014 けっちゃく
チャタテムシの連続殺人攻撃をギリギリいっぱいで必死に避けながら手裏剣を投げ続ける私。
だけど、こちらの手裏剣はまったく届かないし、逆に向こうの攻撃を回避できずに腕や足、脇腹などにかすり傷が増えていく。
未来視で予測しながら避けてこれだからマジで嫌になるよ。
攻撃がわかっていても、相手の魔法発動スピードが速いのと、上下左右の壁から5mは伸びる槍や10本の矢という手数の多さから全ての攻撃を避けきれない。
しかもこれ……意図的に壁際に追い込まれているよね。
魔物はあんまり頭がよくないって勝手に思っていたけど、そうではないらしい。
こいつの勝ちは、槍や矢を私に突き刺すか、上下左右にある氷の中に取り込むかのどちらかだ。
向こうとしても、私がここまで攻撃を回避できるとは思っていなかったんだと思う。
だから、氷の槍とか矢とかを上手く使って氷の壁に追い込む作戦に切り替えたんだわ。
やめてよねぇマジで。
こっちは一発でもまともに当たったら即死亡なのに、その上さらに追い込みをかけてくるなんて鬼畜過ぎっしょ?
そんなに幼気な幼児を痛めつけて楽しいかい?
私のなんの恨みがおありで?
手下を殺したから?
それは勝手に落ちてきて死んだだけよね?
最初の一匹目もダニ団子に潰されたわけだし、私関係なくない?
それとも勝手に住処に入って来たから?
巣を荒らすやつは絶対に許さん的なあれ?
それならまぁ、わかんなくもないけどね。
生物は自分が住んでいた場所を荒らされるのはとても嫌がるしね。
いくらこっちが知らなかったんだよぉって弁解しても魔物相手じゃ通じるわけないし。
私の場合、人間相手でも通じることはないけどさ。
さて、こんな考え事をしている間に私はとても大ピンチだ。
四角い部屋の上の隅角に追いやられてもうどこにも逃げ場がない。
ここまで追い込まれたら槍か大量の矢で串刺しになるか、氷の壁に取り込まれて凍死するしかない。
まさに王手だね。
チャタテムシのMPはもう残り少ない。
もう一度大きな魔法を発動すれば、それも枯渇する。
でも、もう次の一手で私は間違いなく死ぬ。
チャタテムシもそれを信じて疑わないから、躊躇なく魔法を発動した。
しかも、念には念を入れている。
とどめに選んだ魔法は氷の弓の魔法だったけど、10本じゃなくて、魔法の重ねがけをして20本にしやがった。
これでもう絶対に矢からも氷の壁からも逃げることは不可能であり、死というものが確定した瞬間でもあった。
私は空中で止まり、大量の矢をそのまま受け入れた。
次々に私の体に風穴を開けていく氷の矢。
その中の一つが心臓を貫いたと同時にガクッと項垂れて絶命した。
……と、チャタテムシは思ったはず。
そう、私は死んでいない。
だって、それを私も見ているから。
『忍法、身代わりの術』
私が術を解除するのと同時に、矢で貫かれた私がパラパラと桜の花びらに姿を変えて舞い散った。
「ッ?!」
チャタテムシはなにが起こったのかわからないといったところだ。
そりゃ、殺したと確信していた相手がいきなり花びらに変わっていなくなったと思ったら、急に目の前に立っているなんて思わないもんね。
ごめんね。
簡単に死んでやるつもりはないんだ。
以前の私ならどうでもいいとか言って、ここまでやらなかったと思う。
あなたたちほど生に執着しているわけでもないし、明確な目標があるわけでもないから。
でもね……私の大切な人が言ったの。
『生きる理由なんて、わからなくてもいいじゃん! それがわかるまで生きてみたらいいんだよ!』
私が自分に生きる価値を見出せないでいた時、乙羽が言ってくれた言葉。
『ちなみに私の生きる理由はね、あなたを守ること。それだけは覚えておいてほしいな!』
この言葉とあの笑顔がどれだけ私に力をくれたことか。
それから私の生きる理由が『私を救ってくれたこの子を守ること』になった。
そして、私はあの時、乙羽の命を守ることができたと思う。
それが生きる理由だったから。
不本意ながら、また命を与えられたのなら、また生きる理由をさがしてみようと決めた。
それがこの世界にはいない、乙羽との誓いのような気がしているの。
だからごめん。
あなたに殺されるわけにはいかないんだ。
今を生きるため、私はあなたを殺そう。
『忍法、蜘蛛糸の術』
MPが無くなり、逃走をはかろうとしていたチャタテムシに無数の糸が絡まり、拘束した。
実はこの糸、私が空中で逃げ回りながら投げていた手裏剣につながっていたのだ。
私はただ闇雲に手裏剣を投げていたわけではない。
まるで蜘蛛が糸で巣を張るかのように複雑に絡ませ、強度が増すように狙って投げていたのだ。
この糸は、細くて柔らかい透明の糸であり、地面から氷の槍が出ようが、途中で矢が当たろうがスルリとすり抜けてなにも影響がないから気が付くはずもなかった。
そしてなにより、簡単には切断できないほどに強くて丈夫だ。
この細い一本の糸で約1トンの重量にも耐えられる。
もちろんこの糸を重ねれば重ねるだけ強度は増す。
その特殊な糸でがっちりと拘束されたあなたにもう逃げる術はない。
最後にこの一本の糸を引けば、あなたの命は終わる。
ありがとう。
あなたは私が生きる理由を思い出させてくれた。
そのおかげで、真っすぐに向けられたあなたの殺意に、真っすぐな想いで向き合うことができたと思う。
『忍気忍法、糸首斬断の術』
忍気を発動した状態で、目の前にある一本の糸を手に取り、思いっきり地面近くまで引っ張った。
すると、チャタテムシの首に巻かれていた糸がもの凄い力で左右に引かれ、そのまま首を刈り取った。
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