133 むりょくなじぶん
「アチャ~、だいぶ壊れちゃったわね」
「アチャ~じゃないですよ、アクシス様~! どうしてくれるんですか!」
「アタタ、頬を引っ張らないでよ! もっと頑丈に作らないからでしょ!」
「ここは核兵器が爆発しようがビクともしないくらいに頑丈なんです! あなたたちの価値観でものを言わないでください!」
「い、痛い! 本当に痛いから! ど、どうせすぐに移動するからいいでしょう?」
「このまま移動するんですよ! 飛行中になにかあったらどうするんですか!」
「ご、ごめんってば! そんなに怒らないでよ~」
お母さんたちがなにを話しているのかよくわからないけれど、今私は破壊できなかった丸太に目が釘付けだ。
私の攻撃は完ぺきのはずだった。
超電磁砲よりも更に威力を上げた超電界時砲……スマコの一番得意とする技を私なりにアレンジした一番自信のある技であっただけに、ショックが大きい。
「アタタタ、すさまじい威力だったな。みんな大丈夫か?」
「この世の終わりかと思うたわ。核兵器よりもサクヤの攻撃の方が強力なんか……超危険人物やん。良い子は近づいたらアカン」
「でもあれを見ろ……あの丸太号には傷一つ付いていないぞ。と、尊敬の眼差しで丸太号を見つめるやつがここに約一名」
「丸太号ってなんやねん。でも確かにあれだけビクともしてへんな。丸太号一番強いんとちゃうか?」
「おい、そろそろミサキの上から退いてやれよ。泡吹いてんぞ?」
「それにしても、なんでこないなこと始めたんや? 敵でも迫ってるんかいな」
「そうだよ」
「ほ、本当なのか?! また戦いが始まるのか?!」
「シズク、説明して」
「はい」
そして、お母さんから現状の話を聞いた。
どうやら、この地球へ向けてこの地球の半分ほどある大きな物体が超高速で近づいて来ているらしい。
お母さんが作り出したスーパーコンピュータの『マギ』による計算では、そんなものがこの地球に衝突すれば、当然全ての生命体は消滅することになるのは確実。
しかもそれは約一カ月後のことだという。
当然、現代地球の技術力ではまだその物体を感知することは不可能だ。
せいぜい衝突まで三日後の時点でやっと気が付くレベルだという。
映画や漫画などでありそうな、『三日後に世界の破滅』という事実が実際に起ころうとしている。
「この地球を守るためには、その巨大物体を破壊するのが一番いい……」
「だけど、それは全盛期のアタシでも正直無理。神気解放状態で全力を出せたならあるいは可能かもしれないけれど、その前にこの地球がアタシの神気解放した闇の力に耐えられない」
「それでもロリっ子は片腕になっても神様やろ? それにオトハとマイカとサクヤがいればなんとかならんのか?」
「それが無理なんだよ。今のアタシは神の力を失っているからね」
「なんでや?!」
「もしかして、異空間の世界を消滅させたからですか?」
「そう、あれこそがアタシの最終奥義。永久的に全てのものを闇の中へと引きずり込み続けるという厄介もの。それをアタシ自身の体の中で発動したのよ」
「それって……大丈夫なんか?」
「大丈夫ではないわね。おかげさまでアタシは永久的に神の力が戻らないただの生命体の一つになったわけ。つまり、あなたたちよりもちょっぴり長生きしている美少女ってところかしらね」
「深刻な話なのに、いちいちイライラさせやがる」
そのことについては、なんとなく私にもわかっていた。
あれ以来アクシスから神の力が全く感じられなくなったことと、それが一生戻る気配もなければ衰弱していくような気配もなかったから。
「だからこれはアナタたちで乗り越えないといけないのよ。ただ……アタシは桜姫を過剰評価し過ぎていたわ」
「おい、そういう言い方はやめろよ。まだ力を呼び起こして間もないんだろ?」
「それで世界の破滅が待ってくれるならね」
「そ、それは……」
「とにかく桜姫の力不足は本当にガッカリだよ」
「おい、サクヤだけをせめんなや! なんとかみんなで力を合わせるとかさ」
「寝言は寝て言いなさいよ。この地球の破滅が本当にそこまで迫っているんだよ?」
アクシスのいうことは事実だ。
これでも私は神成の力を上手く使えている方だと過信していた。
でも実際はそのほとんどを扱えていなかった。
なによりスマコを知っているアクシスがいうのであれば、それを認めざるを得ない。
「乙姫」
「……光一閃」
乙羽が丸太へと光の剣を伸ばし、そのまま引き裂いた。
すると上半分と下半身が離れ離れになる丸太。
「機姫」
「……具現せよ、マグナレク」
忽然とマイカの両腕に現れた拳銃。
その引き金が引かれた瞬間、空中で上部と下部に分かれていた丸太が跡形もなく撃ち貫かれて消滅した。
「これが神の力の質の違いね。今の桜姫は……弱すぎる」
あっ……あれ?
なんで私……
気が付いたら私は、無意識に地面を殴り付けていた。
地面に小さなクレーターを作り、血だらけになった自分の震える右拳を黙って見つめる。
どういうわけか、無意識に体が動いた。
そしてなぜか、胸の奥がザワザワする。
ふと、周りに目をやるとみんなが怯えた目で私を見ている。
それを見た私はたまらず一人逃げ出した。