015 かみさまのおつげ
つ、疲れたぁ……。
はぁ~しんど。
マジしんど。
チャタテムシが死んだと同時に氷間が解けて、氷の部屋が無くなった。
私はいつの間にか消えて無くなっていた大量のチャタテムシの死骸を気にすることなく、とりあえず岩だらけの地面に寝転がった。
途端にもの凄い眠気がやってきて、ヤバいと思いながらもそのまま意識を失ってしまった。
「…………」
うん?
「…………」
は?
なんかうるさい。
こっちは眠くってしょうがないのよ。
「……そう言わずに聞いて下さいよぉ~」
え?
アンタ、誰?
「初めましてぇ~サクヤさん。ワタクシはこの世界の神ですぅ~」
ふぁあああ、ねむ。
さて、もう一眠りしようかな。
「まさかの無視ですかぁあ?! さすがにビックリですよぉ?! お願いですから話を聞いて下さいよぉ~。あまり時間がないのですぅ~。」
なによ、うるさいなぁ。
さっさと言って。
「ひどいですぅ~。まじめな話なんですから、ちゃんと聞いて下さいねぇ?」
はいはい。
「ワタクシは今、別の世界の邪神によって封印されているんですぅ~」
封印?
なんか悪いことでもしたの?
「違いますよぉ~! 今、この世界は乗っ取られてるのですぅ~。その邪神はこの世界を強制的に殺戮と破壊が渦巻くとんでもない世界に変えてしまったんですぅ~」
へぇ~。
それで?
「いや、それでって……。お願いですから私の封印を解いてほしいのですよぉ~」
なんで私がそんなことをする必要があるの?
「それは異世界人であるサクヤさん、あなたにしかできないことだからですよぉ~」
私を異世界人と知っているということは、あなたが私をこの世界に落としたの?
「それは違いますぅ! サクヤさんが死ぬことになったあの爆発事故は、その邪神が仕組んだことなのですよぉ!」
それは一体どういうことなの?
「簡単に言うとですねぇ? あの爆発事故は、ある一人の少女の命を奪うためだけに仕組まれたものだったのですぅ」
……それは誰なの?
「光月乙羽さん、あなたの親友ちゃんです」
な、なんですって?!
どうして乙羽を?!
なんのために?!
一体どうしてなの?!
「お、落ち着いて下さい、サクヤさん。オトハさんは特殊な力の持ち主なのですぅ。向こう側の邪神はその力を自分のものにしようと考えたのですぅ。それには命を奪う必要があるのですが、確実に命を奪える方法で、尚且つこちらの世界に人員を補充するためにあの爆発事故を起こしたのですぅ」
特殊な力ってなに?
こっちの世界に人員補充?
わからないことが多すぎる。
「しかし、結果的にあなたはオトハさんを命がけで守りました。これは、あの邪神にとって大きな誤算だったのですぅ。大量の死亡者の魂と一緒にあなたはこの世界にやって来たというわけですぅ」
ちょっと待って!
アンタの話が本当なら、また乙羽の命が狙われるということ?!
「その通りなのですぅ。でも、その邪神は相当の力を消耗しました。なので、十数年は手出しができないはずですぅ。でも力を取り戻したら間違いなくオトハさんは殺されてしまいますぅ」
それを防ぐために、私にアンタの封印を解けと?
アンタならその邪神に勝てるというの?
封印されているのに?
「ワタクシにも守りたいものがあるのですぅ。この世界はワタクシの世界ですぅ。もとは平和を愛する人たちが集うとても豊かな世界でした。その大切な人々を人質に取られてしまったら、いくらワタクシでも抗うことができなかったのですぅ。結果的にそれで封印されてしまったのですが、それでもこの世界を守るため、ワタクシはもう一度立ち上ってあの神を今度こそ倒す必要がございますぅ! それが結果的にオトハさんの命を救うことにもなりますぅ! お願いですサクヤさん。あなたのお力を貸してほしいのですぅ」
この世界がどうなろうと私の知ったことじゃないし、興味もない。
いきなり神とか封印とかそんな話を聞かされても正直迷惑。
でも……私のたった一人の大切な人に危機が迫っているかもしれない。
この世界にいる私にはどうしてもそれを確認することも、防ぐ手段もない。
でもこれだけはハッキリした。
乙羽に危険が迫っているかもしれないとわかっている以上、私はそれを全力で止めるために行動するだけだ。
たとえそれが神を相手にすることになろうとも。
私の心は決まった。
とりあえずアンタを信じてみるよ。
それ以外に方法はないようだしね。
「あ、ありがとうございますぅ! あなたはオトハさんのために、ワタクシはこの世界のために。目的は違えど、目指す道は同じですぅ!」
とりあえず、その封印を解くためにはどうしたらいいのよ?
私はどこに向かったらいいの?
「ザ、ザザ――……いけない! ザザッ……もう時間が……とりあ……に向かって……下さい! ザザ……場所をアイレン……ザザ……して……ので……ザ――……」
ちょっと!
よく聞こえないよ!
お――い?
もしも――し?
……うわっ?!
寝てたのか。
さっきのは夢?
……じゃなさそうだね。
アイレンズにどこかの場所を示す表示がきちんと映っている。
ここの場所に向かえってことなんだろうね。
それにしても神か。
そんなものが本当に存在しているとは夢にも思わなかったけど、そんなやつが欲する乙羽の特殊な力ってなに?
今までそんな力を感じたことはなかったけどな。
それにしても……また、生きる理由ができちゃったな。
乙羽、私は死んでもやっぱり乙羽を守りたいみたい。
もう私のことは忘れて普通に暮らしているかな?
幸せな生活を送ってくれていたら嬉しいな。
今一度、私はあなたのために陰ながら暗躍するとしよう。
それがこの世界で生きる私の唯一の理由になったのだから。
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