129 ちきゅうへ
壁に反響して轟く銃音。
「グ、グギャ?! ギギギギ」
謎のエネルギー弾によりはじけ飛ばされた化け物は、床に敷き詰められていたトラップに叩き付けられたことで串刺しとなり、動けなくなっていた。
その胴体には大きな2つの穴が開いている。
ちなみに私でもあの化け物の胴体に穴を空けるなんて容易にできることではない。
それくらいにアイツの胴体は固くて強靭だった。
唖然としている私たちを他所に、そのエネルギー弾を放出したであろう二つの拳銃を器用に指でクルクルと回しながらその人物は言い放つ。
「神機マネシスの力を授かりし我名は、神機機姫」
マイカだ。
あれは間違いなくマイカだ。
乙羽と同じような美しい翼を機械で具現化させ、空中に浮かびながら拳銃や無数の砲台を構えているそのさまはまさに機械神。
「乙羽、今のうちに。アタシじゃあれは消滅させられない」
「え?! う、うん! ツキシス直伝、月光派!」
乙羽が両腕を大きく上下の対角にピンと広げると、両腕が発光を始める。
そのままその腕をゆっくり時計回りに回すと奇麗な満月が出現する。
「悪しき闇よ……消え去れ!」
乙羽がそう言った直後、その満月からはとんでもないほどの高出力な光のエネルギー砲が放たれた。
化け物はジタバタと抵抗するも虚しく、そのまま光の中へと完全に消え去るのだった。
「やっ……た」
私はそれを確認すると、アクシスを抱きかかえたまま二人に近づいた。
「あの……ありがとう。おかげで助かったよ」
「私……あの……」
マイカにお礼を言われても、どこかバツが悪そうにする乙羽。
お互いに気まずいのか、顔を伏せてしゃべらなくなってしまった。
さて、この状況は非常に困ってしまう。
しゃべらないのは私一人だけで十分だというのに、二人が黙ってしまったら誰が会話をするというのよ……。
頼りのおしゃべりモンスター、アクシスはまだ瀕死状態だ。
こんな時にこの空気をぶち壊すこの邪神を求めている私がいる。
瀕死なのだけれど、お構いなしに体を揺すってしまっている私がいる。
それくらいに動揺してしまっていた。
「ゴフッ?! ゴホゴホゴホ?!」
「あ、あ、あぁ! サク、ストップストップ!」
「桜夜、アクシスが死んじゃうから!」
「ゴホ、ゴホ……これは一体……なんの拷問……な……の」
「あ、気が付いたじゃん。ならいいか」
「いやいや、よくないと思うよ?! サクもそろそろ揺するのはやめようね?!」
おっと、落ち着け私。
マイカの言葉で我に返る。
それよりも、無事でよかった……マイカ。
「サク、ありがとう。アタシ、自分を見失うところだった。酷いことをしてごめんね」
「……うん」
「それと、乙羽にも……ごめんなさい!」
「あ、謝らないでよ! 頭を下げないで! 私の方が悪いんだから、一番私が悪いの! だからその……ごめんなさい」
「……仲……直り」
私は二人の手を取って、ボソッと告げる。
すると、二人とも表情が和らいだ。
「あのさ……そっちでも盛り上がっているところ悪いけど、そろそろアタシを起こしてくれてもよくない?」
「あ、忘れてた。マイカ、アクシス踏んでないかな?」
「ふぇえ?! ご、ごめんなさい!」
「……アナタの天然ドジっぷりはマネシスとよく似ているから慣れてるよ。それよりも、早くここから出ないとね」
「どうやって? アンタほどじゃないけど、みんなもう満身創痍だよ?」
乙羽の言う通り、私らは立っているだけでやっとの状態。
ただ、さっきから鳴り響いているこの地響きがかなり不安にさせてくる。
「とりあえず、この世界に残っている全員を招集しようかな。オス」
「はっ……アクシス様、ご無事で」
突然、執事の格好をした魔王が姿を現した。
その横にはあまり状況を掴めていない様子の妹っ子の姿もある。
そしてさらにその後ろには、相変わらず騒がしい四人を乗せた四神獣たちがボロボロの姿で現れた。
「この子らのせいで死に損なったよ。みんなも無事?」
「はい。みな、無事です」
「そう……まぁそれぞれいろいろと聞きたいこともあるだろうけど、まずはこの異空間から出ようか」
「はっ、アクシス様の仰せのままに」
「サクヤちゃん、そのままアタシをしっかりと抱いていてね。二人はサクヤちゃんに……もう捕まっているわね。離しちゃダメだよ? それじゃあ、いくよ」
アクシスが残った左腕をプルプルと震えさせながら人差し指と中指だけをピンと立て、「解・滅」と言いながら自身の胸に突き刺した。
すると、周りの景色が歪んで真っ暗になり、とんでもない力でアクシスの体に吸い込まれていった。
どういう状況なのか全くわからない。
アクシスの体の中に吸い込まれたかと思ったけど、私の腕の中にはアクシスの体を抱いている感覚がある。
ただ周りはなにも見えない上、ひたすらに体が吸い込まれている感覚。
両腕にはちゃんと乙羽とマイカが捕まっている感覚もあるけれど、姿も見えないし声も聞こえない。
しばらくの間はそれが続いていたけど、やがて少しずつ明かりが見え始めた。
その明かりの先の景色が高速でグルグルと回っており、見ているとかなり酔った。
やがて、その回転も収まり暗いトンネルの中を抜け出した。
目を開けると、懐かしい夕焼け空。
匂いを嗅ぐと懐かしい磯の香り。
耳を澄ますと懐かしい波の音。
ここは、間違いなくあの場所だ。
乙羽と私が初めて会ったあの、秘密の海岸……私らはその場所に並んで横になっていた。