135 けんぞくのつながり
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乙羽視点(続き)です。
「話はわかったけど、サクヤだけにそんな重大な役割を押し付けるんは嫌や。ウチらもなんか力になれへんのか?」
「もちろんそのつもりだよ。だからこそ、ここに呼んだわけだしね」
「アタシらもサクヤの力になりたい! なんでもやるぞ!」
「その言葉、信じるわよ?」
この四人は地球に戻ったことで魔動力を失っており、一般人よりも身体能力が高いくらいの人間となっていた。
そんな四人にアクシスはある提案を持ちかける。
「アンタら、人間をやめる覚悟はある?」
「それはどういうことだと疑問を抱く奴がここに約一名」
「もう自分たちの正体のことはそれぞれの親から聞いたでしょ?」
「あぁ、聞いたぞ。アタシら四人は準眷属ってやつなんだろ?」
そもそも眷属というものが私もいまいちピンときていなかった。
お母さんやシズちゃんの話によると、この世の創造主であったかつての四神にそれぞれが一生の忠誠とその命を授けることで、膨大な力を手にしたという。
お母さんとシズちゃんもツキシスの眷属であり、白虎ちゃんを除いた四神獣の三人とオスさんはアクシスの眷属、白虎ちゃんはウラシスの眷属だった。
そして、さらにそれら眷属たちの下には準眷属という者たちが存在していた。
それがこの四人のお母さんたちだったという。
準眷属は眷属たちほどの力を持たないけれど、その管理する惑星において上位の力を持ち眷属たちの手助けをしていた存在だという。
「準眷属であるアナタたちに、もともとそこまでの力なんてものはない。だけど、アナタたちはアタシの異空間の中で自らの力を高めるために生きてきた」
「あぁ……それが今となっちゃ無駄だったけどな」
「正直なところ……やっぱ悔しいよな」
そう、この子らはずっと頑張ってきた。
お互いの大切なもののためだけに必死に戦ってきたことを私は知っている。
この子たちはただ私のせいで巻き込まれただけなのに。
「でもね、たったひとつだけ力を取り戻す方法があるんだよ」
「力が戻るんか?! どうしたらええんや?!」
「それは、直接神の眷属になることだよ」
なんとなく話の流れからそんな気はしていたけれど、それは可能なのだろうか。
だってかつての四神であるアクシスはもう神の力を失っているのに。
「そんな簡単に眷属ってなれるものなのか? おまえの眷属になるってことだろ?」
「さっきも言ったけど、アタシはもう神の力を失っているから無理だよ。仮に力を失っていなかったとしても無理だったけどね」
「じゃあどうすんねん!」
「神ならここにいるじゃん、まだ神になりきれていない見習いヒヨッコがここに二人さ」
私とマイカを指さしながらにこやかにそう言い出すアクシス。
「まさかそうくるとは思わなかったよ」
「えっ?! えええ?!」
さすがに私たちを神と呼ぶには程遠い存在だ。
そんな力も無ければ、なる気もない。
私はただ桜夜やマイカ、それにみんなのことを守れるのならそれでいい。
「それならなにも不満あらへんわ! 喜んで人間やめたるわ」
「うぇ?! ちょっと待ってよハズキ! 私にそんな資格はない!」
「あぁ、アタシもこの二人になら命預けられるぞ」
「アズサちゃん! もう少しちゃんと考えて……」
「異論な~し!」
「右に同じだと胸を張る奴がここに約一名」
「フフフ、決まりね。あ、言い忘れていたけど……ほんのチョ~~ッピリ痛いけど我慢してね?」
「あぁ? なんやて? 最後の方が聞き取れへんやったぞ」
その後、四人はこの世のものとは思えないほどの悲痛な叫びを上げ続けることになったのだった。
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桜夜視点です。
やばい……私は一体どうしてしまったのだろうか。
どうしてあんな行動を起こしてしまったのか、自分でも理解ができない。
あの時の私を見るみんなの目が怖くて、思わず逃げ出してしまった。
行くあてもなく、人目に付かないように屋根から屋根をピョンピョンと飛び回り続けながら途方に暮れた。
やがて海を越え、ポツンと一つだけあったどこかの無人島へと降り立ち、その山奥にある風力発電用の風車の上に足を投げ出して座る。
しばらくそのまま夕日を眺めていると、不意に一つの気配が背後に現れる。
「ったく……アンタ移動するのが速すぎなのよ! 気まぐれに移動するから先読みもできやしない」
忽然と私の背後で背中合わせに座ったネコ。
「……ネコ」
「誰がネコだ」
いつものやり取りをした後は一切なにも言葉を発しないネコ。
「…………なに」
「別に。ただアンタが離れて行ったから追って来ただけよ」
正直今は一人になりたい。
誰かといるとこの胸の奥がザワザワする。
「アンタはワタシの憧れたウラシス様には程遠いわね」
「……」
「あの方は凄かったよ。あの四神の中でも最弱だなんて言われていたけれど、そのみんなを陰ながら守っていたのは全部あの方だった」
「……」
私はこれ以上ネコの話を聞きたくなかったので、再びその場を離れた。
すると、背後に迫りくる雷撃の気配。
咄嗟に避けると、真横をそれが通り抜けた。
威嚇でもなんでもない、全力で私を狙ったネコの攻撃。
「……なんの……つもり?」
思わずそう問いかける。
「ワタシの憧れた神成の後継者がそんなレベルなら、もういらない」
重く圧し掛かってくるネコの威圧。
ネコの気持ちもなんとなくわかる。
だってこの子が憧れて従っていたのはスマコだ。
そのスマコとは程遠い存在である私に我慢ならないのだろう。
だけど、いくら使いこなせていなくても今の私にネコが勝つことは不可能だ。
「……やめて」
「嫌よ」
間髪入れずに、雷撃の砲弾を放ってくる。
この場所が無人島であることは幸いなのか不幸なのか……おかげでネコは本気でやる気満々だ。
「……本気……なの?」
「これが冗談にみえる?」
そっちがその気なら仕方がない……なんだか私も少し暴れたいところだったから、ネコには悪いけど半分死んでもらおうか。