊長は嫌だからね?! もう、置いてかないでよぉ!」
乙羽もいつもの戦闘装備になると、翼を広げて先に突っ走っていった二人の後を追う。
「自分たちも早く行こう、隊長! 転身!」
「ホノカちゃん、本当にお願いだから隊長はやめて!」
「マイちん! これ見て! 転身!」
「ちょっとミサキちゃん?! 自分の体にその落書きはどうかと思うよ?!
ミサキが素っ裸になると私までその豪快な落書きを拝まされた。
どうしたら自分の体にあんな落書きをしようと思えるのだろうか……やっぱりあの子の考えはよくわからない。
ホノカとミサキは、前の二人とは違って以前の衣装とは少し違うようだ。
ホノカは、黒と紫の装飾に何かよくわからないメカメカしい機械がついている。
ミサキは、緑と白のフリフリな装飾でなぜか頭の上にハトを載せている。
「具現せよ、ガルガドス!」
「こい! ガルガドスマークⅡ!」
「ハトさん! お願いします!」
マイカもいつもの戦闘装備になると、白いロボットを具現化させた。
さらにそのロボットと全く同じ形の黒いロボットが船の中から飛んできたかと思ったら、その中にホノカが乗り込んだ。
あれは確か、クズ神が操っていた黒いロボットだ。
そしてミサキの頭の上に乗っていたハトが突然巨大化したかと思ったら、ミサキはその背中の上に乗り込んだ。
「この船はアタシが守るよ! 二人はツキミ隊の援護をお願い!」
「任されたぁ! いくゾ、ガルガ!」
「ハトさん! レッツゴー!」
ホノカとミサキはそれぞれの乗り物で前の二人を追っていった。