140 いまがだいじ
私の一言で沈黙が走る二人。
いやさぁ……重いわ!
さっきも言ったけど、私は昔のことなんてそんなに気にしていないわけよ。
前世のことも異世界のことも思い返せばいろいろ大変なことがあったけどさ、それは絶対に無駄じゃなかったような気がするんだよ。
私には乙羽とマイカがいて、あの四人がいて、そして今ではそのみんなと同じように大切だと想えるこの妹っ子がいる。
過去にどんなことがあろうと、今の私たちは友達でしょ?
だって一緒に戦ってきた大事な仲間じゃん。
こうやってちゃんと泣きながら謝ってんじゃん。
ならもうこれ以上は別に言うことないわけよ。
「……ないわぁ」
「い、いや……二回言われても……」
「……プッ……アハハハハ。桜夜、さすがに言葉足らずだから! それじゃ伝わらないよ」
「え?! ど、どういうことなの?! ワタシにはなにがなんだか……」
「桜夜はね、もう気にするなって言いたいみたいだよ」
「ど、どうして?! 私は許されるべき人間じゃない!」
「そこまではさすがの私でもわかんないよ。でもね、桜夜はアナタを許すつもりみたいだよ。桜夜がその気なら、私はなにも言う必要がないよ」
「そ、そんな! ダメよ! ワタシは、ここで殺されたっ……て」
妹っ子の話が長いので、私は思いっきり妹っ子に抱き着いた。
ギュッとそのまま背中をさすると、声を必死に押し殺しながら再び泣き出した妹っ子。
こんなに震えて、余程の決心をしていたんだろうね。
でも残念ながら思惑通りにしてやんないよ。
これが私なりの仕返し……かな。
『少し大人になったわね……桜姫』
なんとなく、スマコからそう言われたような気がした。
――しばらくして妹っ子が落ち着きを取り戻したので、三人で艦長室へ戻る。
「お、戻って来たな」
「遅いわお前ら! 暇すぎてミサキがどっか行ってもうたがな!」
「ミサキはまた倉庫のお菓子をあさりに行ったとチクるヤツがここに約一名」
「なんでもいいわ。それにしてもこのジュース美味しいわね」
「そのミサキの特性ミックスジュースを美味しいと言えるお前が怖いわ」
「自分……それを見たらまた吐き気が……うぷっ」
三人で艦長室へ帰ると、なんともだらしない格好でみんなが寛いでいた。
仮にも見た目だけは美少女なんだから、横になってせんべい片手にお尻をかいている状態はどうかと思うよ?
マイカも必死に真似しようとしないでいいからね?
というかやめてほしい、マジで。
「あれ? まださっきの茶番を続けているかと思っていたのに」
「茶番?」
茶番?
乙羽が言う茶番というワードで、頭にハテナが浮かぶ私と妹っ子。
「アホらしくてやってられるかいな」
「でもさっきのアズサの演技、結構本気で怒ってたよな」
「同感であると同調するヤツがここに約一名」
「だってこのクソロリがマジでむかつくこと言いやがるからよ!」
「演技をリアルに見せた方がいいでしょ? 一人勘が鋭い子がいるんだから」
私を指さしてジト目を向けながらそう言うアクシス。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! さっきからなにを話しているの?!」
そう、私も妹っ子と同じで状況がいまいち理解できないのだけれど……。
「メイナ、いくら隠していても意外と周りは気付いているものだよ。ここ最近のアナタがサクにどうしても何かを伝えたいと思っていたこと」
「え?」
「モヤモヤしてるもんがあんなら、今のうちにぶつけた方がいい」
「無理やりにでも状況を作らんと、頑固な艦長先生はなかなか言い出さへんからなぁ」
「浣腸先生ってなんだよ! それはヤバいだろ!」
「なんでやねん! 艦長や! イントネーション気を付けてもろて!」
なるほど……だからマイカの様子がおかしかったのか。
普段なら私と乙羽が離れるのを気にしないわけがないと思ったのに、チラリともこちらを見なかったし、オロオロしていたのは演技が本気になっていたからなんだね。
「アンタたち……」
「それに、なんか良いことあったみたいやな! 顔が真っ赤やで! 乙羽教えてくれや」
「ウフフフ。私はいいもの見ちゃったよ」
「なっ?! ダ、ダメよ!」
「あぁ、艦長のそんな顔は初めてみたかもしれねぇわ。意外と乙女なとこあんだな」
「良かったね、メイナ!」
「くっ……アンタら、覚えてなさいよ!」
まぁ、これでもう殺人鬼に怯えなくて済むってもんよ。
「それもこれも全部……アンタのせいだからね! 許さないんだから!」
と思ったけど、どうやら違ったみたいだ。
私と妹っ子の関係はこれからも変わらないらしい。
まぁ、その方が私も安心するよ。
私も含めて、ここにはアナタのことが大好きな仲間がこんなにもいる。
だからもう過去を振り返らないでほしい。
自分を責め続けないでほしい。
この子らと一緒に前を向いて歩いてほしい。
そして、これからもずっとみんなで一緒に生きていこうよ。
それが私たちの生きる『友情の彼方』なのだから。
――ほどなくして月面に近づいた。
今この巨大戦艦は、地球から見たら月の反対側にいる。
月の近くにも人工衛星による地球の観測レーダーがあるため、それに引っかからないように高度と速度を調整しながら飛行していたようだ。
それをハンドル一本で巧みに操縦している乙羽のお母さんは本当にすごいと思う。
「総員、着陸態勢! 高度を下げながら25度で旋回!」
「了解!」
「マギ、月面本拠地への内部通路を開いて頂戴」
「ホンキョチカラノシンゴウヲキャッチ。ゲツメンゲート、カイホウシマス」
マギの声で無数に存在しているクレーターの一カ所だけ、その内部の開口部が開いていく。
その開口部とギリギリのサイズだったこの巨大戦艦を妹っ子や母親たちは見事な連携で着陸させた。
無事に着陸したこの戦艦は、床が自動で動いて通路を移動し、そのまま本拠地の内部へと到着したのだった。