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131 おやこのさいかいぱーとつー

 おそらくアクシスのものであろう巨大なベッドで横に並んで寝ている私たち。

 そこにドカドカと近づいてくる恐ろしい殺人鬼の気配。

 それを自分のせいだとは全く気が付いていないキョトン顔のマイカ。

 久しぶりにこの顔を見ていると安心してしまうけれど、まずは殺人鬼をどうにかしなければならない。


 もはや今の満身創痍な私では成す術がないからね。


 私が渾身の降参ポーズで媚びを売ろうかと考えているところに、妹っ子をはね退ける形で騒がしい奴らがやって来た。


「おい、サクヤ! おまえの家どうなってんねん! ウチ、こんな秘密基地みたいな施設、SF映画の中でしか見たことないで?! ナンボなん?! この家ナンボなん?!」

「そうだよ! まさか地下にこんな隠し施設があるなんて誰もわからねぇって、マジで!」

「ロボはどこなのだサクヤ氏! こんなすごい秘密結社のアジトみたいな場所なら、どこかに合体ロボットが隠れているはずだと非情に興奮している奴がここに約一名!」

「み、みんな少し落ち着いて。ホノカも鼻息が荒いよ」

「アハハハ……相変わらずだね、みんなは」

「乙羽もマイカも無事でよかった! 会いたかったぞ、マイカ!」

「アズサちゃん……」

「ウチもやで! ホンマ、元気そうで安心したわ! かなり心配したんやで? ていうか、おまえらそろそろサクヤから離れたらどうや?」

「……もういいよ~もういいよ~」

「あ、そういえばアタシらかくれんぼしてなかったか? ミサキだけまだやってるぞ?」

「あぁ、忘れてたわ。おまえらの姿みたら思わず出てきてもうたがな」

「サクヤ氏、ロボは……」

「……もういいよ~」


 う、うるさい……いつまでしゃべり続ける気なんだこいつらは。

 さすがの殺人鬼もこいつらとは絡みたくないようで、諦めてまた椅子に座り直したからいいものの、疲れているところにこいつらの相手はキツイよ。


 両隣を見るとそう思っているのはどうやら私だけではないようだね。

 乙羽なんてもう寝ちゃっているし、マイカもヤバいくらいの半目。

 その顔は大丈夫かな?


 私は殺人鬼をどうにかしないと、目を覚ましたらどこかに宙吊りにされてそうだし、もしかしたら二度と目を覚ませないかもしれない危険があるから必死なのよ。


『アンタも寝なさいよ。見といてあげるから』


 私の頭の中にそうやって直接話しかけてきたその人は、白髪ショートカットでツリ目のお姉さんだった。


『アンタが見といてくれるなら安心かもね……ネコ』


 私がそう返事をしながら視線を合わせると、愛想のない返事だけが返ってくる。


 『ふん……ウラシス様みたいな言い方するなし』


 相変わらず愛想の無いネコだけど、内心喜んでいるのはもちろんわかっている。


 しかし、ネコが人間の姿に化けるとこうも美形になるのか。

 近寄りがたいオーラと相手を睨みつけるような鋭い眼光と眉間に寄ったシワ以外はモデルを思わせるような立ち振る舞いだ……ちょっとムカつく。


 朱雀は赤髪ロングの上品なお嬢様系。

 青龍は青髪短髪のメガネ男子。

 玄武は緑髪ウルフカットの筋肉ムキムキおじさん。


 まぁ特徴はかなりあって目立つけれど、誰も元が化け物だとは思わないだろうね。


「……ということで後はよろしく。さすがにもう限界……アタシ寝るわ」

「はっ、それではまた明日。ハルカ、この三人の眠り姫を運ぶわよ」

「シズクさん、この子はワタシが」

「ハクちゃん、ありがとう! それなら私がマイちゃんを、ハルカ、オトちゃんお願いね」

「ええ。ていうか、この子らサクヤちゃんの腕、離さないわよ?」

「ウチのサクちゃんはモテモテね。仕方ないから三人とも一緒に運びましょう」


 なるほど……白虎だからハクちゃんね。

 もう少しで意識を手放しそうな私はネコの背中に担がれ、部屋を出る。


「サクヤのおばちゃん、ウチらどうしたらええ? ここに泊ってもええんかいな?」

「もちろんそれでもいいわよ。でも、今日だけはおうちに帰った方がいいかな?」

「帰れつってもさ、アタシら姿がこれだし……」

「フフフ、もう入ってきていいよ」

「え?」


 お母さんの声で四人の人たちがバタバタと部屋に入って来たと思ったら、一直線にポカンとしている四人それぞれに抱き着いていく。


「お、おかん?!」

「う……そだろ……なんで」

「どうしてこの姿が自分だと」

「お、お母さま? ちょっと苦しいな? なんか力が強すぎない? 痛いよ? かなり痛いよ?! 痛い痛い痛い、ギブ~!」


 この四人の母親たち……普通の人間とは少し違うようだね。

 あの姿もおそらく擬態……ヤバイ……それよりも眠い。


「フフフ、みんな良かったわね」

「シズク様、ありがとうございました。また明日、改めてお伺いいたします。みんな、行こう」


 アズサのお母さんがそう言うと、全員それぞれの家へと帰ったようだ。

 この辺りで私の記憶はない。


 私が目を覚ましたのはそれから3日目のことだ。

 どうやら私たち三人は地上にある私の部屋のベッドで寝かされていたらしい。


 私よりも少し前に目を覚ました乙羽とマイカの会話によってそれは明らかになる。


「私たち3日間も眠ったままだったらしいよ」

「本当なの?!」

「さっきシズちゃんに聞いた。メイナちゃんも初日はこの部屋に泊っていたみたいだよ」


 なぬ?!

 生きてて良かった……。


「そうなんだ! 今どこにいるの?」

「シズちゃんたちと一緒に地下にいるみたいだよ。初日にマイカが目を覚まさなかったからかなり取り乱したって聞いたけど」

「それは……ないんじゃない? アタシ、あの子が取り乱したところなんて想像できない」


 まぁ本人の前じゃ絶対に見せないだろうね。


「フフフ、確かにアタシも想像できないかな。マイカも食べない? うちのお母さん、料理だけは絶品だからさ」

「ありがとう。頂こうかな」

「その……マイカ」

「うん?」

「改めてなんだけど……私ともその……お友達になってくれないかな」

「っ?! うん! もちろんだよ!」

「な、泣かないでよ! ずっとその……ちゃんと言葉で言いたかったから……」

「すごくうれしいの! とってもうれしいの!」

「わ、わかったよ。もうわかったから!」


 この微笑ましい空間の邪魔をしたくなくて、私はしばらく寝たフリを続けていた。

 しかしそれは、美味しい匂いにつられた私の豪快なおなかの音で台無しになったのだった。

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