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137 さんじかんのきゅうじつ

――町外れの山の中でひっそりとたたずむ、隠れカフェでの出来事。


「そういやマイカもだいぶこっちの生活には慣れたみたいやな。何回ナンパされた男に付いて行ったかもう覚えてないで……」

「まぁその度にオトハがそいつらに地獄を見せてたからな」

「当の本人はいつもキョトンとしとるし……」

「こっちと向こうの世界とじゃあ、女に対する意識が全く違うんだ。無理もねぇよ」

「それにしても危機感が無さ過ぎやと思うで?」

「ところで……サクヤはいつまでメニュー表眺めてんだ?」

「どうせまたバク食いする気なんやろ。一体あの体のどこに入ってんねん。マジで不思議やわ」

「入ったらすぐに出してんだろ? 押し出し方式ってやつだよ。じゃねぇと説明がつかねぇ」

「オイ、言い方! 仮にも乙女が夢を壊すようなことを言うなや!」

「いいだろ別に。こいつらはその辺の売れないアイドルとは違うんだ」

「いやまぁ……そうやけど」

「まぁ聞けよ。サクヤがトイレでなにしようが、オトハがさっきからサクヤの髪の匂いをヤバい顔で嗅いでいようが、マイカがさっき飲んだ飲み物のホイップクリームを豪快に鼻先に付けたままでもよ、それを微笑ましく思わせる時点でそれが正義なんだよ」

「なんやねんそれ」


 さて、さっきからこの二人の止まらないマシンガントークでなにやらいろいろと言われているような気がしているけれど、私は今それどころではない。


 この「デラックススペシャルコンボ」と「地獄のスラング盛り」、どちらを注文しようかと究極の選択を迫られているところなのだ。


「前にも同じこと言うたけど、サクヤそれメニュー見えとんのか?」

「一人だけ見てるメニューがおかしいんだよな。ここカフェだぞ? なんで大盛メニュー見てんだ?」


「フフフ、喜んでいる桜夜は可愛いなぁ」

「サクはそんなに楽しみなの? アタシの「わっふるすぺしゃる?」も分けてあげるね」


「まるで乙羽が二人おるみたいやわ。美少女に挟まれた無表情の美少女……こいつらの中身を知らん奴らからしたら、この三美女を拝めるだけでも家宝もんやろな」

「すでにこいつらの中でアタシらの存在無くなってんな」

「こっちはこっちで……いつも通りやし」

「あぁ……」


「たったら~! 次はこれとこれをこうして……」

「ミサキ! これ以上変な物を混ぜるな! なにを混ぜたらそんな色になるのだ! せめて飲めるものにしてほしいと祈願するヤツがここに約一名!」

「フフン! ワタシがじゃんけんに勝ったもん! 好きな物入れるんだもんね! これとこれとこれとこれとこれとこれと……」

「ひぃいいい?!」


「はぁ……ここの席だけ異様だな」

「この中じゃ、ウチらがマトモ担当やからな。しっかりマトモにしてへんとな」

「だな。でもよ、これもうすでにやばくねぇか?」

「ん? あぁ、完全にみんなこっちに注目してんな」

「向こうの世界で過ごしていた時には全く意識してなかったけどよ……」

「こっちの世界じゃ、ウチら全員美少女過ぎて注目の的やねんな」

「もちろん悪い気はしねぇけどさ、いざこの立場になると鬱陶しいもんだな」

「いえるわ。女って生き物は勝手なもんやで」

「うわ……今の発言オバサンくせぇ」

「うるさいわアホ。前世から加算したらウチらもうだいぶオバサンや」

「おま、それを言っちゃお終いだろうがよ。女は結局見た目だけ良けりゃ、チヤホラされんだよ」

「チヤホ()な。前からチヤホヤのこと、チラホ()言うの変わってないよな」

「別に通じればいいだろ? こまけぇこと言うなよ」



 この二人も話に夢中で気が付いてないんだろうね。

 さっきから私らが二人に注目していること。

 乙羽とマイカがとても微笑ましく見ていること。

 全然気がついていないようだね。


 さて、いまだにドリンクバーだけで何時間居座っているのだろうか。

 それにしてもこの店、やけに人多くない?

 どうして周りの人たちみんなチラチラとこっち見てんの?


 こっそりこのカフェの風景を撮るフリしてこっちのメンバーを映すのはやめようね?

 狙われていると勘違いしてマイカが拳銃向けるからね?

 乙羽は私じゃなくて風景を撮ろうね?


 さて……これだけツッコミどころが多いと糖分がほしくなるね。


「ということで……これ」

「なにが『ということで』なのかはわからないけど、これをちゅうもん? するみたいだよ、乙羽!」

「すいません、注文いいですか? この『地獄のスラング盛り』を一つと『ワッフルスペシャル』を一つ、それと……」



 この時に隠し撮りをされていた画像がすぐにSNS上で拡散し、このカフェはなぜか有名店として大繁盛を遂げることになる。


 店にあるものだけで不可解な飲み物を作り出した天才少女や、それを飲んで白目を向いていたボーイッシュな少女、それに付け入るスキを与えないマシンガントークを繰り広げるオラオラ系少女と癖の強い関西弁少女。


 そして三人だけの世界観に入り込んで一向に返ってくる気配のない三人の少女。


 それら個性あふれる美少女たちには、それぞれにファンクラブが出来上がり、表には存在しないアイドルグループが爆誕していたのだという。


 のちに、この話題性は広がり『この謎の美少女たちは何者だ?!』という特集まで組まれることになった。


 誰もその正体を全くつかめないことから、ネット上では合成画像だと大いに盛り上がりをみせたという。



「アンタら……どうやったらたった三時間ちょっとでここまで目立てんの? それよりお土産は?」

「ほい、ミサキの特性ジュース」

「サンキュー、なにこの色。まぁいいわ、それよりも早く出発しましょうか、シズク」

「はい、それでは全員で艦長室へ」


 お母さんの後を追うように、私たちは全員移動を開始した。

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