138 うちゅうせんかん
なんか作品のテイストが変わってきたのは……私の気のせい。
私たちはこの施設のメインコントロールルームだった場所(今では艦長室というらしい)までやって来た。
ここまでの道のりで、今後のことを聞いた。
どうやら私たちは今から宇宙へと飛ぶらしい。
迫りくる巨大物体の消滅は困難を極めるということで、その地球までの軌道を変える作戦に切り替えたそうだ。
そしてそれは、地球への影響を考慮して遠く離れた場所で実行する必要があると判断したそうだ。
こちらから巨大物体を迎え撃つような形だね。
その途中で一旦月を経由して必要な物資を回収する。
もともとお母さんたちの本拠地が月にあって、そこにはこの作戦で必要なものがあるらしい。
ここまで話しを聞いたところで、艦長室に到着した。
ここは以前と少し変わった配置になっていた。
大量にあった画面や操作席が全て同じ方向を向き、一番高い席から全貌が見えるようになっている。
これじゃ、まるで……。
「なんやこれ……ここは宇宙戦艦の内部にでもなったんか?」
私が言いたかったことをハズキが言ってくれた。
「まさにそれよ。この施設はもともと移動要塞なの。あなたたちが地下施設だと思っていたこの場所は、実は宇宙船の中だったのよ。この見た目は完全なハルカの好みよ」
「よ、余計なことを言わないの!」
一番先頭の席で、飛行機のハンドルのようなものを持って座っている乙羽のお母さんが声を上げた。
「シズク様、こちらのレーダーは問題なく修復されているようです」
「良かったわ。ウチのサクちゃんがヤンチャしちゃって壊しちゃったからね」
うぐ……こうみんなの前で子ども扱いされるとなんか嫌だな。
みんながニヤニヤ見てくるのがムカつくわ……特にアクシスの顔が。
それよりもここには四神獣のみんなと、この四人のお母さんも捜査員として乗り込んでいるようだ。
「アナタたちの席はここよ。座ってベルトを締めて待っていなさい。もうじき出発するから」
お母さんに言われるまま、空いている席へと座りベルトを締めた。
「オカンたちの目つきがいつもとちゃうぞ。ウチら以外みんな忙しそうやな」
「もうなにがなんだか……アタシにはわからん」
「なんかジェットコースターみた~い!」
「ノンキな奴がここに約一名」
それにしても、どうせ艦長はアクシスがやりたがるんだろうと思っていたけどまさかアンタだったとは……ね。
「なによ、その目は。いっとくけど、この帽子はワタシの趣味じゃないわよ!」
「とても似合っているよ、メイナ!」
「うん! とてもカッコいいと思うんだよ!」
「う、うるさいわよ!」
大好きなお姉ちゃんにも褒められ、顔を真っ赤にしながら艦長席で腕を組むのはキャプテン帽子を被った妹っ子。
その横にはいつも通り執事の格好をした魔王が立っている。
「さて、準備が整ったところで行きましょうか! 宇宙へ! 後は任せたよ、艦長!」
艦長席の更に一番奥にあるフカフカのソファにピョンと腰かけたアクシスの声で、全員に緊張が走る。
「ふぅ……総員、発進準備!」
スピーカーから妹っ子の声が響き渡る。
それに順応するように慌ただしく各自が操作盤を操作していくと、次々にモニターが明かりを灯していく。
そして360度に設置された巨大なモニターから外の映像と思われるものが映し出される。
「発進経路の1番から11番をオープン!」
「了解! 隔壁の1番から11番、開きます!」
「サテライトエンジン始動! 180度旋回!」
「了解! エンジン始動、20%! 180度旋回します!」
妹っ子からどんどん指示が飛び、各自がそれに応えていく。
私がネコと死闘を繰り広げている間、アクシスの提案で妹っ子はこの宇宙船のことを全て頭に叩き込んでいたそうだ。
誰もが不可能だと思っていたことを見事に成し遂げ、今ではこの船のこと全てを任せられるまでになっている。
やっぱりあの子はすごい。
それを一番喜んでいるのは魔王みたいだね。
いくら嬉しいからってアンタがニヤケていたらちょっとキモイから気をつけな?
「反重力システム起動! サテライトエンジン、30パーセントを維持!」
「サテライトエンジン、30パーセントを維持! いつでもいけます!」
「よし……発射場所まで、行くわよ。発進!」
そしてついに前進を始めた。
暗いトンネルのような場所をひたすらに進んでいる。
「これ……何キロ出てるん?」
「あそこのモニターに時速9000kmって見えっけどよ……まさかな」
「アホか、それじゃほぼ戦闘機と一緒やないか!」
「事実よ」
「マジで?!」
「ワタシでもこの船の本当の実力は計り知れないわ。そろそろ発射場所よ」
妹っ子のいう通り、少し傾斜が付き始めたかと思ったらそのまま75度ほどに傾いて船は止まる。
「サテライトエンジン、セカンドスロットル!」
「サテライトエンジンギア、セカンド! アクセル上昇! 50、60、70、80、90、100……120%!」
「最終隔壁をオープンと同時に主砲用意!」
「最終隔壁、オープンします! カウント、3,2,1」
「主砲、てぃ!」
妹っ子の合図で前方のモニターが眩く光る。
その一直線上に青い空が見えた。
「全速前進! フルスロットル!」
その青い空に向かってこの船は飛び出した。
暗い場所から明るい場所に出たことで、やっとこの船の全貌を確認できた。
私が確認できる範囲で、全長約500m……あの施設がまるまる動いているようなもんだね。
豪華客船もビックリなサイズのこの巨大戦艦は、海から飛び出したその瞬間に両サイド羽根を広げてそのまま高速で上昇していく。
「モニターに確認できる飛行物体なし!」
「世界防衛監視レーダー、クリア!」
「エネルギー制御装置、オールグリーン!」
「艦体状態全て問題なしです、艦長」
「了解。各自厳戒態勢を崩さずにそのまま監視してください」
周りのモニターに映る景色が著しく変わっていく。
とんでもないスピードで進んでいるのはなんとなくわかる。
さすがの私たちでもこれには圧巻だった。