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136 おもいをこえたさきに

 私たちは戦い続けた。


 どれくらいの時間を戦い続けていたのか覚えていない。


 何時間? 何日? 何ヶ月?


 ただただ、ひたすらに殺意を込めた攻撃が衝突しているだけの時間。


 家の訓練場で一度全力を出していたこともあり、ほとんど神成の力を使えなかったとはいえ、始めは圧倒的な力の差があった。


 そのはずなのに、次第にネコは順応していく。


 何度地面や壁に打ち付けようが、その度に立ち上がっては全力で牙を向けてくる。


 その姿に最後は私もほぼ全力だった。



「いつっ……このバカ力め」

「……この……体力……バカ」


 緑豊かな森林地帯に覆われていた無人島をほぼ焼け野原にした私たちは、海岸の砂浜に横たわっている。


「はぁ、疲れた……ねぇ、一言いい?」

「いや」

「即答?! まだなんも言っていないけど?!」

「……聞きたく……ない」


 なにを言われるのか怖かった。


 この子はスマコとの繋がりが深すぎる……だから以前のスマコと私を重ねて見ている。


 それがなにより私には辛い。


「いいよ、勝手に言うからさ」

「……」


 ネコはそういうとおもむろに立ち上がって片膝を地面に付け、頭を下げながら私の右腕を両手で丁寧に持つ。


「ワレ、神成ウラシスの元眷属にして一度は一生の忠誠を誓ったもの。例え、我主がワレの前より姿を消そうとも主以外を主と認めることはない」


 そう、この子はずっとそれを守って来た。


 スマコがいなくなった後、アクシスの配下に入ろうとも眷属にはなっていなかったのだ。


「そんな時、アナタがワタシの前に現れました。親愛なる神成の力を受け継ぎ、ウラシス様の面影を持ったアナタが……今一度、ワタシをあなたの眷属に」

「いや」


 この子が見ているのは私の中のスマコという存在。

 私はスマコみたいにはなれない。

 だからこの子の期待には応えることができない。


「……アハハ、やっぱりダメか……結構頑張って伝えたのにな」

「私は……スマコじゃ……ない」

「知ってるわよそんなこと。アンタがいくらウラシス様の後継者でも、いくらウラシス様と唯一無二の力を持っていようとも、そんなことでこのワタシがこんなことを言い出すはずないでしょ! 見損なうんじゃないわよ!」

「……え?」

「最初はワタシも自分の主を守れず、のうのうと生きている自分自身が許せなかった。アンタを守ることでそれを紛らわしていたのは事実よ。でもね、アンタを見ていると次第に気が付いたんだ。ワタシは、アンタ自身のそばにいたいと本気で思ってるんだなぁってさ」

「……」

「なにより、それに気が付かせてくれたのは他でもないウラシス様だしね」

「……スマコが?」

「はぁ、ワタシがこんな素直に気持ちを伝えるなんてね……もう最後にする、アンタの眷属にして」


「……いや」


「やっぱダメか。まぁ半分諦めてたけど」

「眷属は……いや……ネコは……大切な……友達」

「……え?」


 ネコも本気で気持ちを伝えてくれたのがわかったから、私も本気で思っていることを伝えたつもりだ。


 ずっと陰ながら私を守ってくれていたスマコみたいなやさしい子。


 そんな子と眷属なんていう関係性はどうしても嫌だ。


 私の勝手な言い分でネコの想いを断ってしまったのは申し訳ない。


 恐る恐るネコの顔を覗き込むと、ポタポタと砂場に滴り落ちる程ネコは涙を流していた。



*****


「次のニュースです。先日、あの悲惨な事故から奇跡の生還をされた方とお電話がつながっておりますので、当時のお話を聞いていきましょう。」

「あれはかなり悲惨な事故でしたが、当時のことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「はい。私はあの日、友人と買い物をしていたのですが、突然爆発音が聞こえたかと思ったら天井が崩れてきました。そこまでが当日の記憶です。気が付いたら病院のベッドの上でした。それ以外はまったく覚えていないんです」

「非常に恐ろしい体験をされたようですね。とにかくご無事でよかったです」

「ありがとうございます。でも、たくさんの方が犠牲になったようなのでとても悲しいです。犠牲になった方には高校生の方もおられたとか……未来あるお若い方々の犠牲はなんとも言えない気持ちに……」



「……あれって、ウチらのことやんな。あれから一カ月も経ってんのにまだこのニュースやってるんかぁ」

「まぁ確かに死んだも当然か、姿形変わってるしよ」

「今では人間すらやめてもうたけどな」

「自分はもうこっちの方が気に入っていると思っているヤツがここに約一名」

「確かにな。ところで……アイツはなにしてんねん」

「さっきホノカと勝負して勝ったからドリンクバーで飲み物作ってくるとか言ってたぜ?」

「また奇妙な物を飲まされると確定しているヤツがここに一名」

「みんなが平常運転で安心するわ」


「この目の前の三人も……相変わらずだな」

「あぁ、サクヤが家出から戻ってからますますひどくなったよな」

「聞いたか? フラッと日本の最南端の無人島まで家出してたらしいぞ」

「フラッといける距離とちゃうわ! そんなところまでフラッと行くなや! だから白虎ハンがあんなに疲れて戻ってきたんか」

「当の本人は気持ちよさそうに寝てんだもんな」

「それな。こっちは心配してたのにノンキなもんやで。まぁ二人とも無事でよかったけどな」

「あぁ、無事などころか……度肝抜かれたけどな」

「同感や。ウチらも眷属の力を手に入れたからわかったけど……あの、白虎ハンの力の上がりようはヤバい」

「なんだよ眷属を越えた天上眷属(てんじょうけんぞく)って。反則だろマジで」

「まぁ、これでやっと作戦に向けて準備を進められるんやな」

「出発は?」

「あと、3時間後や」

「あと三時間でこの地球ともお別れか」

「ハハハ……せいぜい楽しもうやないか。最後のカフェタイムをな」

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