表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/208

128 ぐげんせよ

 尋常ではないほどにマイカが泣き叫びながら暴れる。

 尋常ではないほどの痛みと苦しみに襲われているのだろう。

 正直見ているのも辛い。


「マイカ……」


 思わず声が出る。

 マイカの手を握る手にも力が入る。


 やがてボケ神の腕に巻き付く形でそれが姿を現した。

 まるで植物のツルのようなその黒い物体は無数にボケ神の右腕に突き刺さっている。


 ボケ神はその黒いツルをマイカの体から引きはがそうとしているみたいだ。

 それなら私でもなにかやれることがあるかもしれない。


「サクヤちゃん、余計なことを考えちゃだめだよ。これは見た目よりずっと厄介なものだからね。これはマイカちゃん自身に直接芽を生やしたもの……そういえばアナタなら理解できるでしょ? ここは任せて」


 どうやら私の考えは読まれたらしい。

 確かにここは任せた方が良さそうだ。


 このマイカの苦しんでいる状態を見ていると、どうしてもなにかできることはないかと冷静さを失ってしまいそうになる。


 この黒いツルのようなものは、マイカの神経細胞に直接寄生しているようなものだ。

 つまりはマイカの神経そのものだということ。


 それを無理やり引きはがしているのだから、このマイカの苦しみも理解できる。


 一見荒っぽいことをしているように見えるこのボケ神は、細心の注意を払いながら本来の神経や細胞などをなるべく傷つけないように最速で寄生している部分だけを引き剥がしている。


 だからこそ下手に手を出してほしくなかったのだ。

 正直私では手に負えないレベルの高度な技術だったから。


 どんどん黒いツルのようなものがマイカの体から出てくる。

 だけど、今まで激しく泣き叫んでいたマイカにも異変が起きる。


 大きく痙攣を繰り返したかと思ったら、どんどん呼吸も意識も弱まっていく。


「くっ?! マイカちゃん! 負けるな! 諦めちゃだめ!」

「マイカ!」

「マイカ! まだ私、あなたにきちんと謝っていないの! お願いだからちゃんと謝らせてよ! そして、私とも友達に……」


 クズ神の言葉に思わず私も声を張り上げる。

 乙羽もいつの間にか反対側のマイカの手を取って必死に問いかける。


 そして二人でボロボロなマイカの顔の額に自分たちの額をくっつける。


 お願い……マイカ……戻ってきてよ……。


 そう祈らずにはいられない。

 なんでもいい。

 お願いだからマイカを返してほしい。


 マイカ……


「くそ……このくらいでヘバってんじゃないわよ! 許さないんだから! 絶対に許さないんだからね! さっさと戻って来なさいよ……バカマネシス!」


 まるで子どものように泣き叫びながら、クズ神はマイカの体から黒いツルを全てはがしきった。


 すると、一際大きく体をはねさせたマイカはゆっくりと時間をかけて目を開ける。


「……心配かけんじゃ……ないわよ。バカマネシス……うあ゛ぁ」


 ボケ神が膝から崩れ落ちたかと思ったら、そのままうつ伏せの状態で突然苦しみ出した。


「ワタクシの愛しいアクシス……この子とワタクシを助けてくれてありがとう」

「アナタが本当のマネシス? マイカは?! マイカは無事なの?!」


 乙羽がすかさず問いかける。


「はい、ちゃんと無事ですよ。もうじき目を覚ますでしょう」

「……よかった」


 その言葉に私と乙羽は安堵する。


「すみません。今度はマイカとワタクシを助けてくれたこのアクシスをどうか救っていただけませんか? 今この子を救えるのはあなた方だけしかいません」


 それにはきとんと応えよう。

 乙羽と互いに目で頷き合う。


 このボケ神……いや、アクシスは言っていた、

 私に右腕を焼き切れと。


 おそらくあの紫色に変色した右腕はもう寄生されているんだろう。

 それが今にもアクシスの体本体まで広がろうとしている。


 これも私の手出しを拒んだ理由だ。

 つまり、私にも被害が及ばないように自らの体だけを犠牲にしてマイカを救ったということ。


 そこまでしてくれた相手には、私も全力で応えたい。


 私は糸を操り、アクシスの右腕に糸をきつく縛り上げる。

 そして、神成の力で背中に雷丸を作り出す。


 そして大きく深呼吸をした後に、アクシスの右腕目掛けて雷撃を纏わせた雷丸を振り下ろした。


 今の私が出せる最速の剣筋で肉を裂き、骨を断つ。

 同時に雷撃でその傷口を焼いて止血する。


 ただそれにはとんでもない痛みを伴う。


「あ゛ああぁ!」


 右腕がアクシスから離れたのを確認すると、すぐさま糸で傷口の応急処置を済ませ、抱きかかえながらその場を離れる。


 よし……一応はうまくできたと思う。

 ただもうアクシスは本当にギリギリの状態だ。


「オトハさん、危ない!」

「えっ?! あぐっ?!」


 乙羽の苦しむ声にハッと振り返ると、アクシスから切り離した右腕が一人でに動き出して乙羽に危害を加えたようだ。


「桜夜、ダメだよ! アクシスがいると神光の力が使えない!」


 思わず、駆け寄ろうとする私を乙羽は制止させた。


 アレを完全に消滅させるには乙羽の神光の力が必要だ。

 ただ、近くに瀕死のアクシスがいると巻き込んでしまう。

 だから私はなるべく光が届かない場所まで離れる必要があったのだ。


 ここは乙羽を信じるしかない。


「くっ……動きが速くて、力を発動出来ない」


 乙羽の攻撃は強力な分、発動までに時間がかかる。

 その間に邪魔をされて翻弄されている状態だ。


 アクシスの右腕だったものはその間にどんどん姿を変化させ、原型を残していない。

 もはや奇妙な生物へとなり果てたアクシスの右腕は、尚も乙羽を翻弄し続ける。


「ギギギ、ギィ……ゴギャァアア!」

「くっ?! やばっ……」

「乙羽?!」


 その化け物は口のようなものから鋭い牙を広げ、今度は乙羽に寄生しようとしていた。

 闇の力の根本ともいえるアレが乙羽に侵食すれば、無事では済まない。


 だけど、この位置からでは私のスピードでも到底間に合わない。

 絶体絶命のピンチだった。


「具現せよ……マグナレク」


 今にも乙羽の横腹付近へ牙を広げて噛みつこうとしていた化け物が、突然背後から直撃した謎のエネルギー弾によってはじき飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ